ロック・ミュージカル『ハムレット』の第一幕後半。場内の花畑でオフィーリア(岩崎宏美)が花を摘んで歌っているところへ、父ポローニアス(恒吉雄一)と国王夫妻(上條恒彦、金井克子)が現れる。夫妻は最近のハムレット(桑名正博)の気まぐれと不機嫌を嘆き、オフィーリアから諌めてもらおうと言い聞かせる。だが、夫妻を見送るオフィーリアの心は晴れない。オフィーリア自身も、最近のハムレットの態度の変化を敏感に察知し、彼の心変わりを恐れていたのだった。

 

 そんな場面で歌われるのがこの「オフィーリアの子守唄」である。作詞:中島梓、作曲:筒美京平、編曲:矢野誠。最近の「筒美京平が岩崎宏美に提供した楽曲は74曲」報道にはカウントされていない、幻の筒美&岩崎作品である。

 

 この曲の歌詞に、

 

♪ 花びらをむしりながら

 恋のあした 占うの

(略)

 好き きらい きらい 好き

 かなしくくりかえす

 

と出てくる。私は男子だったのでやったことはなかったが(笑)、当時の乙女チックな女子たちは、実際にやっていた子もいたのではないか。少なくとも私以上の世代なら、花びらをむしりながら「好き、きらい…」と占う花占い(花びら占い)は、誰でも知っていたと思う。今日日、マンガでもお目にかからないような花占い、今の若い女性はこの歌詞を理解できるのだろうか。

 

 曲はE♭メジャーのスローバラードである。不安におののくオフィーリアの心情を映して、宏美さんの歌い方は弱々しく覇気がない。「♪ 花占い/いつもうそつき」という歌詞が出て来て、占いの結果が「好き」と出ても、彼の心は冷めていて、自分を置き去りにしてしまうーーそんな恨み言を花占いにぶつけるしかないオフィーリアの気持ちが痛いほど伝わって来る。

 

 そんなオフィーリアが、この歌の2番最後から、感情が昂ってゆくところがある。「♪ 恋の明日 占うのー」は1番の最後と節回しが変わり、「占うのー」でにわかに盛り上がり、次の「♪ 恋はなぜにうつりやすく/花はいつも黙っている」では1音上のFメジャーに転調。オフィーリアが激情に駆られ歌い上げる聴かせどころである。

 

 さらに、「♪ わたしひとり ゆくえも知らず/愛に泣いているのー」の最後のA音が、哀しげではあるが芯の強さを感じさせる声で、このスローテンポ(♩=63〜64)で丸3小節伸ばされるところは圧巻だ。そしてもう一度リフレインされる際、最後の「のー」は上のC音に上がって伸ばすのだが、今度は儚げに弱々しく歌われるのだ。

 

 

 舞台はこの後、あまりにも有名な「Get thee to a nunnery!(尼寺へ行け!)」、「To be, or not to be, that is the question.(このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ)」の場面へと続き、物語はいよいよカタストロフィーを迎えるのである。その話はまた別の折りに。

 

(1979.9.5 アルバム『ロック・ミュージカル ハムレット』収録)