1976年の秋のコンサートで、宏美さんがオープニングの「ある愛の詩」に続いて歌われた楽曲。オリジナルは「Jolene」(1973)、アメリカのカントリー・ミュージシャンであるドリー・パートンのシングルで、彼女自身の作詞・作曲である。

 

 それをオリビア・ニュートン=ジョンがアルバム曲としてカバー(1976)した。日本ではシングルも発売されてヒットした。宏美さんもライナーノーツで、オリビアの曲として紹介している。

 

 キーはドリーがC♯ドリアン、宏美さんがDドリアン、オリビアがE♭ドリアンと半音ずつ違い、オリビアが一番高い。ドリーのオリジナル、オリビアのカバーを紹介しておこう。

 

 

 

 宏美さんのバージョンは、訳詞が「万華鏡」の三浦徳子さん、編曲が田辺信一さん。内容は、「ねぇジョリーン、お願いだからあの人を取らないで。あなたに敵いっこないのは解ってる。でも私にとってあの人はたった一人の人なの」というところだろうか。三浦さんはうまくこの雰囲気を日本語詞で再現されていると思うが、ジョリーンの魅力を並べ立てて、「あなたには敵わない」と言っている辺りは、字数の制約のためか割愛されている。

 

 またこの曲は、音楽的には驚くほど単純である。構成としては、AABBBBAABBAAコーダ、となっている。しかもAパートとBパートは、半端な拍数に差こそあれ、コード進行は Dm-F-C-Dm-C-Dm と共通の上、何と3つのコードしか使用されていないのだ。コーダに至っては、Dmのワンコードである。ついでに言うと、メロディーラインはドリアン・モード(ドリア旋法。下記リンクで簡単解説、試聴もできます)である。

 

 

 この大人っぽい内容の歌を、しかもヘタに歌えば単調になりかねないこの上なくシンプルな楽曲を、18歳にもならない少女が見事に表現し切っているのだ。驚嘆する他はない。

 

 まずはAパート。「♪ ジョリーン ジョリーン〜」と繰り返しながら音程が上がっていく箇所は、オリビアのカバーと同じようにファルセットを駆使して音色に変化をつけている。原詞では「I'm begging of you〜」とある通り、懇願するようでもあり、「♪ うそじゃないの」「♪ うばわないで」という部分からは「あの人は渡さない」という強い意志も感じられる。

 

 Bパートでも、そこかしこで宏美さんの非凡さが窺える。特に、「♪ 今くずれそう ウー ジョリーン」とか、「♪ あの人をかえして」などの歌い方には、舌を巻くしかない。

 

 

 贅沢を言えば、注文が一つある。と、今から言っても仕方がないのだが。

 

 Aパートの「♪ ジョリーン ジョリーン〜」のリフレインだが、オリビアのバージョンは、後半の方で4回目の「ジョリーン」の音程を、下げずに上げている。宏美さんのキーなら上のFまでで、ファルセットで充分出る音域である。最後の1回くらいは、それにチャレンジしても良かったのではないか。聴いてみたかったなぁ。

 

 ライナーノーツによれば、この曲もおそらく宏美さんのリクエストでセットリストに加わった曲と思って良いだろう。この「どうにもしてくれない歌」(※「ザ・ローズ」のブログ参照)を聴衆に印象付け、「岩崎宏美ここにあり」と天下に示した名唱だったと私は思っている。

 

(1976.12.5 アルバム『ロマンティック・コンサート Ⅱ 〜ちいさな愛の1ページ〜』収録)