小説「青田を打つ雨の香り」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

青田を打つ雨の香り

と言う名前のアロマキャンドルを雑貨屋で見つけた。
そんなバカな、と思いながらも、里心がうずいた。

郷里はぼちぼち田んぼに水を引く季節である。
田に水を入れて、代かきをする。
春から育てていた苗を、機械と手仕事で植えていく。

思い返せばそんな光景からどれだけ遠ざかったろうか。
体内に田植え雨の匂いが火を着けたみたいによみがえる。それはハッカの匂いだ。

別に青田がハッカの匂いなのではない。
しかし鼻から全身を抜けていく感触、一瞬で感じ一瞬で忘れる。
しかしその一瞬の間に、私の体液は光る青色に確かに変わる。

電光石火、半永遠に、繰り返す波のように。

郷里では6月とはそうした季節だった。
むずむずするようなギラギラするような匂いで溢れていた。

そういう6月を、もう大分過ごしていない。休むことなく時は運ぶ。私はしばし故郷を思う。

でも私は隣にあったエスプレッソの香りのアロマキャンドルを買った。

青田を打つ雨の香りは、信頼するには斬新すぎる。