小説「イライラ預金」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

若年性認知症と言うことである。
若年と言うよりはずいぶんよぼよぼのじいさんだな
と言うのが自分の感想である。
とにかく引っ越した近所にそういうおじさんなんだかおじいさんなんだかが居て、この界隈の
“名物”
であり“迷物”であるのはすぐり理解出来たのだった。
スギタニさんと呼ばれている彼は今日も怒っている。
おれはゴミを捨てに集積場に向かっていたんだけど、スギタニさんがどこかの主婦をつかまえて
ヤン車のマフラー音みたいなことを話してるのが見えたから、
家に引き返す。
ヤン車のマフラー音と言うのは比喩じゃない。リアルにそんな感じなのだ。
ごーろごろごろごろ
ぶるぶるぶるぶるぶる!!

本人が恐ろしく滑舌が悪く、常に痰が絡むのでそんな様にしか聞き取れないのである。
とにかくスギタニさんは怒っている。
常に何かにイライラしている。
区長さんとか民生委員さんとかが、たまにスギタニさんちに話に行っているんだとは伝聞で得た情報。
そして“たまに”しか行かないくらいだから両者にそれほどやる気がないと言う実情。
あるいはスギタニさん側に交渉の準備が備わらないと言う難航。
とにかくスギタニさんは親族の厄介者にも何らかの施設にも生きそうにはないこの5月最初の曇り空である。
たっぷりと不機嫌な空の下でスギタニさんも休みなく
イライライライライライライライライライラ
しているのだった。
おれとしては、
『今まで人に預けていたものを、還してもらう時期に来たんだな。』
と言う思いに心を固めている。
おれも過去にいろんな人を
イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ
させてきた。
それがどこかで預金されていて、満期引き落としになったんだろうと思う。
そして
“もう還してもらって大丈夫”
な人間におれはなったんだと言うことを知ったのだった。
若年と言うほどかくしゃくしてないスギタニさんのイライラによってね。