昨日今日の2日間、妻の母方祖父母の法事で信濃大町に行って来た。昨日は義母の実家に挨拶に寄り、大町温泉郷でノンビリ一泊。今日は法要と御斎、そして善光寺さんにお参りして帰って来た。

 

 義母の実家で面白かったのは、叔父が40〜50年前の8ミリフィルムを最近DVDに焼いたとのことで、それを皆で鑑賞したことだ。妻方の親戚なのでもちろん知らない人も多いのだが、時代の匂いと言うのだろうか、街並みや人々の髪型や服装など何もかもが懐かしく楽しく、皆で見入ってしまった。まだ可愛らしかった妻や義妹らが遊んでいるシーンになると、義父は一瞬子どもと孫がごっちゃになってしまうのだろう、「この時はKはいなかったのか?」などとうちの息子の名前を言い出して、皆に笑われていた。

 

♪ まわるまわるよ時代は回る
 

 喜び悲しみくり返し

 

 まさに時代はまわり、くり返す。喜びも悲しみも幾歳月ーーー。あの頃子どもだった者が親になり、その子らもまた大人になったのだ。昔の映像を見ながら、私はそんなことを考えていた。

 

 

 中島みゆきさんの「時代」(1975)。みゆきさんの2枚目のシングルだが、時代を超えても色褪せることのない日本のスタンダードである。2007年には『日本の歌百選』にも選ばれている。みゆきさんも何度か吹き込み直しているし、他の多くのアーティストにもカバーされている。学校の卒業式に歌われることもある。この歌の持つ優しさや温もりは、いったいどこから来るのだろう。

 

 この歌はヴァースでいきなり、

 

♪ 今はこんなに悲しくて 涙も枯れ果てて
 

 もう二度と笑顔にはなれそうもないけど

 

と、悲しみのどん底にあるような感情が吐露される。だが、この歌からわれわれが受け取るメッセージは、決して悲しみではない。リフレインで繰り返される「♪ 時代は回る、♪ 時代は巡る」「♪ 喜び悲しみくり返し、♪ 別れと出逢いをくり返し」というフレーズが伝えるメッセージは、「良いことも悪いことも続かない。だから今日はくよくよせずに今日の風に吹かれよう」という、ありのままを受け入れようとする包容力。それがわれわれの胸を打つのだ。

 

 強烈な印象を残すヴァースの後は、3連バラードに乗ってみゆき節が聞かれる。みゆき節は、ユーミンが天才的なコード使いで独特の世界観を作り上げたのとは対照的に、あくまで自然な流れのオーソドックスなコード進行の曲が多い。だが、知らず知らずのうちに聴く者の心に沁み込んで来る。

 

 

 私はみゆきさんのオリジナルよりも先に、薬師丸ひろ子さんの歌声(1988)でこの歌に馴染んでいたので、そちらもご紹介しておこう。彼女の素直な歌い方も大好きである。

 

 

 宏美さんは、この「時代」をみゆきさんが歌っている頃同じイベントに出演され、みゆきさんの楽屋に入り浸っていた、と述懐している。みゆきさんは年齢的には宏美さんよりだいぶお姉さんだが、意外にもデビューは同期の1975年である。宏美さんのみゆきさんへのリスペクトは一貫して変わることなく、『Dear Friends』シリーズでは3曲をカバー、またデビュー30周年の記念シングルの書き下ろしを依頼し、名曲「ただ・愛のためにだけ」の提供を受けている。

 

 宏美さんは、『Dear Friends』の第1作でこの「時代」をカバーした。編曲は、テイチク移籍当時から宏美さんの楽曲を多く担当した西脇辰弥さん。ご自身のクロマティック・ハーモニカのソロも含め、至って斬新で印象的なアレンジである。その伴奏に乗せて、宏美さんがまたみゆきさんやひろ子さんとは違った「時代」の世界観を構築している。

 

 

 これに先立つこと6年、宏美さんは布施明さんとの『ふたりのビッグショー』(1997)で、この「時代」のデュエットを披露されている。オーソドックスな編曲だが、これまた忘れられない名唱である。終わりにこの動画をご覧いただいて今日はお別れしたい。

 

 

(2003.3.21 アルバム『Dear Friends』収録)