全作曲:筒美京平、名盤中の名盤の誉れ高い『パンドラの小箱』収録。このアルバムは、全編にわたってオリエンタル、エキゾチック、ミステリアス&ダンサブルな濃い印象が強い。B面トップの「シンデレラ・ハネムーン」が終わると、謎めいた雰囲気は薄まるが、それ以降の4曲も、注目に値する完成度の高いサウンドとボーカルを誇る名曲揃いである。
さてこの「ミスター・パズル」は、高田みづえさんの「硝子坂」やキャンディーズの「わな」などを書いた島武実さんの作詞である。彼を愛しながらも結局は共に生きられないと思っている主人公の、それでもなお揺れ動く心模様が歌われる楽曲である。だが彼は、「どうしたの? TVがおもしろいよ」「どうしたの? まぶたがはれてるよ」と、彼女の心の動きには鈍い男のようだ。
そもそも「ミスター・パズル」とは何ぞや。「パズル」をWikipediaで調べると、唸るようなことが書いてあった。
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論理学的には、複数解が矛盾してしまう「ジレンマ」、論理的に解けそうでいて不思議と解答が見つからない「パラドックス」に対して、唯一解が出せるものを「パズル」と定義することができる。
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そうだったんだ。妙に納得。だが、もちろん一般的には「娯楽として提供される問題や謎全般」を指すだろう。私は、パズルと言うと真っ先に頭に浮かぶのは、下の画像のようなものだ。
この曲の歌詞も、「出逢い・別れ・早すぎた愛・短かな時・確かな悲しみ」などと言うパズルのピースがあり、「♪ いろんな組合せありすぎて/私もとに 戻せない」と歌う。バラバラにしてしまったピースを、元通りにする解が見つからない。あなたはミスター・パズルよ!という感じだろうか。
一つ気になるのが「短かな時」という言葉である。初めて聴いた時「身近な」の間違いかと一瞬思ったが、意味を考えると「短い時」ということか。東京方言では通常「短い」は形容詞で、「短かだ」という形容動詞は存在しない。だが、ある言葉が「ある」とか「正しい」ということは言えても、「ない」とか「間違いだ」ということは、なかなか証明できないものだ。もしかしたらどこかの地域で使われている言葉か、或いは島さんが意図的に作り出した言葉なのか。
以前何かで読んだ、ある方の話を思い出した。幼児にとって、1音節だけの名詞というのは捉えにくい。なので、「血が出た」「蚊に刺された」のことを、幼児はよく「血がが出た」「蚊にに刺された」と言い間違える。という話をある地方での講演で話したら、その地域の方言では、大人も「血がが出た」と言う、ということを後から聞いて冷や汗が出た、という話である。
なので、軽々に「この言葉は間違っている」とか、「そんな言葉は存在しない」などということはできない、と知っておくべきであろう。
大きく脱線してしまった。歌の話に戻す。サウンドはとてもゴージャスである。メロディアスでなく叩くようなリズミカルなキーボードの音、出だしのリフレインから全編を通じて印象的なコーラスワーク、そしてファンキーなギターソロなど、美味しいところだらけだ。
宏美さんのボーカルも勢いがあって好きだ。特に音域の上がった「♪ 出逢いと別れ その間には〜」からの歌い方が小気味良い。特に私は、最後の「♪ 私もとに 戻せない」の「私」の「し」の声の出し方が、何故か萌えポイントである。
2コーラス目の最後、リフレインの前に「♪ 私もとに 戻せない」が繰り返されるところがある。その「♪ 戻せーなーいー」の所が、初めて聴いた時「シンシアの『ともだち』にソックリ!」と思った。「ともだち」の最後の「♪ とても声に 出ーしーてー言ーえーーなーいー」の部分だ。両曲ともハーフテンポになるし、コード進行もほぼ同一と考えていいだろう。さらに、赤太字で示した部分はメロディーも全く同じである。
同じ京平メロディーということで、類似性を発見して嬉しかった私。南沙織さんの「ともだち」、聴いてください。件の箇所は2分50秒くらいからです。😊
(1978.8.25 アルバム『パンドラの小箱』収録)
