1300円と言うのは思いがけない実入りである。
食費は毎月計算して不足が出ないように気をつけている。しかし今月に限ってちょっと多めに試算していたらしく、今月の家計を改めてみたら宙に浮いた1300円の存在が明らかになったのだった。
これの使い道は今日の昼飯とすることにしよう。
しかし1300と言うのはびみょーな数字である。
豪華なランチというにはいかにもみみっちい。しかし普段からできるだけ自炊か買い物しても500円以内で済ましている身としては、とっさにどこの店に入ったらいいのか迷うほどには高額なのだった。
それにしても、おれは思った。
よく考えればおれはもうずいぶん食い物が旨いと思って食っていないんだよなあ。
仕事はまったく自分一人でやっているんだし、よって時間はかなり自由に出来る。そこに干渉してくる身内もいないし、だからたいていおれは自分の好きなもの、食いたいものだけ食うようにしている。
いたって自由なのである。
いたって自由に何でも食えるようになったら、とくに何も旨いと思わなくなってしまった。
おれはいつどんなふうにものを食ってもだいたい味気ない。食ってるときにはちゃんと口腔に味を感じていられるんだけど、食い終わって殻になったどんぶりなんか見ていると、おれがさっき啜ってたのって味噌味だっけ醤油味だっけ?
というくらい
「食べた」
という余韻がおれのなかに残らないのである。
ああ旨い飯が食いたい。
旨い飯ってどんなのだっけ。
おれは自分の記憶のなかの「旨かった」シーンを思い返す。
一つには小学校のキャンプで自分らで作ったカレー、
一つには高校に受かった時にお父さんが連れて行ってくれたちょっといいすし屋、
一つには初めて女の子がおれに作ってくれた親子丼、
一つには外国のチームと契約が決まった友人の送別会で、最終的に酒びたしになったBBQ。
そうか。
人か。
何を食うかじゃない。誰と食うかか。
おれはそれに気付いたのだった。
ああ、ああ。それはだめだ。それじゃだめだ。
おれは今後も旨い飯が食そうな見込みなんぞありゃしないのだ。