おれんちは貧乏だったから唐揚げって言うと手羽元だった。おばあちゃんは料理が下手で唐揚げっていうといつも日清製粉唐揚げ粉をごってりまぶして油で揚げるだけだった。おれはこどものころこれが大好きだった。でもおれんちは貧乏だったから「子どもは3つまで」と言われていつも腹いっぱいは食えなかった。おれは悔しくて、「大人になったら働いて金を稼いでそれげ唐揚げをいっぱい食うんだ。」と思って大学を卒業した。就職したところは都会だった。おれは朝から晩まで働いた。家の近所にはコンビニやべんとうやがたくさんあって、大型スーパーもたくさんあって、たくさんの唐揚げが売られていた。おれは嬉しくて嬉しくて、仕事終わりにあちこち寄っては唐揚げたくさん買って帰って、ビール飲みながら毎日食べた。いろんな店のいろんな唐揚げは、唐揚げなんだけどみんなちょっとずつ違っていて、おれは違いが気になるほど食い物にこだわったりしないし唐揚げだったらどんなんでもいいから毎日毎日唐揚げ買って食べていた。毎日毎日唐揚げ買って食べていた。毎日毎日唐揚げ買って食べていた。そしたらそのうちつまらなくなった。唐揚げなんて、世界のどこにいったってあるじゃねえか。街中のどこいったって誰かが唐揚げ揚げている。おれはネットで検索してみた。鶏肉を油で揚げた料理なんて世界中何処にだってあるんだ。世界中何処にいったって誰かが唐揚げ揚げている。植物が光で生きていくように人間は唐揚げで生きていくんだ。おれは急に詰まらなくなった。だから唐揚げ買うのやめちゃった。唐揚げ買うのやめちゃった。結婚したら奥さんは料理が上手で、日清製粉じゃなくて自分で唐揚げ揚げてくれた。大蒜とか黒胡椒とかいろいろ使って、おいしい唐揚げ揚げてくれた。おれは嬉しくって、おいしいおいしいっていって食べていたら、奥さんも嬉しいなっていって毎日唐揚げ揚げてくれた。おれが美味しいおいしいっていって食べたら、奥さん毎日唐揚げ揚げてくれた。でもある日奥さんが言った。「貴方唐揚げ食べ過ぎるから、コレステロール高くなってるからもう唐揚げ揚げないわ」って、自分がたくさん作るからおれがたくさん食べていたのに、そんなこといってそれから唐揚げ揚げてくれなくなった。それから奥さんは習い事をやめてしまった。毎日毎日誰かとメールしてばっかりになった。ゴミを出さなくなった。おれは仕事に行く前にゴミを出さないといけなくなって、奥さんとはなんにも話さないし詰まらないから晩飯は外で食うようになった。奥さんは何も言わなかった。一人になった奥さんは何食ってんだか知らないけどどんどん太り出して、ちっとも可愛くなくなったからおれは奥さんがもう嫌いになった。奥さんはなんにも言ってくれなくなった。何年かしたらおばあちゃんが死んだ。おれは一人でお葬式に行った。和尚さんが帰った後皆で皿盛食ったんだけど、隅っこに唐揚げ3こ乗っていた。おれはひとくち食ってみた。仕出し屋の唐揚げは時間が経って冷えひえで、肉はしわくて衣はぶよぶよ不味かった。おれはもうものすごく思った。唐揚げ、いつの間にこんなことになっちゃったんだろう。日清製粉のおばあちゃんの唐揚げ、もうどこにもないんだろうか。この世界の何処にもないんだろうか。おれは唐揚げ、一生食べられないんだろうか。噛めば噛むほど味がしない唐揚げ食って口中油の味しかし無くって、おれは涙が出て仕方が無かった。