アルバム『Thanks』、2009年のツアー『Thanks』の双方で幕開けを飾ったナンバーである。波の音、パーカッション、シンプルなピアノの音から始まり、ふっと肩の力の抜けた宏美さんの歌声が心地よく入ってくる。静かに波が打ち寄せる朝の浜辺のイメージである。全編に南国情緒漂う楽曲である。

 

 作詞:榊原智子さん、作曲:上新功祐さんというのは、このアルバムで初めての楽曲提供になる。作詞の榊原さんは、沖縄八重山のユニット彩風(すでに解散)に何曲か詞を提供している。作曲の上新さんは、シンガー、プロデューサー等様々な肩書きあり。彼は渡米、阪神淡路大震災後の避難所での演奏活動を経て沖縄に移住。そこでスカウトされデビューということで、お二人とも沖縄に縁の深い方である。

 

 という訳で、「南国情緒漂う」と私が感じたのも、故なきことではなかったかも知れない。

 

 この時期の宏美さんは、「ARIGATO〜未来を信じて」の折りにも触れたが、とてもプライベートも充実して過ごされているご様子である。そんな宏美さんのお心を映してか、この「海のバラード」の歌声はどこまでも穏やかである。

 

 「♪ ひとしずく 祈りの涙〜」から、やや起伏のあるメロディーになるが、そのまま盛り上がり切ることはない。「♪ 流れのままに 流されて〜」からのリフレインは、歌詞のままに揺蕩うような音楽である。

 

 編曲はお馴染みの西脇辰弥さん。誕生したばかりのV-PIANOを使用したアレンジ、十八番のクロマチックハーモニカのソロが聴きモノだ。バックボーカルにクレジットされたkosukeさんは、おそらく作曲者の上新さんであろう。こちらも注目。

 

 

 私がこの歌と共に思い出す風景は、車の窓から見える埋立地の海岸線である。何故南国情緒なのに埋立地?と思われることだろう。このアルバム発売の3日後、私は当時お世話になっていた職場の先輩の見舞いに行った。彼女が入院していた大学附属病院が、埋立地にあった。発売当初だったので、車に乗っている間は、ずっと『Thanks』ヘビロテである。しばらく海辺を走ったせいもあるのだろう、その風景と「海のバラード」がセットになってその時の思い出になっているのである。

 

 幸い彼女は手術も成功してその後職場に復帰、仕事を全うして退職した。今は第二の人生を謳歌している。

 

 ちなみに現今のコロナ禍で巷に急速に広まった非接触型の体温計だが、私はこの時の見舞いの際、大学病院の入り口で計られたのが初体験であった。

 

(2009.5.20 アルバム『Thanks』収録)