飛行服夜話 第二十一夜「B-3(後期型)」 | 飛行服千夜一夜物語

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どんなフライトジャケットにも、袖を通した者と歩んだドラマがあるもの。
飛ばなくなったフライトジャケット達との思い出話と、そこに秘められたヒストリーを紹介します。

 こんばんは。
 久々にフライトジャケットのお話です。

 前回はフラ本「B-3」を紹介しましたが、今回は実物のB-3(後期型)を紹介します。


 B-3は、B-1/B-2ジャケットの後継として、1935年から1943年まで製造された、米陸軍航空部(陸軍航空隊)の冬季・高高度用フライトジャケットです。

 A-3トラウザーズと組み合わせ、電熱服を中に着込んで使用されます。

 想定気温は−32℃。よく言われる「Heavy zone」と言う区分は、B-3の時代はまだありません。

 A-2と並ぶ、レシプロ時代を代表するクラシカルな外観の、まさに「ザ・フライトジャケット」です。


 欧州戦線のB-17爆撃機が出てくる映画やドラマではお約束のフライトジャケットなので、知っている方も多いと思います。

「戦う翼」のスティーブ・マックイーン。着古した加工が凄まじく、袖口は完全に崩壊している! B-3は結構タイトなジャケットなので、こんな感じで大きめを着たほうがいいと思う。


アラフィフには懐かしい映画「メンフィスベル」。この映画のB-3ジャケットとA-3トラウザーズは作りが怪しい……ので、ストーリーを楽しみたい。人乗りすぎのこのジープのシーンも驚いた。ジャケットの下に着ている青い服はF-1電熱服だ。


「Maters of the Air」のオースティン・バトラー。本作品で使用されたフライトジャケットは、英国エアロレザー社とイーストマン社が供出した。B-17にはB-3ジャケットがよく似合う。


 B-3は大まかに4種類に分類でき、以下のような特徴があります。


【最初期型】(1935〜1936年)

 イギリスのアービンジャケットに似たノンコーティングのジャケット。袖にジッパーがある。おそらく現存していない。

【初期型】(1937年)

 一般的なB-3の作りだが、ノンコーティングのもの。いわゆるホワイトB-3(ベージュ色だが)。襟が大きい。

【中期型】(1938〜1941年)

 ラセットブラウンで塗装後にクリアコートしたもの。いわゆる赤革。後からシールブラウン等で再塗装されたものも多い。背中は2枚革。

【後期型】(1942〜1943年)

 背中が3枚革になったもの。塗装は、当初はラセットブラウンだが、徐々にシールブラウンになっていく。2色が中途半端に混在しているものもある。総じて品質が悪い。


 参戦直前の1941年頃には、既にシープスキンの調達が難しくなっていったようで、中期型の途中から革の質が低下していきます。

 それに伴い、小さい革のツギハギで作られるようになりました。

 前からの見ただけでは、中期型と後期型の区別はつきません。

 なお、後期型のうち、エアロレザーの1943年製、43-13616AFのみ、袖の補強革が小さく、サイドベルトがAN-J-4のようになっているレアな個体です。「FULLGEAR」では「ver.5」として類別されています。


 とても安っぽい作りの後期型B-3ですが、「FULL GEARブログ」によると、1944年時点のB-3ジャケットの価格は41ドルだそうです。

 現在の価値にするといくら位でしょうか。

 ハイパーインフレ状態の1944年当時の日本と比べてもしょうがないので、以前にエアロレザーA-2で使用した1940年当時の円相場と日本の物価を用いると、現在の日本円で¥292,740になりました。意外と高価ですね。


 

 それでは私の後期型B-3(1943年 H.L.B. CORP. 製 535-43-13618 AF)を紹介します。 

 見た目はボロですが、今のところ破れはありません。


 一瞬見た時は初期型のホワイトB-3かと思いましたが、単にコーティングが剥がれているだけでした。

 しかし、見事に胴体部分だけ見事に白くなっています。HLBのこの契約分は、胴体部分だけがはげて白くなる特徴があるようです。

 経験上、M-445やD-1もそうですが、コーティングが剥がれて白くなるシープスキンは破れにくいものが多いです。

 袖の補強革は何の革かはわかりませんが、まるでプラスチックの様に硬いです。


 後期型の特徴として、背中は3枚の革を「逆さT」に貼り合わせてあります。同じメーカーのB-3でも、下側の革の面積が広いものもあります。


参考に同じHLBの42-5112Pの背面。下側の革の面積が大きい。

 

