今日は楽しいひな祭り。皆様ご案内の通り、宏美さんは童謡・唱歌の録音もたくさん残しており、テレビ番組等でも様々な曲を披露されている。「うれしいひなまつり」の宏美さんの歌ったものがあればオープニングに用いたかったのだが、残念ながら見つけられなかった。😂

 

 

 「青い目の人形〜赤い靴」は、童謡・唱歌集の『ALBUM』に、2曲メドレー形式で収められている。この両曲とも作詞:野口雨情、作曲:本居長世で、異国情緒を醸し出すという共通項で結ばれている。しかもそれぞれタイトルにも含まれる「青」「赤」という強い色のイメージに支配される曲で、続けて収録したのはグッジョブと言えるだろう。

 

 詩人の野口雨情は、北原白秋・西條八十と共に“童謡界の三詩人”と並び称され、他に「七つの子」「シャボン玉」などたくさんの童謡を残している。

 

 本居長世は、国学者本居宣長の6代目和歌山本居当主である。祖父の期待に反し、音楽家を志したと言われる。雨情の「七つの子」も長世の作曲、他にも「十五夜お月さん」「汽車ぽっぽ」などの童謡作品がある。

 

 私の母の遺品の中に『別冊太陽 子どもの昭和史 童謡・唱歌・童画100』(1993)という本があった。元は弟夫婦が母に贈ったものらしいのだが、今は私が預かっている。解説だけでなく、当時の資料も充実している大変貴重な本である。下に載せた2枚の画像も、この本から拝借した。

 

 

 「青い目の人形」の原題は「靑い眼の人形」(1921)である。1937年の『日本童謡全集』⑥に、作者2人のコメントが載っていて、前述の本に転載されていた。興味深い記述があるので、少しだけ引用しよう。旧字体・旧仮名遣いも可能な限りそのまま引く。

 

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(前略)國際愛は結構なことであるが、その結構なことを歌つたよい童謠がなかつたから、いろいろと考へた末、その頃日本の子供さん達にもよろこばれてゐたセルロイド製のキユーピーさんを見て、キユーピーから思ひついたのは、この靑い眼の人形である。(中略)全く途方にくれてゐる、異國の人形をやさしい日本の孃ちやん方によつて同情された國際愛の童謠で尊い日本精神のあらはれと思へばよい。【野口雨情】

 

(前略)そもそも野口氏にこの歌の原稿を示されたとき、これは面白い、きつといい曲ができると直感して兩三度繰返し讀み下してをつたうちに「靑い眼をしたお人形は」の主旋律が自然と頭に湧いてきたので、それを骨子として卽座に筆をとつて、何の苦心も無くすらすらと書き上げたのがこの曲です。(中略)面白く心ゆくばかり歌つてください。【本居長世】

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 原曲は明るく始まるが、「途方にくれた」お人形の様子・心情を歌った2節・3節は、同主短調に転調して悲しげな音楽である。青木望さん編曲の宏美バージョンも、たいそうリズミカルで軽快である。だが同様に転調したところで、ベースのリズムも四分音符4つ打ちから、付点四分音符+八分音符に変わる。宏美さんも撥ねた歌い方から、憂いを含んだ表情に変わるのである。

 

 また、宏美さんはこの曲をNHKの『みんなの童謡』で、フルオーケストラのアレンジで吹き込み直している。レコーディング時期が判然としないが、こちらも『ALBUM+10』に収録され、聴くことができる。このバージョンは、間奏に「赤い靴」のメロディーが挿入される。

 

 

 「赤い靴」(1921)の方は、『別冊太陽』に載っていた絵は私の大好きないわさきちひろさん。素敵な絵本もたくさん描かれているが、私のベストは『おにたのぼうし』(文:あまんきみこ、ポプラ社)だ。宏美さんとはいわさき繋がりでもある。😊

 

 本の解説では、Wikipediaにも載っていた「赤い靴を履いていた女の子には実在のモデルがあった」という説に触れていたが、私は今ひとつ心を動かされなかった。この歌(詞・曲とも)が醸し出す哀しみのトーンには、何となくしっくり来ないのだ。

 

 私の「赤い靴」のイメージを支配しているのは、ちあきなおみさんのNHK『ビッグショー』(1977)における歌唱かも知れない。幾つものヒット曲やジャズ、ロック等々を歌った後、ラストに歌われたのがこの「赤い靴」だった。その時のちあきさんのMCを要約すると、「最近この歌が胸に沁みてくるようになった。私には何故か、異人さんに連れて行かれた女の子が、小さい子どもだとは思えない」と言うのだ。語るような歌唱も心に残っている。

 

 宏美さんによる「赤い靴」は、もちろんいつもの端正な歌唱である。だが、そこに流れているのは、言い知れぬ哀しみである。青木さんの編曲でそれをとても感じるのは、1節と3節の「♪ 赤い靴 はいてた 女の子ー」「♪ 今では 青い目に なっちゃってー」の最後の伸ばす音のコードだ。2節4節は、一般的なコード進行でAm→E7と動くところを、Am→B7/Aとしているところである。

 

 異国繋がりで続けて演奏されているものの、青と赤という色彩以上に、この2曲は対照的にかけ離れた童謡のように思えるのだ。

 

(1978.10.25 アルバム『ALBUM』収録)