小説「風船だなんてどういう訳だ」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

獏の仕事について説明を聞いた私は、あまりのずさんに声を揚げてしまう。

「事によって風船だなんて。何を考えているんです。」
私は思考管理協会認定の思考管理士の資格をこの春取得し、就職活動の真っ最中である。

今日は獏の事務所に職場見学に来たのだが、

その場のあんまりな光景に初め冗談かと思ったくらいだった。

風船だなんて。
獏は思考に於ける夢の制御が専門の業種である。

悪い夢、本人や周囲に悪影響な夢を回収して処理するのが主な仕事だ。仕事なのに。

「なんだって悪夢を風船なんかにしまっておくんです。」
私は事務所の天井でおでこをぶっつけあっている大小とりどりのゴム風船を指して獏に訴えた。

「破裂でもしたらどうするんです。
ほら、こんなに窮屈で。」
「そりゃあまあ、破裂もしてもらわないと困るから。」

獏は熱の籠らない声でのすのすと喋った。

「悪夢が解き放たれないとこまるでしょ。」
「こまる?」
獏は次のように話した。

「悪夢を回収するにはそれは簡単です。
簡単ですが他にもって行き場がないんですよ。独りでに無くなってくれる訳でもないですし。
こうしといたらいずれ何処の事務所でも置き場一杯になってしまうでしょ。
だからこうして風船に積めて、時々は破裂してもらうのですよ。そうしたら悪夢は人の頭の中に戻って行けますからね。
いいですか。
誰かが悪夢を見続けてくれることで、思考世界の悪夢量は一定に保てるのです。
誰かの頭に常に悪夢があることが大切なんですよ。
そうしたら、新しい悪夢がこれ以上増えずに済むんですから。」