昔から作家の嫁と言うものは夫が不遇の時代に縫い物など内職して支えた物だ。お前ももう少し見習ったらどうか。
と言ったら、
「配偶者に対する著しく不誠実な言動」
だと裁判所から通知が届き、結果妻は堂々と出ていった。
私は近所のコンビニエンスストアで働くより道は残されて居なかった。
私は画家だ。
しかし絵はなかなか売れない。しかし画家は絵を描かなくてはならない。しかしコンビニエンスストアで働いていると絵が描けない。
しかし画家は絵を描かなくてはいけない。
しかし売れない絵を描いては生活が成り立たない。
私は毎朝仕事から帰ってきて、新しいカンバスを組み立ててから寝てしまう生活が続いた。
部屋のなかに白いだけのカンバスが折り重なって行った。
絵は描こうとしてもなかなか描けない。普段から描けない絵は時間がないと猶のこと描けない。
白いだけのカンバスは毎日増えていく。それでも私は無い時間を工面して絵を描いた。
画家は絵を描かなくてはいけない。
描いた絵はなかなか売れなかった。
私は途中まで色を塗ったカンバスを眺めながら、しばし手が動かなくなった。
この綺麗な色の絵画を何故誰も買おうとしないのだろうか。描いている途中から売れないことは分かっている。
画家は絵を売らなくてはならない。
絵を売るためには画商に取り入らなくてはならない。しかし私が交渉している画商はどこも私が絵を持ち込む事を喜ばない。
私は絵を描きながらそれでも首を傾げてしまう。
どうして誰も買ってくれないのだろう。こんなに綺麗な色なのに。
私は眠い頬を叩き、絵筆を取りながら出ていった妻の事を思った。
妻は私が絵を描いている間何をしていたんだっけ。
画家は絵を描くものだ。
絵を描いている間は他に何もしてはいけない。私は妻が家にいた間絵を描く事と絵の話以外はしなかった。
私はコンビニエンスストアで働くようになって随分してから、
私が絵を描いている間妻が家の外で働いていた事に気づいたのだった。