みかん姫というひとが居りました。
何もお姫さまではありませんがみかんが大層好きなので
みかん姫とみんなが呼んでおりました。
みかんだけ好きなわけではありませんが、
ともかくみかんの類はなんでも好きなのでありました。
みかん姫はお嫁入りの年頃であります。みかん姫のお父さんは
お嫁入りの先探しにああでもないこうでもない、
としとられます。
が、当のみかん姫としましては、
「みかんがたくさんあるお家でないとお嫁にいきません。」
という具合でありまして。
逆に言うなら、
「みかんをたくさん持ってくる相手にならお嫁になる。」
ということでもあるんでして。
そこでみかん姫のお父さんは方々にこうして通達されました。
「一番たくさんみかんを持っている男に、うちの娘を嫁に出す。」
村の男衆はこんなんで言ってきます。
「うちにはきんかんの木がありましてね。」
「うちにはゆずが成っとりましてね。」
「いやいや。うちにはみかんもきんかんも八朔もありましてね。」
「何が何が。うちにはその全部の木がありましてね。」
という具合にいろんな男衆が
われもわれもと言い寄ってくるわけなのですが、
どうなったかと言いますと、隣の村の、
山一杯のみかん畑を持っているお宅のぼっちゃんが、
やはり一番たくさんみかんをくれるということになりました。
みかん姫のお嫁入りが決まりそうになりました。
なにしろお山いっぱいみかん畑ですから。不満というならそういうことはないでしょう。
みかん姫はとても満足しておりました。
そんなある日、
「これをどうぞ。」
と言って、みかんをひとつ、くれた男がありました。
たった一つでありました。
「自分はそんなにたくさんみかんを持っていないけど、
あなたがみかんを好きだそうだから、一つあげようと持ってきました。」
とその人は言いました。
どうして?
とみかん姫は訊きました。
「自分もみかんが好きですから、おんなじようなあなただから、
みかんをあげたくなりました。」
とその人は言いました。それで彼女もみかんを剥いて、
房の半分、彼に返してあげました。
「ありがとう。」
と言って、彼は嬉しそうにみかんを食べました。
二人で半分ずつ食べたのでした。
二人で分けて食べたのだから、なんて旨かったことでしょう。
そんなことがあったわけですから、後にみかん姫は彼のところにお嫁に行くのでありました。
「この世のみかんの最後の一つは
半分ずつでいただきましょう。」
と、そんなことを話しながら。
悩み多き友人のエール為らんとして、
めずらしくガラにも無いお話を書いてみました。
この世で一番美味しいものは
たった一つのみかんとしても
あなたと一緒に食べること。