なんて忌々しい天井だ。
早朝の照明板をみておれは苛立っていた。
昔は,
天を憎んで甲斐なし
とか言ったようだが、しかし天井を憎んだらどうだろう。
誰の気に触るとは思わないが。しかし天井を憎んで、甲斐がないのは天にそれと同じことだ。しかしおれにはあの天井が何もかも悪いんだと言う思いが、どうしても頭を離れないのだった。
照明板が明るくなって朝が着たので、おれは眠る気にもならない頭を連れたまま、
いろんなモーターがきゅりきゅり云い始めた住宅地をとぼとぼ歩いていた。
夕べは選抜試験のための資料を隅から隅まで、
何十回と、
内容をすべて、一言も漏らさず理解せんと、
読み通していたので徹夜してしまった。選抜はおれにとって恐怖だ。最大の恐怖だ。それ以上の何者でもない。
だからこそ、
おれは光り始めてまだよわよわしいドーム天井の灯りを、
忌々しく感じてとめどがないのだった。
400年前、ワールドベース設置の計画が国連会議で可決された時60億人だった人類種は、
それから200年の「大激減時代」を経て結局30億人まで減りこんだ。
ワールドベースの平均人口は1千万人で、24世紀を目前に合計100基が確立された。
つまり地上に居た3人に1人が、極冷環境の中にとりに越されたというわけだ。
「大激減」の理由は分からない、仮説はあるが明らかになっていない
というのはいかにもしれっとした言い分だ。意図的に減らしたんだと考えるほうがよっぽど自然じゃないか。
一方確かにこれといった理由も無い事にも一理ある。
激減の原因は何世代も前から各地に存在していて、時限爆弾のように発動の時がくるのを荒く息をころしながら待っていたとも考える。
そんなことはどうでもいい。
とにかくおれの先祖は大激減も3/1の確率も乗り越えてベースに収容されたのだ。
おれが今ここに居ることがその証拠であり、
その証拠であるということが既になにもかも
終わっちゃってる
証拠なのだ。眠いだけじゃなくておれはとにかくいらいらしている。
なぜおれをこんな日の射さない世界に閉じ込めた。
ドームの天井は常に一定に明るい。
かつてネイティブが経験したような「気象状態」を人類種が忘れてしまわないために、
雲、
とか
乱気
のようなものが投影されることもあるのだが、基本的にいつでもどこでも同じ明るさだ。
確かにネイティブの世界でも、明るさだけは誰とっても平等だったらしいけど。
太陽が存在することと死の訪れのみが
我々にある唯一の共通項だ
大昔の悲惨の時代に(大激減と似たようなことが起きたらしいんだ)、諦めをこめてそんな認識が当世の人々に流行した。
今もドームに暮らす俺たちにとって、何処まで行こうが
灯りもくらがりも平等だ。おれの上にだけ闇が降るなんてことはない。
しかし太陽はもはや存在しない。
少なくともおれにとってはもう二度とその姿を現すことがないのだ。
おれは選抜ではじかれることが恐ろしくてたまらない。
たまらないのだ。
小峰のようなやつはまったく理解を超えた存在だ。自分から選抜を辞退するようなやつの心理をおれは理解できない。けして理解出来ない。
怖いんだよ。
おれは死ぬのが怖い。怖い。はっきりいって死にたくない。
だからおれはなんとしても選抜を突破したい。選抜を突破するために、何をするのが必要か頭に叩き込むため、
昨日一晩を使って資料を読み漁った。
そして今、透明に光り出した天井を睨んでおれは吐き気が込み上げてきそうだった。
あのときおれの遺伝子がこの中に閉じ込められたりしなければ、
今こんなよすがのない恐怖におれが苦しむことなんて、
そんなことにならずに済んだはずだったのに。