ロシア軍がウクライナに侵攻、首都キエフを空爆した。すでに地上軍が首都に入ったという報道もある。世界各国や関係機関の外交努力も虚しく、戦争は現実のものとなってしまった。無辜の市民が犠牲になっていると思うと、居ても立っても居られない気持ちになるが、同時に無力感にも苛まれる。せめて戦争反対、武力行使許すまじという意思表示だけしておこう。

 

 

 「サムシング(Something)」は、ビートルズのナンバーの中で「イエスタデイ」に次いで2番目に多くカバーされた曲だそうだ。イギリス盤公式では11thアルバムになる『アビイ・ロード(Abbey Road)』(1969)に収録されている。

 

 作詞・作曲はジョージ・ハリスンで、リードボーカルも彼が務めている。ジョージの傑作であり、初のシングルA面作品でもある。ジョン、ポールの二人からも高く評価されている。

 

 彼女の仕草やら甘え方などには何か(something)があって、誰よりも僕を惹きつける。もう彼女とは離れられない。愛が育つかどうか分からないが、傍にいればきっと分かるよ。そんな熱烈なラブソングである。

 

 ドラムスの6連符の後の、短いが何とも言えないギターのフレーズ。これは曲中何度も繰り返される。その部分のF- E♭ - G/Dというコード進行。歌い出しや「♪ I don't wanna leave her now〜」のクリシェ。サビ「♪ You're asking me will my love grow〜」に入るところのCメジャーからAメジャーへの転調。そしてジョージのギターソロ。もう名曲の殿堂入りなので今さら私がこんなところに書くまでもないのだが。

 

 

 その伝説の1曲に、18歳になる前の宏美さんが挑んだ。さしもの宏美さんもこの大曲を前に、少し怯んだらしいことが歌唱後のMCから窺えるので再録しておこう。

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えー、普通の曲を覚えるんだったらば、えー2日ぐらいで覚えちゃうんですけども、やっぱり「サムシング」となるととっても、こう構えたりして、1週間ぐらいかかってしまいました。えーでもー今やっとその曲が終わって、こうホッとしてる訳なんですけども…。

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 だが、ライナーノーツにはこんな記述もある。

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「ジョリーン」「愛がすべて」、「サムシング」、「明日に架ける橋」など洋楽がかなり増えていますが、これは、歌いたい曲をあれこれお願いし、それがどんどん採用されたからなんです。

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 これを読むと「サムシング」もご本人のリクエストでセットリストに加わったように思える。聴いていて好きな曲でも、いざ歌おうとしたら、大曲だけにやはり構えてしまった、と言うことだろうか。

 

 宏美さんがコンサートで歌ったバージョンは、宏美さんが新橋演舞場に出入りした中学生の頃から可愛がってもらっていたという水谷良重(現・八重子)さんの訳詞。一昨年末、銀座ヤマハで行われた『レジェンドたちのシャンソン』でも、宏美さんは八重子さんと共演している。この訳は、男女を入れ替えてはいるものの、原詞の持つ意味合いはそのまま伝えようとしている。「♪ I don't know, I don't know」を「♪ 教えて ねえ教えて」とは、名訳であろう。

 

 編曲はお馴染み田辺信一さん。この編曲では、ギターのソロは短縮されている。サビの「♪ ほんとの恋かしら 教えて ねえ教えて」を繰り返した後、スキャットなどの部分が付け加えられ、ラストは「♪ Something……」と上のD - Cで高らかに歌い上げて終わる、という風に大きく構成が変えられている。もしかしたら、シャーリー・バッシーのテイク等を参考にしているのかも知れない。

 

 

 それにしても、サビの伸びやかかつ自信に満ち溢れた歌いっぷりはどうであろう。若き日の宏美さんが、ビートルズの、しかもジョージの最高傑作に果敢に挑み、そして堂々と歌い切った記念碑的録音である。

 

(1976.12.5 『ロマンティック・コンサートⅡ〜ちいさな愛の1ページ〜』収録)

 

【追記 2022.2.25】お仲間のNさんから重要な情報が❣️何と今日はジョージ・ハリスンさんのお誕生日とのこと。🎉ご存命なら79歳。偶然にしてこの素晴らしい選曲、神がかってます❗️😜