「軍人の分際で人もよう殺さんか。
豚を殺す積もりなら精肉所へ行け。」
気味の悪い子どもだった。大陸の奥地の小さな村での作戦だった。
否。作戦なんかではない。
趣味と言える。
本部からの通達は、あくまで 訓練 であった。
戦線が膠着している今、今一度装備の不具合を試験するための
訓練だと。そのために山あいの少数民族の村を襲撃しろと。
つまり上官殿は退屈していたのだった。部隊にも本部にもなんら戦果をもたらさない作戦である。
ともかく我々は 命名 に従って小さな村を撃ち尽くした。
事実われわれも暇をもて余していたのだ。軽い気持ちで出掛けた。
「猿を何匹か仕留めてこようぜ。」
そう言って、数十人もない村を撃ちのめした。
あの子どもを撃ったのは自分だけだった。
屋根裏からも床下からも、隠れていた村民を引き出して、引き金を弾くだけ。
じゅるるるるる、どん、どん、
年寄りばかりだった。みんな何も言わずにたおれた。それきりだった。
張り合いがねえなあ。
と誰かが言った。
弾が無駄にならんでいいよ。
と誰かが言った。
子どもは鍵の懸かった小屋の中に居た。鍵は外側から懸かっていた。
が、子どもの虜囚でない証しには、部屋の造りは貧村にそぐわないほど豪華であり、壁は何条もの鮮やかな巾が垂らされ、玉座とも寝台とも見える台座には綿いりの腰当て布団が山を為していた。
そして今朝にも活けられた華の香りが、
戸外の悪臭をも消さんとしていた。
その中心に子どもは居た。
男児とも女児とも、いくつとも峻別つかない異民の子ども。埋もれるように纏っているこれまた豪勢な衣装。
りん、ぽ、ちえー
とでも言うのだろうか。村民の信仰の担い手であるのは明白だった。
「猿を撃ちに来たのか。
ふざけた連中だ。仮にも貴様ら軍人だろう。
今が戦時でここが戦場ならば、
貴様ら唯一人殺しを合法な人間であろうが。
法は正義だ。
法で守られる殺人は正義だ。
しかし貴様、私を豚を撃つ都合で撃つつもりか。
呆れた異人だな。」
気味の悪い子どもだった。
子どもは明らかに現地の言葉で喋った。
しかし自分にはその意味が、
余さず理解出来たのだ。
「人を殺せ、軍人よ。
でなければ貴様の正義に貴様で泥を掛けることになるのだぞ。
貴様に赦された法に示して、
私を人として殺せ。
軍人。」
自分はその子どもを撃って死なせた。
子どもの言葉が耳を離れない。
自分は合法的に殺人出来る人間なのだ。
頭から離れない。
作戦が終わり、本国に帰ってから、自分は警官に採用された。
自分はケンカや強盗の現場を駆け回った。
抵抗するものや身振りの怪しいものは直ぐ様撃った。
撃った自分を誰も変に思わなかった。自分は確信を厚くした。
自分は殺人が合法な人間なのだと。
法の基に人を殺して可いのだと。
あの子どものことが耳から離れない。
自分は正義とその遂行に祟られたように昼夜なく街を歩いた。
自分は豚を殺したのではない。
人を殺したのだ。法に由来する正義に従って人を殺したのだ。
自分はその法と正義に従った。自分は軍人だったのだから。
軍人は法に由来して人を刈るのだ。
自分は、自分がもはや法の外側に逃げ出せないことに気付いた時、
すべてが台無しになったのを知った。