昭和30年代は、我が国にとって高度経済成長期と言われ、戦後の復興期だった。

国産木材ではとうてい需要をまかなえず不足していた。いずれ外材輸入依存となることは判っていても、その準備が十分できていなかった。国はチップ・パルプ材に関しては、温存されていた奥地ブナ林の開発に踏み切った。このためにブナの郷土(ふるさと)が、皆伐による大面積伐採が行われ、その跡には建築材の生産を目指しスギやカラマツが植えられた。他にも保安林でもあったため、施業要件は植栽でもあった。

だが奥地林の育生は、厳しい環境のもとでは里山のようには行かなかった。ブナ林の開発は主として東日本の各地にわたったが、対象地の標高が増すにつれスギには、豪雪などに抗しえずダメ-ジが大きかった。現職中こうした現場を目のあたりにするにつけ、スギには無理であっても天然更新によれば、ブナなど広葉樹か育成可能と考えてきた。

 ブナは建築材とはならないが、奥地林を守るには他の樹種では代えがたく、したたかさと環境の維持にすぐれるものがあった。 私は国有林の業務から離れたのが1994年であったが、その後も高山などに出かけ自然観察は欠かさなかった。2017年のこと、ふと奥地林のスギ山とそこに進入したブナについて、いまどうなっているだろうかと思いをはせ、伐採から半世紀を経たブナのふるさとを歩こうと下調べをはじめた

 観察の主な点は次のようだった。

〇奥地ブナ林が広く存在した国有林・財産区やらに天然更新量をざっと問い合わせた。ブナの皆伐跡地は殆どが植栽され、ブナの特長である天然更新の少なさに驚いた。

先ずはその天然更新地をくまなく観ることとした。

〇うえの天然更新地付近のスギ・カラマツ植栽林は、元来が「ブナのふるさと」であり天然木が進入していることが予測できたので、ここを踏査に加えた

〇奥地のブナ林は、1955年以降大方は伐られてしまい針葉樹の人工林に変わった。しかし、100年余となる貴重なブナ天然更新地の存在を知り、この調査に積み上げた。

以上の計画にもとづき2018年~2019年の2年間をかけて現地調査を実施した。

●1945年(昭和20年)前のブナ天然更新調査個所数 6カ所

同上 (昭和20年)以降 同上 14カ所

●人工林に進入したブナ調査個所(スギ・カラマツ林)数 19カ所

結果は以上となった。 「ブナ林ふたたび」の初版ができたのは2021年だった。現地踏査は緑シーズンのみ行ったもので、冬季の踏査は行えなかった。

 

 私は長いこと国有林野業務に従事したことにより、東日本のブナ林跡地の姿を見てきた。したがい、ブナを伐った跡に植えられた針葉樹林と、ここに進入した天然ブナの踏査記録を主に書いたものである。ブナの郷土であったところへのブナ復活は心強かった。

 著作内容は、内容はまえがきに続き

第1部 ブナってどんな木

第2部 東日本のブナの郷土にとられた施業方法といまの林分

第3部 ブナ林施業によせる思い

第4部 ブナ林の散策適地

を載せた。 A4版、115ページ、全カラ-写真としました。
 沢山の方にブナ林の実状を知っていただければと思っています。
連絡先 MAIL : takei0108@ybb.ne.jp 

    TEL : 0288-26-4588 090-5425-1658 
    〒321-1274 日光市土沢1810-8

           武井宏之

    一報いただければ折り返し所要の連絡をいたします。

 

 

福島県大沼郡昭和村字御前岳国有林 天然更新 「冷湖(ひゃっこ)の霊泉」のブナ

標高:945m 林齢:51年

2019.6.4

 

秋田県仙北市 田沢湖 字生保内 天然更新:「生保内財産区」のブナ

標高:794m 林齢:82年

2018.9.15

 

新潟県魚沼市 字山の神 天然更新:「大白川生産森林組合」のブナ  間伐済み

標高:553m 林齢:84年

2019.6.3

 


宮城県加美郡 鍋越峠 国有林 天然更新:ブナの生育良好
標高:476m 林齢:ほぼ100年
2022.6.4   

 

秋田県由利本荘市 字木境鳥海国有林 人工林に進入したブナ

スギ植栽後に進入したブナなど広葉樹は密度が高く、活力がある

標高:692m 林齢:35年

2019.7.10.

 

新潟県魚沼市 字浅草山国有林 人工林に進入したブナ スギは密度が低く根曲り。

後に進入したブナは、根曲りはあるものの比較的通直で形質も良い 

標高:755m 林齢:52年

2018.8.20