2007年4月、中欧の古都プラハはドヴォジャーク・ホールで、宏美さんとチェコフィルハーモニー管弦楽団のコラボが実現した。そのアルバムがご存知『PRAHA』。それが縁となり、翌2008年4月に宏美さんは正式に初代チェコ親善大使に任命される。その年の秋には『朝だ!生です!旅サラダ』の番組でプラハ再訪、その際ドヴォジャーク・ホールで「思秋期」を歌う。番組ではチェスキー・クルムロフにも足を延ばした。

 

 2009年のリトミシュルで行われたスメタナ音楽祭、2010年の親善大使任期延長の調印式を経て、ついにその11月16日には憧れのドヴォジャーク・ホールでのコンサートが実現の運びとなるのである。

 

 オールドリッヒ・ヴォルチェック指揮、ヴィルトゥオージ・ディ・プラガ・オーケストラ。宏美さんの代表曲を中心にしたコンサートのアンコールで歌われたのが、この「ラスコ・マー・ヤ・ストゥーヌ(Lásko má, já stůňu)」である。このタイトルは英語に直訳すれば“My Love, I’m Sick”となる。宏美さんは「恋の病」という邦題を紹介している。

 

 この曲は、チェコの歴史的ミュージカル映画『Noc na Karlštejně( A Night at Karlstein、カルルシュテイン城の夜)』のテーマ曲とのこと。作詞・作曲はカレル・スヴォボダ、イェジィ・シュタイドゥル(Karel Svoboda/Jiří Štaidl)。プラハ生まれの歌手で女優のヘレナ・ヴォンドラチコヴァ(Helena Vondráčková)によって歌われている(吹替?)。

 

 

 内容は、Google翻訳だよりでイマイチハッキリしないが、「王様が私の夢に出てきて、『私は恋の病だ。あなたのためなら王位も宝石も聖堂も投げ出す』と言った」というような意味だろうか。プラハでのコンサートのDVDでは、指揮者のヴォルチェックさんが、「おとぎ話の国日本の岩崎さんが、それにふさわしいおとぎ話のような歌を用意してくれた」と紹介している。

 

 宏美さんはカンペだよりで発音に苦労しながらも「おとぎ話の国の歌姫」らしい美声を響かせる。会場の聴衆もサビでは一緒に声を合わせて歌う。オーケストラのメンバーも思わず笑顔になる微笑ましいシーンである。YouTubeには上がっていないようなので、是非皆さんDVDをご購入いただきたい。😉

 

 

 私はこのDVDを見ると、昔訪れたチェコやスロヴァキアのこと、そして数年にわたってチェコ語を教えていただいていた故・千野栄一先生のことを思い出さずにはいられない。

 

 1990年夏、私は当時ベルギーに住んでいた姉夫婦と姪っ子の4人でヨーロッパを旅行した。すると面白いもので、大人3人の中で現在旅している国や地域の言葉に明るい者が何となく立場が上になる、という現象が起こるのだ。駐在員の義兄は流石に英・仏語には強い。姉は独文科出身なので独語圏では仕切る(今では英・仏語もこなす)。チェコ語はよく解らない私だったが、ポーランド語と似ているのでチェコ国内では若干優位に立つ✌️義兄の運転する車でこの「ラスコ・マー・ヤ・ストゥーヌ」の歌の舞台であるカルルシュテイン城に赴いた時のこと。その時「時間帯により進入禁止」の標識が私は理解できず、そのまま城のふもとまで車で行ってしまった。通報され捕まって、あえなく罰金を支払うーー。幾度となく話題に上る笑い話である。

 

 また、このブログで何度か触れた通り、私はポーランドに入れ込んでいる。高校時代の友人で某カルチャーセンターに勤めていた女性に、「ポーランド語の講座ができたら教えてね」と頼んでいたところ、千野栄一先生のチェコ語の講座が開かれる、と言うのだ。同じスラブ語族で共通点も多いだろうし、ご高名な千野先生の講義なら是非受けてみたい、と思って受講した。そうしたら、チェコ語はもちろんだが、それ以外の教養溢れる雑談(?)が面白くて仕方がないのだ。そして、千野先生は講座が終わると毎週決まって、ちっともチェコ語の上達しないわれわれ社会人をビールを飲みに連れて行ってくださったのだ。「たいていの日本人は、プラハの方が良いと言うんですが、たまに10人に1人くらいshochanさんのようにワルシャワが好き、って言うへそ曲がりがいるんですよね」などといじられていたのが懐かしい。先生のご著書はほとんど持っている。「言語に貴賤なし」を信念にしていらした千野先生、70歳でのお別れは早過ぎた。

 

(2011.4.6 DVD&ブルーレイ『Live in Praha 虹〜Singer〜』収録)