 一般に後期型B-3は、小さい革を縫い合わせたツギハギだらけのものが多いですが、このB-3は一箇所もツキハギはありません。


 ジッパーはタロンM42です。

 この鉄に亜鉛メッキを施しただけの戦時型ジッパーは、最初は亜鉛が先に酸化することで錆から守ってくれるのですが、何回も開け閉めしているうちにメッキの亜鉛が摩耗してしまい、やがて写真のように錆びて崩壊していきます。

 このジッパーは大阪MASHで新品で手に入りますが、使用を続けると必ず錆びるので、錆止め剤をこまめに塗る必要があります。

 アメリカでさえもクロムや銅といった物資の確保に苦労していた事が伺えます。戦争末期の日本軍でも、こんな酷い素材を飛行服のジッパーに使用することはありませんでした。



 襟裏のコーティングは剥がれていません。油断するとやぶけそうです。ベルトのバックルも錆びまくりです。なんか小汚いですね。


 襟の反対側です。ベルトは安っぽい牛革を使っています。


 ラベルです。シープスキンジャケットはどれもそうですが、毛が邪魔でうまく写真がとれません。

 HLB社は、他社と比べて質の良い革を使っている気がします。


 ジャケットの内側にタグが付いています。防虫処理が施されているようですが、詳細はわかりません。

 「Pennsylvania Salt Manufacturing Company」は、1850年にフィラデルフィアで設立されたケミカルメーカーです。海塩から炭酸ナトリウムを製造していました。何度か社名を変更し。1990年に消滅したときは「Pennwalt Corporation」という社名でした。


 後期型B-3の生産数はかなり多く、90年代はたまに見かけることもあったのですが、80〜90年代に劣化が進行し、破れて廃棄したものが多いようで、現存する物は多くありません。

 しかし中には、偶然的に質の良い革が組み合わさった個体もあり、着用可能な後期型B-3も稀に存在します。


 材料の確保に苦労しながらもそれなりの数を生産したB-3ジャケットでしたが、素材入手の困難化による製造コストの増大によって、拡大する需要をまかなうことができなくなり、やがて支給されない搭乗員が増えていきます。

 それがB-9やB-11といったコットン製ヘビーゾーン用フライトジャケットの誕生につながっていきます。



 リプロ品のB-3を見ていきましょう。

 昨今の円安の影響もあってか、いずれもかなりの高額であり、富裕層か相当購入意思が強い方でないと購入は難しいです。バズリクソンズは、ここ最近はB-3をリリースしていないようです。


【トイズマッコイ】



 トイズは「戦う翼」でスティーブ・マックイーンの着用したB-3を再現しているため、後期型が多いようです。

 価格は¥385,000ですが、少し安いB-3もリリースしています。

 作りは極上です。



【イーストマン】


 価格は¥317,000。ラフウェアの42-18653PをモデルとしたB-3です。

 フライトジャケット研究家でもあるイーストマン氏の作品だけあって、実物の雰囲気がよく出ています。しかもジッパーは当時の実物タロンM-42。錆対策を忘れずに!



【(現)リアルマッコイズ】


 価格はトイズのB-3と同等の¥385,000。ベルト以外全面シールブラウン。黒すぎて、まるでバズのウィリアム・ギブソン・コレクションのよう。

 ちなみに現マッコイは中期型B-3も出しているが、なんと55万円もするブルジョア仕様! 



【(旧)リアルマッコイズ】



 私のコレクションの写真です。
 前回紹介した雑誌「B-3」において、「STEVE McQUEEN COLLECTION」として販売されていた「McQUEEN B-3」です。定価は¥215,000でした。
 B-3って動きにくい上に、見た目ほど暖かくはないんですよね。下にTシャツ一枚で真冬を過ごせるのはマッチョだけです。そんなこんなで、しばらく着ない時期があったのですが、いつしか腹が出て着れなくなっちゃいました……(涙)。
 


今回はこれで終わりです。

いかがだったでしょうか?


知名度の高いフライトジャケットなのに、ビンテージもリプロ品も幻になりつつあります。

実物B-3はなんとも言えない迫力と凄みがあります。

もし機会があれば、ぜひ実物B-3に触れてみて下さい。きっと当時の空気感を感じてもらえると思います。


それでは次回もお楽しみに!