「あれって全部電気なんだよなあ。」
夜だった。
だから時間的に照明板が暗く、省電力帯に入っている。
そして氷宣のやつが当たり前なこと言うから、僕は足を止めたのだった。
「当たり前だろ。照明板のピンポイント発光。」
僕は“空”を指差して氷宣のやつに言ってやった。
「今電力制限中だから、光ってるとこ少ないけど、でも電気には違いないだろ。」
「川に見える。」
僕たちは選抜試験のための特別教習から家に帰る途中で、だから時間は遅く、夜だった。
特別教習を受けられる子どもはそう多くない。
まず両親のベース内活動における実績や、遺伝的資質が細かくチェックされる。
そこで、
非常にすばらしい
と言う評価が付く奴は選抜をスルー出来る。ストレートに生存枠行きだ。
従って僕と氷宣の親は、生存枠には居るものの、なんとなくびみょーな成果しか残してない。しょぼい遺伝形質の可能性大な家系なんである。
だからこそ、僕と氷宣の親は割りと複雑なリスクを背負うのを条件に、特別教習クラスに僕らを入れさせたのだった。
なんとかして子ども達を生かす為に。そしてその理屈は、僕にはよく分からない。氷宣なら分かるかもしれない。あいつの方がドーム内で遺伝子を運搬した率が高い。
僕はドーム2世で、ドームが出来る前にいた人達、ネイティブの要素の方がまだ強いから。
「昔はあれ火だったんだぜ。」
「火?」
「でかい火なんだ。星って言うんだ。
それであの、川見たいのほんとにあって、天の川って言ったんだ。だから今でもそれっぽくしてるんだろうな。」
氷宣が言った。僕たちは住宅地行きのバス停にたどり着いて、持っていたチキンフリットの残りを代わる代わる摘まんだ。チキンは20世紀には既に安定的工場生産が確立した、
優良タンパクなんだ
と父さんが言ってた。
「ジェリコは選抜通りたい?」
冷えたチキンをかじりながら氷宣が聞く。
「別に。たいして。てか何でわざわざ書類審査以上にエグサミネーションまで必要なのかわかんね。選抜に通らないなら、僕は別に構わない。」
「おれは通りたい。」
氷宣が静に言う。
「どうして。」
「外行きたい。」
「外? 外ってなんだ?」
「“環境調査隊”。十年に一回くらいのペースで、外に出ていろいろ調べる人達がいるんだ。ベースの外に出るんだよ。」
僕にはよく分からない話だと思った。
「そんなことしてどうするんだ?」
「生きてる生物がいないか調べる。それか、少しずつニンゲンが外の環境の中でも滞在していけるように、資材を運んでミにベースを作ってる。おれはそれに入りたい。」
「なんで?」
「父さんも行った。」
氷宣の親父さんのことなら良く知ってる。教示図書にも載ってる。
“人類種の進歩の為に多大な貢献をした
山本・劉・和明・ダイク氏。”
でも何をしたのかは知らない。そうか。この世界の向こう側に行った人だったのか。
「氷宣。氷宣の父さんは、そとで何をしてたんだ?」
「病気にたくさん感染した。」
と氷宣は言った。
氷宣はこんなふうに話した。
ドームの中は温度や空調が完全にコントロールされてるから、ドーム以前のネイディブな雑菌や病原菌が死滅してしまった。
このままではドーム世代は徐々に免疫力を失ってしまう。(免疫力っていうのはニンゲンの体が菌類を駆除する場所)
だから氷宣の父さんたちが定期的に外に出て、まだ生き残っている何らかの菌やウイルスを、身体にストックして戻ってくる事が絶対に必要だったのだ。
でも感染したまま帰って来れない人も居る。
氷宣の父さんはその数少ない帰還者の一人で、
今でも脳死の状態のまま、体の中のウイルスをサンプリングしたり、抗体を作る実験に
協力
したりしているんだそうだ。
氷宣の父さんのお陰でいくつか培養に成功した病原菌も既にある。
そういう致死性の低いものは時々空調に混ぜられて、僕たちが風邪をひいたりお腹を壊したりするように
操作
されていると氷宣は話す。
「だからおれも外に行きたい。」
氷宣は闇の中にピンポイントで光る電気を見ながら言う。
「それでできたら星、ちゃんと見てみたい。」
と言った。
*分かりにくさを避けるための説明
さるお姐さまから
「宮沢賢治先生の『銀河鉄道の夜』
っぽいお話造って見ませんか?」
というおそるべき無茶振りをいただきました。
「できるか!!!!」
と、当然思いますよ。しかしそこはせっかくの無茶振り。
自分は、賢治先生のこのお話について
『僕はもうどんなに辺りが暗くとも恐れない。
どんなにでも先へ進んでいく』
という主人公の邂逅、それと不在の父という設定が
印象深く、
この二つだけ取り出して、
力任せに書いてみましたとさ。
とさ↓↓↓