「チャドは吼えんから心配するな。
でもおばあちゃんが起きてきたら、どろぼうかと思われる。
そこんとこ気をつけてくれ。」
と樋口が言ったので、おれと竹村は樋口んちの一番近くのコンビニから
と言ってもこんな時間にコンビニ居たらなんか言われるから、
コンビニの人も見えないブロック塀の影から、樋口んちを見張っていた。
朝の4時は恐ろしく夜だった。夏の同じ時間とは比べ物にならない。
「さみいなあ。」
ジャンパーの下にヤッケ着てきたんだけど、鼻汁凍りそうなくらい寒かった。
竹村がどう言ったんだか、お母さんに作ってもらったあつい紅茶を
水筒に入れてきていて分けてくれたから助かった。
「顔がつめてえなあ。」
竹村も言った。
その瞬間、見張っていた樋口の部屋に一瞬灯がともり、すぐに消えた。合図だ。
おれと竹村はすぐに自転車を押して樋口んちに急ぐ。
樋口は自分の部屋がある棟の勝手口から出てくるところだったのだが、
その姿はハリウッドスターが使うようなダウンのコートを着た上に
マフラーを顔中ぐるぐる巻きつけていたので、おれたちは思わず、
「うらぎりもの!」
「うらぎりもの!」
と口々に言った。お前だけこんなに寒いことを知っていたのか。
「天気予報くらい見とけよな。」
と樋口が言った。
今世紀だろうと何年先になろうと、今しか見えない彗星がやってくる。
丁度今日くらいがよく見える日らしいんだけど、
それにしたってあんまり朝だから迷っていたら樋口が、
「見に行こうぜ」
と躊躇無く言うからおれ達は自転車で出かけることにしたのだ。
家の辺は明かりが多い。
星がよく見えそうな暗いところを探したら城址山くらいしか
思いつかなかった。おれ達は夜だか朝だか分からない、
動きの止まった街路を自転車で山に向かう。
車が一台も通らない。
竹村がテンション高くなって
「えええええええっ!」
と言いながら道路をジグザグに走るから、おれは
「やめろ、見つかったらやばいぞ、」
と言ったのだがおれの後ろでは樋口も白線の上でウィリーしようとして、
で一回も旨く行かなかった。
「うひひひひひ。」
竹村が不気味に笑い出す。
おいおい、下手に騒いだら不審者で通報されるぞ、とおれはびびったんだけど、
「いーひっひっひっひ。」
と樋口まで笑い出してしまって、だからやめろって、
前と後ろに向かって言うのだが、
そのうち訳わかんないんだけど、おれも何かが面白すぎくなってしまって、
「あーはっはっはっはっは!」
と笑ったら笑いがリンクを起して全員で大爆笑してしまった。
ぎゃっはははははは
笑いながら、おれ達は夜なんだか朝なんだかな街を自転車で疾走したのだった。
彗星は、太陽の衝撃波で粉砕されたとかで結局その姿を見ることが出来なかった。
残念だとは思ったけど、
今世紀でも、何年先だろうと、
ああいうことは二度と出来ない、そう思ったら、
「まあ、利益はとんとんだな。」
といいだしっぺの樋口は言ったのだった。