小説「雲みたいに消えてしまう」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

上空はきっと風が強い。今そこにあった雲がもうない。

梅雨の晴れ間の6月に、市中陸上大会が終わった。テントを片付けているさなか、空を見上げていたら先輩に怒鳴られた。

私は今日の大会に出なかった。コール落ちしてしまったから。

私は走り幅跳びの選手だった。競技開始前の選手確認を

コール

と言うのだが、このコールに間に合わないと自動的に棄権扱いになってしまう。これをコール落ちと言う。

私はコールに間に合わなかった。

開会式のあと先生から厳重に、
必ず自分の種目の開始時間を確認して決してコールには落ちないように、
と言われたに関わらず。
ひとかたなしに叱られた。

上空はきっと風が早いのだ。
さっきまで、今が綿の腕を長く延ばして沈んでいく夕陽を名残っているような、
薄い雲がはっきりとそこに居たのに。

もう居ない。
赤光も止めどなく弱くなる。

私は走り幅跳びなんてしたくなかった。

U中学校 と校名の入ったテントを畳ながら、私は喉の奥がきゅりきゅりと痛かった。