小説「トラ・プロバイダ」貧乏人編 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

貧乏な国が必ず欲しがるものがある。

そして貧乏な国は往々にしてたった一人のために貧乏である。
王様の居る国など特にそうだ。 今私の目の前に居る。 貧乏な王様が居るのだった。 王様は困っている。国にお金がないのである。かつどうしても欲しいものがあるのである。だが国は貧乏だ。貧乏にはほしいものを買う力なんてない。 しかしどうしても必要なものなのである。 国が国としてあるために。

私は王様と言うものが嫌いだ。
強いていうなら前世紀的な王様が嫌いだ。
が、前世紀的だと思うのは私の感受性であり、当の本人は至って真面目である。 至って真面目な王様なのである。至って真面目に考えている、国の将来を。
でも私はそういう王様が好きでないので、王様とは話そうと思わなかった。
死神は私が王様に認知されないように細工してくれたので、仏頂面して紙束をめくっている王様の、無精髭までよく見える。 貧乏な国の王様は必ず太って居るのだった。
「理屈は分かるよ。理屈は分かるともさ。」
私は死神と話す。
「貧乏な国が自立していくのは大変だからね。」
「自立のための攻撃力は確かに必要なんだ。」
と死神も言った。
「ただ攻撃力ありで自立出来るのは金持ちの国だからなのだよ。攻撃力あり、と言うのは 攻撃力を使わないで住むと言うことなんだから。」
と死神の言。
「この王様は貧乏だね。」
「うむ。間違いなく貧乏だ。」
「なら間違いなく使って仕舞うだろうね。」
「そう、間違いなく使う。あと十年生き延びたら、彼があと十年生き延びたら彼は首尾よく欲しいものを手にいれるから。」
「貧乏人ていうのはとにかく使うために物を欲しがる。 貧乏な癖に消費が好きだ。」
「ご明察だ。」
死神が言った。
「だからこそ私の理想に叶うね。彼は本当に、うってつけだ。」
「ではこの王に君の余命を十年分与えよう。」
「それで私の余命はあと十年だね。」

続きます。