ひとのよさそーなおじいさんだった。
職にあぶれてほんのいっときでもバイトをしようと必死になっていて、たまたま見つけたお店だった。
荒物屋というんだろうか。
金属製品中心になんでもかんでもおいてある店だった。
なんでもかんでも置いてあるくせに、役に立ちそうなものがそんなに見当たらなかったから、
当然のごとく流行っていないんだろう。時代に取り残されているんだろう。
でもある日通りかかったら、ガラス引き戸にカレンダーの裏紙を使って
「アルバイト募集」
と張ってあった。
なんの仕事なんだろうと思って、つい中に入って話を聞いた。
ひとのよさそーなおじいさんだったのだ。
おじいさんは単にそこの店番をしていたのだった。
完全に自分の店なんだけど、ごらんの通り今更新しく仕入れしたりなんかしなくていいから、
ただ毎日レジ横に座って店番するんである。
ときどきなら客も来るから。
しかしおじいさんはもうよっぽどよぼよぼになってしまって、一日スチール椅子に座っているだけでも
辛くなってしまった。
それに、営業をしていないように見られてしまうと、市の条例の関係から
今の場所に居住していられないんだそうだ。
法定で最低限の自給は出すから、ここに日がな一日座っていて欲しいんだけどなあ。
そういう内容の仕事だった。
私は前の職場でまったく自分の責任にないトラブルの片棒担がされて、結果追い出されるように辞職したんであって、
心も体もぴらっぴらになるくらい荒んでいた。
いつまでそんなことをしていられるか分からないけど、とにかく日中座っているだけでお金がもらえる、
今の自分にはそういう期間が必要なように感じた。
分かりました、明日から来ますね。
そう答えて自分の名前と電話番号を紙に書いておじいさんに渡したのだった。
そしたらその夜、近所に住んでいる又従姉のこから電話があった。
勤めているスーパーで欠員が埋まらなくて、業務に差し支えてきたから働いてくれるひとを皆で探しているんだと。
在庫管理と品だしで、慣れてきたらレジも覚えてもらっていいし、なにしろ恩給も出るし保険に入ることも出来る。
願っても無かったので私は二つ返事で承諾した。
じゃあ明日の9時からどこそこスーパーまで来てよね。
そういって私は首尾よく新しい仕事を見つけたのだった。
それから週に5日、指示をもらってカップ麺やジュースを棚に並べる仕事を私は続けた。
立ったり座ったり移動したり、それなりに過酷な仕事で、一生懸命やっていたから私はおじいさんとの約束を
まるっきり忘れていた。
実は思い出したのはさっきである。
あのおじいさんがそれからどうなったか、知らない。
何か不都合があったかもしれない。
しかし私はなかったことにしてしまうのである、そういうことを。
だからこそだめなんだと分かってはいるんだけど。
六