「もう20時間ほどでこの島のダイナモは完全に崩壊する。」
という情報を受け取ったのは、
自分が最後だった。
と思う。
自分はその4,5日前からおっそろしく時間のいる仕事に没頭していたので、
電力発現器に致命的なアクシデントが発生して、
もうこのうえは取り返しが付かないので、
全島民緊急離脱
ということになっていたのを、全く知らなかったのだった。
隣に住んでいる4人家族の岡崎さんや、はす向かいの雑貨屋のおやじなんかが
わらわらわらわら逃げ出していっているあいだ、
自分はやっと片付いた仕事に安堵して、
安駄というならこれ以上ないくらい
うすぎたない安眠に休んじていたのだから。
なので自分が起きだしたときにはもう緊急警報すら止まっていたし、
なんだか静かだなあと思いながら家のあたりを散歩していたら、
慣れ親しんだ街角に人っ子一人居ないことに気付いたのは
ダイナモの崩壊まできっちり20時間になっていた時だった。
情報がなく、
訳が分からず、
途方にくれた自分はとりあえず島の公民館に出かけた。
公民館に、人は居た。
しかしそれはこれまで見たことも関わったこともないような
荒くれた硬肉ばった野卑っぽい男達ばっかりだった。
「あのう。みんなどうしたんですか。」
自分のまぬけな質問に対して、あらくれ男達は以外にも普通に応えた。
「ダイナモが爆発するんだそうだ。島がふっとぶんだ。」
自分は数日間の徹夜から解き放たれたばかりで頭がゆっくりとしか動いていなかったせいか
「島がふっとぶんだ。」
と言われても、恐るべき理性でそれを受け止めたんだと思う。
「はあ。」
「島の連中はみんな本土に非難したよ。あんた、こんな時分になにしてんの?」
と荒くれたちの一人が聞いた。
「はあ。寝てたんです。」
「寝てたってさ!」
と言って硬肉男達はわあわあ言って盛り上がった。
「仕事がつんでたんですよ。」
決まり悪かったので、自分はとにかくそんなふうに言う。
「警報も聞かなかったの?」
あらくれたちの中でも知能の高そうなのがそういう。
「はあ。寝てました。それで、皆さんは? 避難は?」
自分がそう聞くと、硬肉男達は急にそれぞれ何か思うことがあったみたいに、
色素が抜けたみたいな下手な沈黙を顕にした。
「おまえさんが取り残されたみたいによ、残りたい奴は残れっていわれたんだ。」
と硬肉の一人が言った。その時気がついたが彼らは(きっと)どこかからくすねてきた洋酒でもうすでに酩酊段階だった。
「つまり、残るのも自由って言われたんだ。分かるかい? もちっとでもかしこいやつがいるんならさ、これを期にいっそ消えちまえって、そう言われたんだ、俺たちは。」
「確かに世間様に顔向けできないこと、してたからよ。」
と、別の硬肉が話す。
「まあそんな、しけた話はなんだ。どのみちもうすぐダイナモが飛んで、島ごとなくなっちまうんだ。あんたもそれと同じことだよ。島が飛んじまうときに、頭がまともだったらたまんねえだろ。まあにいさんも、上がれよ、あがれよ。」
と言うわけで、自分はその接したこともないような荒々しい男達と、
一昼夜酒を呑み続けたのだった。
自分は強いアルコールでどろどろになった頭の中でかすかすかに、
昔大きな客船が沈んでしまう時に、見え張りたい金持ち達がわざわざタキシイドなんか着こんでブランデー片手に最後までポーカーしてたっけな
と、今と関係があるようなないようなことを連想しながら、
記憶が途絶えた。
ああ、そう。
電力発現器の最後といっしょに自分も終わってしまうわけか
と思いながらやけくそになって飲んだくれて眠ってしまったのだけど、
連日の疲れが誘ったのか
近年無かったくらい深く安らかな夜の眠りだった。
自分はよく11時のサイレンで目を覚ました。
筋肉あらくれ男達は残らず姿を消していた。
しかし高そうな洋酒のビンが強盗にあった酒屋の倉庫みたいに散乱していたから、
彼らが存在していたことくらいは
嘘じゃないんだろう。
そして万に一の奇跡が働いて、
電力発現器は崩壊の不幸から逃れたのである。
いや、そういうことじゃない。
やがて島には危機をうまいこと回避した人達が戻ってくるだろうけど、
飛んで消えてしまうはずだったあの荒くれ達はもういないわけで。
だったら自分は島の日常が元に戻った後
どんな場所で生きて行ったらいいんだろう。
どんな立ち居地を守っていくべきなんだろう。
考えるのが面倒なので、
ダイナモが危機だった一日は自分の中で、疲労の末の悪夢
ということに片付けるのがもっとも良いと思われる。