可愛らしい愛がいっぱい詰まった、28thオリジナル・アルバム『Love』のオープナーである。幕開けにふさわしい、とても素敵なラブソングである。

 

 作詞・作曲は川江美奈子さん。2012年の「鎌倉音楽祭」で、宏美さんと共演したのが初のご縁。「渋谷で5時」のブログでも触れたが、宏美さんは川江さんの「千枚の手のひらを」の1曲を聴いただけで、彼女の作品の繊細さに惹かれ、楽曲のオファーをしたと言う。

 

 内容は、よく聴くと年を重ねたカップルの歌だ。

 

♪どんなにいとしい手のひらもいつか
 

 離さなくてはいけないのなら

 

 ここで歌われる別れは、永遠の別れであろう。“Only death will part us”、死が二人を別つまで、だ。だからこそ、お互いの想いを全て重ね、タペストリー(綴れ織り、その壁掛け)のように織り上げていこう、という歌である。「手紙」以来の流れを汲む1曲と言える。

 

 曲の構成は至ってシンプルで、ABC×2+C+コーダのツーハーフ。川江さんの楽曲作りのなせる業か、宏美さんのボーカルはこの曲では一切の力みがなく、フェミニンでたおやかな歌い方であり、聴いていて夢見心地になる。サビのCパート(♪ You and I and something in our future〜)に重なってくるコーラス、そしてピアノは川江さんご自身である。

 

 編曲にクレジットされている塚崎陽平さんは、当時まだ若手だった音楽プロデューサーで編曲家。大黒摩季さんや椎名純平さんなどに楽曲を提供している。この曲では、1番と2番のアレンジの変化が楽しい。

 

 このアルバムの初回特典盤では、この曲も取り上げられている。いくつかのエピソードが語られているが、私が特に興味深かったのは、スタッフみんなで曲順を決める話である。それぞれが曲名を書いた紙を並べて、その順番通りに曲をかけてみて議論し、悩みながら決めるのだそうだ。だが私には、ことこのアルバムの冒頭を飾るのは、ネジを巻くような音から、ピアノの静かなイントロが始まるこの「タペストリー」以外には考えられないのだ。

 

 

 この曲にはちょっと面白い思い出がある。インドネシア駐在時代の同僚で、帰国後も仲良くしている高崎のYさんという人がいる。彼は職場だけでなく、インドネシアの歌を歌うサークル(→「言葉にできない」のブログでも触れました)にも一緒に参加していたし、帰国後もそれぞれバンド活動をしているなど、音楽好きなところも共通している。

 

 『Love』リリースの翌夏、泊まりがけでYの元を訪れ伊香保や榛名湖などを案内してもらった時のこと。「せっかくshochanが来てくれたんだから、インドネシアの曲をかけよう」と言ってカーステでかけてくれて、流れて来たのが以下に貼った曲である。

 

 

 これはインドネシアのポップ・シンガー、ルース・サハヤナの「Kaulah Segalanya」(1991、あなたがすべて)という曲であると、彼が教えてくれた。皆さん、イントロが「タペストリー」と瓜二つであることに気がつかれたであろう。20年も前のインドネシアの曲である。偶然の類似なのだろうか。それとも、川江さんか塚崎さんがこの曲をご存知で、引用されたのであろうか。ちなみに歌詞の内容には全く共通点はなさそうだ。

 

 いずれにしても、大好きなインドネシアと大好きな宏美さんの接点を見つけたような気持ちになり、私にとっては大変嬉しいトピックだったのである。🥰

 

(2013.6.19 アルバム『Love』収録)