小説「ファミレスにて」(かきなおし) | 文学ing

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

大学の、正門を出てすぐの大通り、左に進むと、
ファミレスがある。
昔は居酒屋をやっていたと言うが、おれ達が知る限りそこは
ファミレスだった。
個人でやっているなんとなくやぼったいファミレスだ。
チェーンの店舗が至るところにあるのと比べて、なんとなく
垢抜けないファミレスだった。そのファミレスで、
妙なことが3回あったのを、
おれと河田はもう一人の友人に話している。
「気のせいじゃないのか?」
とそいつは言った。
ウェイトレスが間違えてもってくるんじゃねえの。
「だって客が二人のところに、水だけ三つ持ってくるかよ。」
どんなぐずのウェイトレスでも、そんな失敗はそうしない。
「それにあそこのファミレス、水もセルフなんだ。」
とおれは言った。
そこのファミレスではオーダーを入れると、
お飲み水はセルフでお願い致します、
とウォータークーラーを使わされるのだった。
二人でファミレスに行くのに、つい水のコップを3つ持ってきてしまう、
そんなことがあるだろうか。
でも事実3回、同じことがあったのである。
二人でテーブルについているのに、いつの間にか
水のコップが3つになっているのだ。
「それは3人以上でいってもそうなのか?」
ともう一人が訊く。否、と俺は言った。
「とりあえずあそこのファミレスに、河田以外と行ったこと無いんだな。」
それも変だと思ったのだけど、しかし偶然の域を出ないものだ。
「じゃあこういうことだな。おれも一緒にそこのファミレス使ってみよう、ってことだ。」
そう、そうなんだよ。
とおれは言った。
河田は終始黙っていた。
このときは恐怖よりは俺には純粋な好奇心だったのだ。
店そのものがオープンしたのはそう昔ではないと思う。
しかし流行ってないからメンテが追いつかないのか、
壁はくすんだまま塗りなおされておらず、
表の電飾も半端に消えていて、ハートフル
のはずだろう店名は ハーフル に見えてしまう。
おれ達は店に入り、オーダーを取りに来たウェイトレスに、ドリンクバーを三つとスパゲティやグラタンやポテトをそれぞれ適当に言いつけた。
「ドリンクバーはご自由にどうぞ。」
と言ってあいその悪い女は去っていく
(瑣末なことだが見た目も悪い)。
そして実験検証のためにウォータークーラーからきっちり三つ、
コップを取ってきたのだった。
「だからと言ってなんだってこともないんだけどな。」
とおれは言った。
「そのうちこれがもういっこ増えたりするんだろうか。」
「じゃあそうならないように見張ってろよ。」
と友人が言う。
でもその前にドリンクも取りに行くことにした。
コップの水は、なぜだか手をつける気にならなかった。
「おれちょっと便所いっとくわ。」
と友人が言い、その間俺と河田はドリンクのマシーンでメロンソーダとカルピスを汲む。
テーブルに戻ると、コップは当然三つだ。
それとウェイトレスが置いていったナイフフォークのボックス。
何もおかしなところはない。おれ達は自分でコップの水を、
3つ、運んできているのだ。
唯一変だと言うなら、そのうち一つはすでに空になっている。
友人は便所に行っているし、河田はスマホ使いながらカルピス飲んでいる。
おれはなんとなくいやな気分になる。
でもどうして嫌なのかは分からない。だが嫌なのだ。どうしてもこの場所に違和感を感じる。
確かにかび臭いファミレスだけれど。
しかし、今このボックス席が、おれがここに居ることを、どうしてか弾こうとしているように思えてならない。
押されるのだ。
圧される。何かがおれを圧しだそうとする。
河田は何も言わずに、スマホの画面を見続けている。
ケイタイが鳴った。着信を見てみると送信者はなぜか
便所に行っているもう一人の友人だった。メールであり、奇妙なことに
『出ようぜ』
その瞬間河田が言った。
水飲め。
おれは黙った。
「返事しろ。」
と河田が言う。怒り狂って居るようなものすごい目をしていた。
水だ。大事なんだ水を扱くんで来い!」
汲んで俺と口を利け」!
おれはカバンを掴んで玄関ホールへと奔った。振り向きもしなかった。
すでに外にでたもう一人の友人が、おいおい、と手招きしている。
「どうしたんだよ。」
とおれが訊くと、歩きながら話す、とそいつは言った。
「河田が居た。」
なんだって。
「便所に河田が居たんだよ。」
なにを言っているんだ。
河田はおれといっしょにテーブルで待ってたんだ。
おれはそう言った。
「おれもさ、最初は他のお客さんだと思ったんだ。すみっこでさ、便所使ってるわけでもなくてよ。ずっと下向いて突っ立ってんだ。なんだ、やな感じだなあ、やりずれえなあ
って思ったけど、でもまあふつうに便器使ってたら、なんか言ってるんだよ。」
河田が?
友人は青い顔で頷いた。
「河田の奴、ずっと、突っ立ってんだ。出て行かないんだよ。でも、ずーっと言ってんだ。
おれに。」
なんて?
「お前が邪魔なんだ。」
てよ。
邪魔邪魔じゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃま
ってさ。
とそいつは言うのだ。
この時点でおれもきっちり薄ら寒くなっているんだけど、そいつは最期に、
「河田はやばい。」
と言った。靴の中で急につま先が冷えた感じがした。
河田には悪いが、おれはもうファミレスに戻る気がどうしてもしなかったのだった。

「やっぱり、難しかったですかねえ。」
と渋面しているのはこの店舗の持ち主で、飲食店のオーナー。
「どうも申し訳ないです。なんどか試したんですが、結果が同じで。」
頭を下げ居ているのは河田だった。
河田は所謂、拝み屋というやつなのだ。
『いわくつき物件』
みたいな不動産を、きれいにする仕事をしている。
このファミレスはもうずいぶん古く、オーナーは取り壊して更地にして売りたいのだが、手をつけるたびにどうも事故が多くなる。
「なんどこっち側に持ってこようとしても、かならず『もうひとり』現れて
向こうに引っ張っていってしまうんです。
一人なら自分でもどうにか引き出せるんですが、
なにせ阻害しにくるもう一人がだいぶ強くてですね。
自分の力不足です。申し訳ない。」
「それで、何が原因なんです?」
半ば疑っていそうだが、依頼主としてのオーナーの頬も青い。
「自分の推測ですが、ここの店をやっていたときによく使っていた学生でしょうね。
死んだ後も馴染みの場所から離れたがらないケースはよくありまして。その点では大得意だったんじゃないですか。」
おおとくいにも過ぎますよ。
とオーナーは言う。
「それで、その彼だけだったらどうにか剥がせるんですが、
立地というか方角と言いますか。まずいことに
あっち側
とのリンクが強くなったんです。直接の原因はそれです。」
「あっち側、て、なんです?」
あっち側としかいいようのな場所です。
僕やあなたとは通常関係の無い空間です。で、穴が空いちゃったんです、そこに通じる。水の三で繕えるかと思ったんですが、まさか干上がってしまうとは。」
お手上げです。
と河田は言った。
「ではやはり、あれですかね。取り壊すのは無理なのだと。」
「僕にはお勧め出来ません。」
と河田はきっぱり言ったのだった。




*数人の方から指摘を受けて、加筆修正しました。
ホラーいうよりは、オカルトでしょうか。