「ちいさい秋みつけた」は、改めてここに書くまでもないが、サトウハチロー:作詞、中田喜直:作曲の日本の童謡である。初出は1955年。1962年、NHK『みんなのうた』で放映され、ボニー・ジャックスの歌唱で一般に知れ渡った。

 

 

 この時の映像は「ケロヨン」の生みの親、藤城清治氏の影絵だったという。残念ながらその映像は見つからなかったが、藤城氏の影絵は、私の幼少期にあちこちでポスターやら本の表紙やらに溢れていた覚えがあり、私をノスタルジックな想いにさせる大切なものの一つである。

 

 

 サトウハチローさんの詩は、童謡と呼ぶのを躊躇うくらい、奥行きの深い「ちいさい秋」で、まだ幼かった私たちにも不思議な感傷を与えた。

 

 そして中学生の頃。『みんなのうた』の番組自体はそんなに熱心に見ていた覚えはないのだが、楽譜(水星社刊)を集め出した。知ってる曲も知らない曲も、片っ端からピアノで弾いた。そのうち自ずとお気に入りの曲ができ、そればかり繰り返して弾くようになる。そんな中の1曲がこの「ちいさい秋みつけた」だった。前奏も良かったし、「♪ めかくしおにさん ての なるほうへ」のコード進行も好きだし、そして何より、たった2小節なのにドラマティックな2番の後の間奏が気に入っていた。やはり中田喜直は日本の生んだ偉大な作曲家である。

 

 

 さて、宏美さんはこの「ちいさい秋みつけた」を、『ALBUM』でレコーディングしている。青木望さんは、この名曲に斬新なアレンジを加え、また新たな息吹をもたらしている。前に収録されている「赤い靴」のモチーフをアレンジしたブリッジから、印象的なイントロに入る。

 

 特に耳に残るのは、前奏・間奏・後奏で繰り返されるコード進行(C♯m - F♯ - C♯m7 - F♯)である。これは、歌い出しの「♪ だれかさんが だれかさんが/だれかさんが みつけた」の部分に付けられたコードなのだが、F♯のコードで第6音が通常のマイナースケール(短音階)よりも半音上がり、ドリアン・モードになっている。このナチュラル6thの音が、やや虚無的な雰囲気を演出するのだ。

 

 ベースは一貫して「付点8分音符+16分音符+4分音符」のパターンを弾き続け、曲全体が大きく変化せずに淡々と進行していく。宏美さんの若き日の伸びやかなお声も、思い切り解き放たれることはなく、サトウハチローさんの詩の情感を湛えながら、比較的抑えたトーンで歌われる。

 

 後奏では、繰り返す同一のコードの上にジャズピアノのようなインプロヴィゼイションが展開し、「ちいさい秋みつけた」を聴いているのだということを忘れてしまうような洒脱なムードを醸し出している。

 

 

(1978.10.25 アルバム『ALBUM』収録)