6thアルバム『二十才前…』で、宏美さんの新たな側面を見せる軽快なポップチューンである。作詞作曲が「どうぞこのまま」の丸山圭子さん、編曲は佐藤準さん。丸山さんと佐藤さんは元々仕事仲間で、この「季節のかほり」の頃に結婚され、お二人のお子さんがいらっしゃるが、その後離婚されたらしい。

 

 宏美さんは当時からこの曲を気に入っていらして、紙ジャケ時のライナーノーツでも、レコーディングスタジオに丸山圭子さんがいらしたことを懐かしそうに回想している。また、デビュー5周年記念のアルバム『宏美』にも、「季節のかほり」は収録されている。

 

 丸山圭子さんご自身のアルバムにも収録されているので、ご本人のバージョンをお聴きいただこう。

 

 

 タイトルに出てくる“かほり”だが、「シクラメンのかほり」(1975)が大ヒットした時に話題になった記憶がある。“香り”は現代仮名遣いでは“かおり”、歴史的仮名遣いでは通常“かをり”である。それを敢えて“かほり”としたのは、作者の小椋佳さんの奥様のお名前が「佳穂里」(かほり)さんだったため、という説が流れた(小椋さんは否定)のだ。“かほり”という仮名遣いは間違い、という指摘も耳にした。

 

 だが、今回調べてみたら、現在歴史的仮名遣いとされているものは、江戸時代中期の契沖による契沖仮名遣いを発展させたものであるらしい(Wikipedia等による)。それ以前は藤原定家(平安末期〜鎌倉初期)が始めた定家仮名遣いがスタンダードだったと言う。それによると、“かおり”は“かほり”だったのだそうだ。だから、必ずしも間違いである、とは言い切れない。

 

 さて、歌の話に入ろう。タイトルは「季節のかほり」なのだが、歌詞中にハッキリ季節を示す言葉が出てこない。「♪ それは こんなあたたかい昼さがりの事でしたね」というフレーズがあるのみである。ネットで検索してみたら、「暖かい昼下がり」は秋〜冬〜春、と幅広い季節で使われているようだ。私のイメージでは、次に「♪ それは 幼い私に はじめての恋だったのです」と続くので、初恋の芽生え、という意味では冬から春へ、「早春」が似合うのかな、と。皆様はいかがお感じだろうか。

 

 そしてそれから何度目かの同じ季節が巡って来て、「忘れそうな想い出」を振り返る主人公が描かれているのだ。甘酸っぱい想い出を、宏美さんはあくまで明るく歌い切っている。

 

 曲は、イントロからとてもキャッチーである。ストリングスのユニゾンが階段を駆け上がるように奏されると、まだ世に出たばかりの電子ドラムの音が反対に下って行く。すると、♪ テュルル トゥルル〜とコーラスが入り、ピアノとベースがユニゾンで印象的なパッセージを奏でる。

 

 歌に入り、リフレインの「♪ ああ 季節のかほりにも 〜」の部分に続いて、「♪ あの日 あなたに言いかけて〜」のパートでは、これまた耳に残る♪ Uー⤵︎wa(p)、というバックコーラスが繰り返される。

 

 続く「♪ それは こんなあたたかい昼さがりの事でしたね〜」は、当時としてもかなり高音(最高音はD)が続くパートで、細かい符割で畳みかけるように歌う宏美さんの歌声は、とても新鮮に感じた。僅か2分37秒という演奏時間も清々しい。

 

 

 私は、この歌を『二十才前…』のアルバムでゲットする以前に、NHK-FMの『ひるの歌謡曲』という番組でエアチェックして知った。その時のテープは残念ながら行方不明だが、1980年前半の放送だったのではないかと思われる。この「季節のかほり」以外はシングル曲ばかりの放送だったが、突如「丸山圭子さんの作詞作曲で、『季節のかほり』」と斎藤光太郎アナウンサーが紹介し、この曲が流れたのだ。

 

 『ひるの歌謡曲』と言えば、ビッグバンドの演奏による当時のテーマ曲が懐かしい。YouTubeで探したところ、嬉しいことにヒットしたのでご紹介しておこう。

 

 

 この「季節のかほり」は、私はラッキーなことに1981年の春のツアーで、2度生でも聴いている。「恋待草」がシングルの頃で、オープニングは和服だった。ドレスに着替えて一発目がこの「季節のかほり」。宏美さんの溌剌とした表情と歌声が脳裏に甦る。

 

(1978.4.5 アルバム『二十才前…』収録)