今日取り上げる「この道」は、北原白秋作詞、山田耕筰作曲による童謡の方である。宏美さんオリジナルの「この道」については、すでに触れた。

 

 あまりにも有名なこの歌だが、調べてみたら(Wikipediaほか)知らないことだらけだったので、整理しておきたい。歌詞は4番まであるが、1〜2番が白秋が晩年に旅行した北海道(白秋自身が「北海道の風景、主人公は男の子」と注釈を付けている)、3〜4番が母親の実家である熊本県南関町から柳川までの道の情景とのことである。実家から柳川までの道は、白秋にとって特別な思い入れがあり、帰省のたびに訪れたという。

 

 1番に出てくる「あかしや」は、アカシアの花ではなく、ニセアカシア(ハリエンジュ)のこと。全く別の花だが、花姿が似ているためにこのように呼ばれる。最も大きな違いは開花時期で、アカシアは冬、ニセアカシアは春から初夏に花を咲かせる。2番に「白い時計台」が出てくるので、1〜2番の「この道」は、札幌市中央区の北1条通を指すと言われている。4番に出てくる山査子(サンザシ)は、「枝も垂れてる」から、花の時期ではなく実のなる秋か。

 

 

 白秋・耕筰のコンビは他にも「からたちの花」「待ちぼうけ」「ペチカ」などの名曲を残している。白秋は耕筰との絆について、「性格は全く違うのに、天によって配られた太鼓と撥のように変化することのない仲の良さだ」というようなことを言っている。耕筰が他の詩人と組んで作品を作ることを「浮気」と表現するなど、仕事上の仲だけではなく、親密な関係だったのかも知れない。

 

 宏美さんは、この曲を童謡・唱歌集の第1集である『ALBUM』のトップに、全くの無伴奏で歌い出すという印象的な形で収録している。出版された楽譜より1音低いだけのニ長調という、かなり高めのキーでレコーディングされた。この曲集の中では例外的に、「♪ ああ そうだよ」の「ああ」は、ファルセットを用いている。

 

 2番から木琴やハープなどが静かに入って来る(編曲:青木望)。間奏でストリングス、ドラムス、女声等が入って来て徐々に盛り上がる。熊本編に入って最後の4番では、クラシカルな混声合唱も入って曲を閉じる。

 

 

 4番の歌い出しの歌詞だが、宏美さんは「♪ あの雲…」と歌っている。確かにオリジナルはそうだったのだが、後に作者の白秋自身が「♪ あの雲」と訂正したのだと言う。

 

 児童合唱団出身の宏美さんの真っ直ぐでケレン味のない歌い方は、この種の唱歌にピッタリである。宏美さんの数ある業績の一つ、ハイクォリティな童謡・唱歌集の1作目が、この曲によって幕を開けたのである。

 

(1978.10.25 アルバム『ALBUM』収録)