皆さんは新潟県と福島県の県境である只見川に沿う国道352号を走ったことがありますか。周囲の景観は、滔々と流れる只見川・豊富なブナ林・雪崩の仕業でむき出しの急斜面など異境に来たことを感じさせられることでしょう。一帯は越後三山・只見国定公園で、「銀山平」は小出から30Km余、新潟県魚沼市にあたり景勝地であるとともに秘境とも言われてきました。 昭和20年代、只見川の水利により発電を行うため、電源開発(株)が越後山脈を貫いた、20kmにわたる長いトンネル(奥只見シルバ-ライン)がつくられました。トンネル内は少し暗いですが、枝折峠の352号線を行くよりずっと走りやすく、スキ-場はもとより奥只見の自然探索には都合が良いと思われます。
 奥只見の自然をうたうときの、キ-ワードになるのは、5~6mも積もる豪雪、標高400mあたりから見られる豊富なブナ林、澄んだ水と空気、連なる山などではないでしょうか。
 私は1969年8月初旬、国有林である奥只見のブナ林調査のため、初めてそこを訪れ銀山平に宿をとった。ベースキャンプ地は南魚沼市の五味沢におき、銀山平での調査はごく短期間のことだった。宿から見える山肌には、まだあちこちに雪渓が残り、盛夏を忘れるような楽園だった。 既に奥只見ダムや発電所は完成し、工事用だった道路やら(主にトンネル)が残り、移管を受けた地元では、後にこの道路を奥只見シルバ-ラインと命名したようです。一方銀山平という地名は、近くにあった古い銀鉱山からのネーミングと聞きます。
 〇半世紀も前のことですが、当時の銀山平の様子を少し書いてみます
ゼンマイの採取と加工です。魚沼市の湯之谷地区では国との間に、国有林への立入り認可を受け、傍ら山林火災予防などの協力を背負うといった「共有林」契約が行われていた。豪雪下であっても、融雪の時期を迎えると一帯はゼンマイの生産地に変わり、雪崩のつくような急斜面が採取の宝庫でした。組合員は自宅から銀山平までのぼって、山小屋に暮らし・早朝からゼンマイの採取に・さらにはそのゆで上げ・乾燥まで行うもので、作業は大変であっても良い副業になったと聞きました。住まいと山菜の加工工には国からのブナ材が頼りで、当時地元と国の間には、このような関係がありました。
 〇次はシルバ-ラインの終点にできたスポ-ツ林(スキ-場やキャンプ場)です1980年頃にオープンした奥只見丸山スキ-場は、山形県の月山スキ-場と並び積雪
量が多すぎるため、リフトが雪に埋まってしまい、初冬と翌年の夏スキ-が楽しめる特徴があります。 私はある時銀山平はもとより、このスキ-場一帯に素晴らしいブナ林があることを知りました。「ブナ林ふたたび」の調査では、南魚沼市の五味沢には連年に出向きましたが、銀山平には仲々行けませんでした。ゼンマイ小屋で使用されたブナは、択伐という抜き伐りで、その跡は天然更新でした。いずれも豪雪と標高600~900mにわたる立地条件は、ブナの郷土でありいつか観ておきたいと期待してきました。しかし、スキ-場で訪ねたところ、単独でのブナ林観察は危険なので控えてほしいとのことでした。登山道があっても、いまの私は脚力も弱くなっていることから独りでの観察は断念しました。ともかく、豊富なブナ林にどっぷりと浸かって思うことは、ブナがこのような奥地環境を守っていることでした。ブナは多雪地に育ち、水を貯えることから、「緑のダム」とも言われます。一方で他の樹種や下木などと共生するほか、多種の生物の棲息場所でもあり、ある国では「母なる木」と呼ぶようです。
 裏日本では急流域が多く、洪水調整のうえから下流にゆくにつれ、どの川にも貯水池が見られます。ブナとダムそのいずれもが、人々の暮らしに役立っていることはご承知の通りです。ブナの山脈・奥只見湖などとも再会でき、忘れられない山行になりました。 2023年6月25日のこと、好天に恵まれ84才のよい記念日ができました。
 〇終わりに、夏スキ-とブナ林の様子を写真でお話しします。

写真は地元観光協会から借用したものです。写真1は「新緑のブナ林」です。

 

 両側の樹木はすべてブナの木です。いずれも白い樹肌をしています。手前の黒く見えるブナは、苔むして年齢も200年超くらいになっています。 撮影はブナの若葉の下でスキ-をしている5月頃でしょうか。気温の高まりにつれて、ブナの根元では雪解けが進んで穴状なってゆきます。これを「根開き」などと云います。奥の方の細いブナでも、数十年は経っています。そろそろ花をつけて実を結びます。ブナは深い雪のあるうちに葉を開き、花を咲かせます。雪の表面がブナの黄色い花粉と芽鱗で染まります。 芽鱗とは、冬のあいだ葉と花になる芽を保護している服のようなものです。写真のブナ林は混雑しすぎです。競争の中で自然と本数調節がされてゆきますが、枝が重ならない程度に人が間引きをしてやる方法もあります。

 それでは、著作「ブナ林ふたたび 東日本奥地林のブナ林を訪ねて」のPRと、この日撮った写真を見てください。私は長いこと国有林野業務に従事していたことにより、かってのブナ林跡地の姿を見てきました。このキャリアからブナを伐った跡に植えられた針葉樹人工林と、ここに進入した天然ブナ林とを調査しました。スギ林になったところにふたたびブナの復活見られ、心強いものがありました。 著作内容は、まえがきに続き、 第1部、ブナってどんな木。 第2部、東日本のブナ郷土にとられた施業方法といまの林分。 第3部、ブナ林施業によせる思い。第4部、各地のブナ林散策適地。をそれぞれ載せました。 A4版、115ページ、全カラ-とした。 皆さんにこの実状を知っていただければと強く思っています。 

連絡先 MAIL : takei0108@ybb.ne.jp 

    TEL : 0288-26-4588 090-5425-1658 
    〒321-1274 日光市土沢1810-8

           武井宏之

    一報いただければ折り返し所要の連絡をいたします。

 
  写真 2 早くもブナが出現
奥只見シルバ-ライン大湯第5トンネル群入口にて 
正面トンネルの右上方が若いブナ
標高300m   2023.6.25

 


写真 3 スギ植林地がブナ林化しつつある    
シルバ-ライン大湯第7トンネル群入口にて  
スギ植林地(右下方)はブナ林化しつつある    
左下方および上方はブナの古木。
標高490m  2023.6.25 

 


  写真 4 ブナの天然林
シルバ-ライン大湯第8トンネル~第9トンネルの間にて
奥の尾根筋は、針葉樹のキタゴヨウ
手前と谷筋には、ブナの他にトチノキがありました
標高712m  2023.6.25 

 


  写真 5
シルバ-ライン終点の奥只見丸山スキ-場付近にて
前方手前がブナに囲まれた緑地公園
中央が奥只見ダムの雄大な堰堤
 左上方は、雪崩のつく一部木のない山地
標高736m  2023.6.25


  写真6
丸山へ行くハイキングコース(青色)とスキ-場
出典:銀山商事(株)