「ごほうこく」
というアホみたいな平仮名で始まる葉書が届いた。
正確にはいつ入ったものか知らん。今時新聞を取っていなかったら
家のポストなんてそういつもいつも改めるもんじゃない。
「このたび 入籍いたしました
まだまだみじゅくな二人ですが
みなさまのごしえんを得て
がんばって生きたいとおもいます」
なんの暗号かと思うくらい、漢字の使い方がランダムだ。
まあどうも知り合いが結婚したらしいんだけど、
いったいこの葉書の差出人が、どこの誰だか分からない。
結婚したなら写真くらいはっつけて出せ、と思う。
普通の葉書に赤い縁取りがしてあって、その中に青いインクで、
上の文面が印字されているだけなのだ。
そして若夫婦の名前。
(旧姓)としてある氏名になら、なんとなく見覚えがある。
私は自分のガラケーを開いてみて、アドレス帳の
サ行の辺を順に見ていく。
うん、あった。(旧姓)としてある女の名前。
アドレス帳にちゃんと名前が登録してあった。
が、それでもやはり、それがどこの誰だったのか、私はさっぱり思い出せないのだった。
「誰だったかなあ…」
という思いを胸いっぱいにして、私はカップラーメンに水を入れてレンジで回した。
小学校や中学では無いと思うんだけど。それならさすがに名前くらい覚えている。
それに、私が中学くらいの時、携帯電話は開発の真っ最中だったくらいだから、
まさかアドレスを持っている奴がいたはずがない。
大学のゼミで同期だったやつだろうか。
いや。
数年以上も連絡を取っていない相手に、わざわざ結婚の報告するもんだろうか。
それに私のいたゼミは本当に勉強のための「ゼミ」だったから、
無駄に飲み会もしなかったし授業以外で付き合う間柄でもなかったはず。
前に辞めた職場の誰かだろうか。
私は今まで渡り歩いた職場で一緒に働いた何人かの女のひとを思い浮かべる。
8割がた40代だ。それかもっと高齢だ。
50に差し掛かって結婚できたらそりゃうれしくて誰にでも葉書出したくなるだろうな。
しかしだとしたら「みじゅくな二人」なんつう書き方は人をおちょくってるだろう。
しかし、この見るからにデジタルに慣れてなっぽいやぼな文面は
50代ならさもあることだろうか。
レンジがチーンといって、私はまだかなり固いカップラーメンを
プラスチックのフォークを使ってするする飲み下す。
最後まで誰のことだか分からなかった。
でも、その、舞い上がって対して仲良くも無い相手にまで報せてしまう。
その気持ちはよく分かるなあと思うのだけど。