僕は幸せにでもなることにした14 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

春になっていた。五月。年明けの元日も僕は仕事をしていた。一月一日の午前零時に仕事をしていて、一月二日の十九時にも仕事をしていた。一月三日の八時にも仕事をしていた。

 年末年始は休みを取りたがるバイトが多い。学生は故郷に帰っていく。そんなに帰りたいんならどうして遠くの学校に行ったんだろう。不思議だ。そんなに顔を見たくなるんならどうして遠くの大学に行かせたんだろう。不思議だ。不思議なことは多い。不思議なことの中には時々興味深いものが含まれていたりする。

不思議なことを探して追求していったら幸せを感じることが出来るだろうか

 僕は段ボールを運びながら頭の中で字にしたんだけど、紙に書くことは出来なかった。そんなこんなして年末年始の分の手当てが出たりして、ちょっと裕福になったりだからと言ってなんの意味もなかったりしながら、いつのまにか五月になっていた。

 相変わらず瀬尾さんの手紙は届き続けた。僕は一度もレスポンスを返さなかったけど瀬尾さんからの手紙は週に一回くらいは必ず来た。

 瀬尾さんの名前でSNSを検索してみたりすれば、連絡を付けることが出来るのかもしれない。でも僕はSNSを使った事が無いのだ。

素性の確かでない何人かのひとびとと

当たり障りのない会話を続けることが出来たら幸せを感じるだろうか

 僕は裏の白い紙に書いて壁に貼り付ける。書いたことを三度ほど読んでみる。そしてやっぱり、と考えて、丸をつけ、保留、と書き足した。素性の確かでないひとに繋がりをつけることに関しては、保留。

 瀬尾さんの手紙は届き続けた。

『従妹があかちゃんを生みました!

二十三歳の若さでできちゃった婚だったんですけどね。

本人たちはいずれはこうなることだったんだからなんてしゃあしゃあと結婚しましたが

けっこう古風なそこんちのおじさんはげっこと怒っていました。』げっこと?

『そしてあちらの親御さんは申し訳ないと謝りに来て、彼氏と三人で頭まで下げて

あとで従妹がむりむり怒っていました。なにあれ、って』むりむり?

『でもそんなごたごたはあかちゃんが生まれてしまうと吹っ飛んでしまうものです。

おじさんは 順番が違う、とかモラルのある娘に育てたのに、とかって

言ってたのもどこふく風、初孫にでれでれしっぱなしです。

あかちゃんがいる空間というのは、人にしあわせをはこばないでしょうか。』

子どもが生まれるという可能性

 と裏の白い紙に書いて瀬尾さんの手紙の隣に貼る。

その予定は全くもって無し!

 と別の紙に書いてすぐ下に貼り足した。やれやれ、だ。 

『なんとモンゴルに旅行に行ってしまいました! いえーい

信じられないくらい寒くてそして真っ暗でした。何にも無いから。

星空は期待したせいかなんとなく裏切られた感じです。

でも知っている人が一人もいない空間に居るのって飛びぬけた感じがします。』

全然知らない人ばかりの土地に行ってみる

 と僕は裏の白い紙に書く。かといって現状と大差なし、とも並べて貼り付ける。

『良くないお知らせです。別の大学の正助手採用試験に落ちました。

とてもくやしいです。やはり私はイノベーターにはなれないのでしょうか。

安定した職を得たらしあわせになれると思いますか?』

毎年三百万円も必ずもらえたら幸せになれるか

 僕は裏の白い紙に書く。そりゃそうだ。続けて書く。

取り合えず自力でそれだけ稼げてそれが何十年も保障されていて、それで幸せになれないんなら始末に終えないなあ。

 しかし書いてからうーんと考え直してしまった。そこで続きを書く。

右のような状態で幸せでないサラリーマンは、多い。

 最近は紙を最初に壁に貼ってから言葉を書き出すようなった。僕の家に裏の白い紙はまだまだたくさんある。

『山奥でおひゃくしょうさんが経営している、野菜ばっかりのレストランに行きました。

その日の朝に状態の良かったものでメニューを作るので

毎日違ったものが出るのだそうです。物が無いと、

今日は味噌汁だけ! なんてなるんだそうです。そういう型のないやり方が受けていて、

わりと繁盛しているみたいでした。

毎朝五時に起きて畑の草取りや新しい作付け、その日の収穫を行い、

九時に今日のメニューを決めて開店準備、

十一時から三時まで営業して、店の片付けをしたらスーパーにパートしに行くんだそうです。お店と畑だけじゃ食ってけないそうです。

あまった野菜は近所のおばあさんにあげちゃうんだそうです。

裕福というわけにいかないのでしょうが、どうでしょ、こんなくらし。」

帰農

 と僕は書く。

リスク高し。しかしリスクにしり込みしていたらなにほどのことも成し遂げられない

 と僕は書く。そして、

しかしそんなこと言ってリスクを省みない人間が結局は周囲のひとたちに迷惑を掛けるだけで終わる

 続けて書く。一つの話題を出来るだけいろんな角度で考えてみる。ペンとインクを使って自分の脳を転がす感覚で。脳というやつは丸い形をしているんだから転がすにはいいもののはずだ。自分で見たことはないんだけど。