先日の『今宵★jazzyに!7』で、生の三浦祐太朗くんを初めて見たし、聴いた。なかなかの好青年だし、歌も良かった。だが、2世タレントさんの宿命だろうが、どうしても話題は百恵さんのことになりがち。もちろん、彼は百恵さんの威光を以って現在のポジションにいられる部分もあるわけだし、甘んじて受け容れなければならないだろう。それにしても、「山口百恵」という偉大なアーティストが、人気絶頂期に結婚・引退した一種特異な存在であるだけに、彼にとって重荷にならなければ良いのだが、とふと思う。

 

 

 今日取り上げる「乙女座 宮」は、ご存知百恵さんの21stシングル。お馴染み阿木燿子&宇崎竜童コンビの作品だ。宏美さんが、百恵さんのトリビュート・アルバムで取り上げ、後にシングル「手紙」のボーナストラックとしても収録している。

 

 今回のブログを書くに当たって、『山口百恵トリビュート Thank You For…』のAmazonレビューにひと通り目を通して、少し驚いた。アルバム全体を通して、大変評価が低いのである。それも、「酷評」と言って良いものさえ目につく。カバーやトリビュートと言った類のアルバムの難しさを改めて思い知った。特にそれが、伝説化しているとさえ言える「山口百恵」作品であったから、なおさらであったろう。私個人としては、充分楽しめたアルバムであったのだが(確かに「ロックンロール・ウィドウ」を2組のアーティストがカバーしているのは、やや腑に落ちなかった)。

 

 ここからは私見である。私は、カバーやトリビュートと言ったものは、オリジナル作品や歌手へのリスペクトの上に、いったんその曲のイメージを真っ新にして、新たな魅力を生み出すものであって欲しいと思っている。アレンジャーやミュージシャン、そしてシンガーが自身の解釈を加え、別の切り口から様々なチャレンジがなされるのが楽しみなのである。オリジナルをそのままなぞるようなものは、個人的にはあまり面白くない。

 

 そういう意味で、宏美さんの「乙女座 宮」はたいへん面白かった。編曲は、21世紀の宏美さんをサウンド面でサポートする古川昌義さんだが、良い意味で予想を裏切られた。オリジナルとももちろん全然違う。古川さんっぽくアコギのサウンドを活かし、宏美さんらしいバラード調ででも来るかと思ったら、ロックだった!

 

 

 ボーカルの出だしからは、ほぼギターのみの地味目の演奏に乗せて歌われる。だが、「♪ 幸福を探しにゆくの」でAメロが終わり、サビの「♪ さぁ 流星に乗って 銀河大陸横断鉄道〜」に移るところが超カッコいいのだ。通常なら、何かの楽器のフィル等で盛り上げてサビのフレーズに入りそうなものである。ところが、このアレンジでは一旦バックの演奏が止まってしまうのだ。そして一瞬の静寂の後、「♪ さぁ」でいきなりフォルティッシモになり、バンドのサウンドが全開となるのが快感。

 

 2コーラス目はAメロからドラムスも入って、前半からアゲているが、宏美さんのボーカルは一貫して比較的淡々と歌われているのがこのテイクの特徴だ。音域が低いせいもあるが、得意の歌い上げを敢えて封印しているかのようでもある。

 

 古くからのファンの方は、とうにご存知のことだと思うが、もう一つだけ。この曲は、百恵さんの『夜のヒットスタジオ』最後の出演の際、百恵さんのヒットメドレーで宏美さんと高田みづえさんが歌っているのだ。お二人ともすぐに涙声になってしまい、ちゃんと歌えなくなってしまうのだが。

 

 この時、あまり馴染みのなかった2番の歌詞が歌われ、おや?と思った。

 

♪ 私 すぐに行くわ

 いいえ 悔やまないわ

 信じる事が愛だと教えてくれた

 やさしいあなたと

 

 だがそれは、これから友和さんに嫁ぐ百恵さんの胸中にピッタリの歌詞をお二人が選ばれたのでは、と後から気づき感激した覚えがある。

 

 この時の映像もYouTubeに上がっていたので、最後にご覧いただこう。宏美さんとみづえさんの「乙女座 宮」は、1:45くらいから。残念ながら百恵さんに声をかけるシーンはカットされているが。

 

 

(2004.5.19 トリビュート・アルバム『山口百恵トリビュート Thank You For…』収録)