キャロル・キングのアルバム『つづれおり(Tapestry)』に収録されているナンバーである。

 

 

 宏美さんは2009年のツアー『Thanks』でこの曲を歌っており、その模様はDVD等でも観ることができる。2011年に、直近5年間のライブ音源からチョイスした『LIVE BEST SELECTION』にてCD化された。

 

 この曲について語るには、まずBEGINが発明した楽器、「一五一会(いちごいちえ)」に触れなければならない。というのは、宏美さんがライブの中で、この「It’s Too Late」は一五一会の弾き語りを披露されているからだ。

 

 一五一会は、「生活と音楽の距離がもっと近ければ、世の中もっと楽しくなる!」という想いから、沖縄出身のBEGINが、ヤイリギターと協同で開発し、2002年に発表されている。人差し指一本でコードを押さえることができ、誰でも親しみやすい楽器、というスグレモノである。

 

 どうして指一本でコードを押さえられるのかというと、調弦が〔G-D-G-D〕(ソ-レ-ソ-レ)となっているためだ。空虚5度(※ 楽曲中における完全5度のみの響きを指す音楽用語。長三和音、短三和音の第3音を欠いていることで、長調、短調いずれの性格も持たない。同様の手法をロックではパワーコード呼ぶ。ーーWikipediaより)を活用しているので、曲の流れによりメジャーにもマイナーにも聞こえるのだ。

 

 宏美さんの一五一会レパートリーにある「すみれ色の涙」「THANKS」を例にとってみてみよう。前者はAマイナー(一五一会ver.)、後者はAメジャーの曲である。両曲の歌い出しの「♪ すみれって」は通常Am=ラドミ、「♪ あなたに」は通常A=ラド♯ミ、である。ところが、一五一会のコードでは同じラミ、の2音しか鳴っていないのだ。でも、流れやメロディーの音(他の楽器があればその音)により、「すみれ〜」はマイナーに、「THANKS」はメジャーに、何となく聞こえるのだ。

 

 楽器は苦手だと公言する宏美さんだが、この一五一会はお気に入りで、毎年ライブハウスでは必ず、コンサートツアーでも時に「気分は中島みゆき」の弾き語りが披露される。宏美さんが一五一会を肩からかけて歌われると、何とはなしにほのぼのとした空気が流れる。私はそれが好きなのだが、ファン仲間でも賛否両論ある。「もうやめていいんじゃない?」派の言い分は、「もう10年以上弾いているのだから、続けるのであれば、ストロークの方を勉強して欲しい」というのである。たしかに、宏美さんはダウンストロークのみで、コードが変わる際に♪ ジャーン、と上から下へかき鳴らすだけなのだ。宏美さんは、爪も伸ばしていらっしゃるし、まぁ私個人は一五一会コーナーは、余興的にあっても良いのではないかと思っている。

 

 さて、ようやく「It’s Too Late」にたどり着いた。宏美さんはキャロル・キングも大変リスペクトしている。これまでにも「One Fine Day」「You’ve Got a Friend」などをコンサートで取り上げている。

 

 英語の曲の場合、宏美さんは好きな歌手の曲等で耳慣れていると、英語の発音が特に良い気がする。宏美さんの音楽性の素晴らしさは、きっと耳の良さに起因する部分も大きいと思うのだ。この「It’s Too Late」も例外ではない。

 

 このブログのために、久々に聴き直し、DVDも観たら、観入ってしまった。上杉クンアレンジのイントロ、ピアノとギターの入り方もキャロルへのリスペクトを感じる。ギターと口笛のBABIちゃんこと馬場一嘉さん、懐かしい。ベースとコーラス担当の茂さんは、今や帰らぬ人である。今残っているメンバーはピアノの上杉クンとドラムの石川さんだけだ。

 

 

 宏美さんが英語の歌の時に繰り出す、ちょっとラフな歌い方もたまらなく好きだ。「♪ One of us is changing....」「♪ And it’s to late,baby....」「♪ Something inside has died and I....」2コーラス目からの「♪ oh no no...」の太字箇所など、私にはツボである。

 

 近年のライブ、コンサートはオリジナル中心である。もちろんそれは素晴らしいのだが、時にこのような宏美さんの原点たる洋楽も披露し続けて欲しいものだ。そして、一五一会の進化系の演奏も是非❣️

 

(2011.10.12 アルバム『岩崎宏美 LIVE BEST SELECTION 2006-2010』収録)