いつのまにか彼は背骨というより、
背骨が人のカラダに入っている、いや
人のカラダに入っている背骨
それが気になって堪らないことに気がついた。高校生になっていた。相変わらず彼は同じような後ろ姿を見つめている。見つめ続けている。
教室の後ろ側に座っていれば、必然たくさんの後ろ姿が目に入る。
彼はいつも、おんなじような後ろ姿を見つめていた。紺色の襟元から延びて髪の毛に覆い隠されるまでの、
焦らすような10cmから目が離せなくなった。
そこには背骨があるのである。その先に、その続きに見えないけれど、隠れているけれど、背骨がある。たしかに背骨があるのである。
彼はそのことで頭がいっぱいになった。
背骨、背骨。背骨。
彼はいつのまにか、背骨がひとつ欲しい。
背骨がそこにあることが問題ではなくなっていた。彼は背骨が欲しい。フィギュアとレプリカで満たされていた興味が、
新しく変化したのである。背骨が欲しい。彼は強く思った。強く思うようになっていた。17才だ。背骨が欲しい。背骨。より正確には脊椎という。この言い方は理科の時間に身に付けていた。
脊椎。
いびつな形の脊椎。でも実際に見たわけじゃない。実物を本当に見たわけじゃない。本当に見るということは、
本当の背骨を、本当の脊椎の一片を、自分で手に入れて、自分の手に取って、自分のただ二つきりの手のひらの上に乗せて、それはレプリカではなくて、プラスチックとかシリコンとかグラスファイバーやカーボンナノチューブで出来ているのではなくて、
骨なのだ。
本当の骨であってほしいのだ。
本当の骨?
それはどうしたって、人間のカラダに入っているのではならない。人間のカラダから出てくるのでなくては、それは本当に骨とは言えない。本当の骨でなくてはいけないのだ。
本物の背骨、実際の脊椎。
彼はいつのまにかそういう欲求に急かられるようになっていた。
脊椎が一個欲しい。
彼の目は、「その」背骨を探すようになった。その背骨。自分のものになってくれる背骨。
自分だけの背骨。
彼の目はそういうふうに物色を始めていた。
自分だけの背骨。
自分の手のひらに収まるための背骨。一個の脊椎。彼の目はそれを物色していた。
さてどの背骨がいいだろう?
上皮、真皮、皮下脂肪、血管、筋肉、神経系、リンパ液、間質液、
の下にある白い背骨。一個の脊椎。白いだろうか? 見れば分かる。
彼は紺色の襟元から延びているもの、その下に背骨がある。
それを、狂おしい目つきで物色した。密林で新奇な虫をさがすような目で、地層の隙間に太古の欠片を掘るような目で、曇った夜空に太陽を探すような目で、狂おしくそれを物色した。
さてどの背骨がいいだろう?
続きます。