小3の時宮本さんはおれたちのクラスに転校してきた。夏休みにおとうさんが事故で死んだんだそうだ。おかあさんの実家がこの近所だから、帰って来たんだそうだ。
宮本さんはなんか都会くさくていやなやつだったから、女子はいじめしてたしおれたちもむししてたら、4年になるときにはまた転校していった。ひっこしばかりでたいへんだ。
5年生のとき、おれは仲良しの山田君の大事にしていたフナを、ふざけて盗もうとした。おれはギャグのつもりだったんだ。でもフナってなんであんなにぬるぬるするんだよ。おれはフナがなかなか掴めなくて、で掴んだとしてもフナはビクビクして暴れるから、つい殺してしまった。
山田君はめちゃくちゃ怒った。ギャグだっていっても全然聞かなかった。山田君は全力でおれに掴みかかってきて、おれたちは取っ組み合いになって山田君の右手の爪がおれの左目に下に深く食い込んだ。
血がたくさん出た。山田君のお母さんはすごく怒った。おれのお母さんももう山田君と遊んだらいけないといった。おれが悪いんだけどな。
中3の最後の大会で、おれは4×100mリレーの第三走者で出場した。おれがバトンを受けたとき、おれたちは1位争いをしていた。おれはそのままアンカーの小田にバトンを、
渡そうとして、小田はバトンを落とした。
ほとんど1位だったんだ。
バトンを受け損なった小田は慌てて落ちたバトンを拾って走り出したんだけど、当然結果は惨敗だった。
お前のタイミングが悪かったんだ
お前のスタートが早かったんだ
おれと小田は帰りのバスの中で、ずっとお前だお前だを繰り返していて、顧問の先生が恐ろしい勢いで怒った。おれの中学最後の大会はそうやって終わった。
大学受験の勉強ばっかりしていた8月の終わりに、おれはこの彼女とはもうだめだな、とついに思ったのだった。
お盆の終わりの花火大会、どうする、っていうメール打ったんだが、返信すら来なかった。おれにしても、もう一回メールして確認する気が起きなかったんだから悪い。
ああ、あいつは大学行くのに必死になってるから、もうおれとなんだかんだやってるのもどうでもよくなったんだ。それできっちりかっちり分かれるというつもりもないくらいの付き合いだったんだと。
おれは最初から受かりそうな大学にいくつもりだった。
ばかだなあ。大学なんて受かっちまえば終わりなんだよ。
そう思っていた。
大学生の時夏は4度訪れたはずなんだが、どうも定かでない。一度しかなかったような気がする。かと思えば、呆れるほどとめどなく毎日が夏だったような気もする。
分からん。
大学には4年在学していたはずなんだがそれも定かでない。毎日は講義かバイトか呑みに出るかだけで、毎日そのどれかがあって、どれかが休んでいた。時間にメリハリがなかった。一万年この部屋に暮らしたのだ。そう言われても妙にリアルに感じたと思う。
会社に入ってから3年目くらいから、おれは三ヶ月に一度の割合で1、2件のアドレスを消去していった。
三ヶ月連絡を取らなかった友人のアドレスは消してしまうことにしたのだ。
三ヶ月おきに1人か2人くらいはアドレス帳から消えていった。でも心配ない。それから2週間もしたらまた誰かのアドレスがおれのメモリーに加わるのだ。そして三ヶ月後にはまた誰か消えていく。
おれの携帯電話の中でなんらかの生き物が人知れず生きたり死んだりを繰り返しているみたいだった。
とはいっても死んでいく名前の方が若干多かったから、27歳の8月くらいにはおれの携帯電話はすっかすかになっていた。通話やメールの記録が、という意味で。おれは自分のそれまでを省みた。そして間に合わせが利いたり、やりなおしたり出来る一連の物事が、終わりを迎えたことを知った。
おれはおれの青春が終わった瞬間を目撃した。
でもそれはたいした問題じゃないのだ。終わったこと事態は重要じゃない。何故なら何かが終わると言うことは、別の何かが始まるということを意味するからだ。本当の終わりが来ない限り。
分かりやすくいうと、おれの生涯データの一番最後のページ(一番最後であるはずだ、確実に)
○年×日 没
と書かれるその瞬間まで、本当には何も終わりはしないのだ。
と言うわけでおれの青春は終わった。そして朱夏というやつがはじまったのだ。
人生はだいたい4つに区切ることができるのだという。
初めから順に 青春 朱夏 白秋 玄冬。
まったく面倒なことだ。あれだけの夏を見送った後で、おれの夏はやっとのこと始まったのだと言う。今度はいつまで続くんだろうか。
一つ言える事は、肉体の夏はもう終わったんだと。これからは精神の夏が始まるんだろうとおれは予測している。
文字通り焼け焦げる季節だ。
もし精神にそういうカテゴリーがあると仮定するなら、おれの中の脂や肉を残らず焼き尽くしてしまうまで、今度の季節は終わらないんだろう。太陽がどんどん温度を増していくのだから。
そしてすべてを燃やし尽くしたら、真っ白な秋がやってくる。
でもすべてが終わるわけじゃない。ある種の事柄は終わりを迎えるのだけど、また別の何かが始まるのだから。
春が過ぎて夏がやって来る。
それを待っているのに、今おれはどういうわけか、非常に、さむい。
充