飛行服夜話 第十七夜 「CWU-36/P(後編)」 | 飛行服千夜一夜物語

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どんなフライトジャケットにも、袖を通した者と歩んだドラマがあるもの。
飛ばなくなったフライトジャケット達との思い出話と、そこに秘められたヒストリーを紹介します。

 前編からの続きです。

 ↓前編はこちら


 1977年以降、大量に作られているCWU-36/Pですが、大きく4種類に区分できます。あまり詳しくないので、大雑把ですが……

 ① 初期型
       1977年から1980年までに製造され、背中にアクションプリーツがついたもの。ノーメックス製で色はグリーン。
 ② 中期型(グリーン)
       1981年から2010年までに製造され、アクションプリーツが無いもの。ノーメックス製で色はグリーン。
 ③ デザート
       デザートイエローのもの。アクションプリーツは無い。年式不明。
 ④ 現行型
       2010年以降のノボロイド生地のもの。



 アクションプリーツがあると腕の可動域が広がりますね。アメリカではバイスイングと呼ばれ、USNのジャケットではWWⅡ前から見かけます。
 「コクピット内で引っかかるので廃止された」とか聞きますが、どうなんでしょうね。70年代以降の戦闘機のコクピットはかなりスッキリするので、引っかかるなんてあり得ないと思うんですが。航空自衛隊のパイロットジャンパーには今だにあるのに…。
 

 上はノボロイド生地のもの。ツヤが無くコットン製のよう。トップガン・マーベリックで着用していたCWU-36/Pは、時代背景的にはノボロイドになるのだろうが、つや消しだと映画的に見栄えが悪いのか、ノーメックス又はナイロン製になったようです。


↑CWU-36/Pはつやあり


↑フライトスーツはつや消し(ノボロイド)


 それと、年式で生地の色の濃さに違いがあるような話も聞きますが、それが仕様なのか、生地メーカーの違いや経年変化によるものなのか、私には判断できません。特に初期型は経年による変色が顕著です。


 また、CWU-36/Pのメインジッパーとシガレットポケットのジッパーは、L-2シリーズと同様、幅約5mmの#5ジッパーを使います。よって、務歯の幅は同じになりますが、メインジッパーの引き手には、プルタブをつけるための大きめの穴が必要になります。


 それでは、1977年の初期型(A型)から、1995年製のC型までのCWU-36/Pについて、それぞれの特徴を述べていきます。 
 なぜ1995年までかというと、この時点で私が疲れてしまったからです……。

 他のフライトジャケットもそうですが、ラベルが剥がれてしまった場合でも、ジッパーからある程度のコントラクトの推定ができます。それゆえ、各コントラクトで使用されたジッパーについて、私が確認できた範囲で記載しました。
 間違いや不足があるかもしれませんが、ご容赦ください。

 

🔵 契約: DSA100-77-C-1345
     仕様書: MIL-J-83382A(USAF)
     メーカー: CENTRE MFG.CO.,INC.
     アクションプリーツ: あり


 1977年契約の記念すべき第一作目。空軍のみの契約で、おそらく海軍では使用されていない。

 L-2B(J型)は1977年、1978年及び1979年にも契約があるため、しばらくはCWU-36/Pと並行で調達されている。

 CENTER社は50年代から90年代にかけて、陸軍のM65ジャケット/コート、海軍のWEPジャケットやA-2デッキジャケット、空軍のN-3Bなどを納入してきた器用なメーカーである。


 ラベルはスペックを記載したものと注意書きの2枚。


↓メインジッパー

 

 メインジッパーは2種類。左は77年製の最初期型にのみ使われるへら型のGENERAL。#5ジッパーに不釣り合いなでかい引き手で、あまりミリタリー感がしない。右はSCOVILLのGRIPPER。ミリタリー感とレトロ感があって、とてもカッコいい。


↓シガレットポケットジッパー

 

 シガレットポケットのジッパーも2種類確認。左はGENERAL製。この77年製最初期型のみに見られるSCOVILLっぽいデザインのジッパーだ。右もGENERALだが棒型だ。

 GENERAL社はありとあらゆるファスナーを作る会社(ネジ屋)だが、60年代から80年代にかけてジッパーも作っていた。



🔵 契約: DSA100-79-C-3124
     仕様書: MIL-J-83382B(USAF)
     メーカー: CENTRE MFG.CO.,INC.
     アクションプリーツ: あり
 

 1979年製。さっそくB型になるが、何を変えたのか不明。肩幅や身幅等のサイズ的にも変化無し。契約は空軍のみ。 


↓左:メインジッパー、右:シガレットポケットジッパー
 メインジッパーは、初期型CWU-36/Pを代表するへら型の真鍮製SCOVILL GRIPPERジッパー。レトロな引き手のデザインがかっこいい。70年代後期から80年代中期まで使用される。
 シガレットポケットの方は、77年製でメインジッパーに使用されたのと同じもの。


🔵 契約: DLA100-80-C-2678
     仕様書: MIL-J-83382B(USAF)
     メーカー: CENTRE MFG.CO.,INC.
     アクションプリーツ: あり
    
 1980年製。作りは79年製とほとんど変わらない。契約は空軍のみ。
 
↓メインジッパー
 メインジッパーは、前のへら型SCOVILL GRIPPERに加えて、無地で板状のGENERALジッパーが使用されることがある。これはランダムに入る縦線一本のみという、地味で意味不明なデザインのジッパーだ。

 シガレットポケットジッパー 

 シガレットポケットの方は、前コントラクトと同じもの。


🔵 契約: DLA100-80-C-3311
     仕様書: 記載無し
     メーカー: ALPHA INDUSTRIES, INC.
     アクションプリーツ: あり
   
 1980年製。メーカーは名門のALPHA社。スペックのUSAF表記が無いため海軍の契約のようにも思えるが、複数のビンテージ品のパッチの跡から空軍のみでの契約であろうと推定する。アクションプリーツはこのコントラクトで最後。


   ラベルは通常、スペックの下に注意書きが来るが、このコントラクトだけ、それが逆になる。あと「MIL-J-83382B」の記載が無い。

 

 ジッパーは79年製と同じ。

↓左:メインジッパー、右:シガレットポケットジッパー

  

🔵 契約: DLA100-81-C-3672
     仕様書: MIL-J-83382B(USAF)
     メーカー: ALPHA INDUSTRIES, INC.
     アクションプリーツ: なし
    
   1981年製。B型だがアクションプリーツの無い変異種。しかも肩を立体的にする2本の縦ステッチも無くなったので、背中は真っ平だ。サイズ感は従来と同じ。


 ジッパーは前コントラクトと同じ。

↓左:メインジッパー、右:シガレットポケットジッパー



🔵 契約: DLA100-85-C-0470
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: AVIREX LTD.
     アクションプリーツ: なし


   1985製。有名なAVIREX製で、同社は1984〜1986年の時期にCWU-45/PやCVCジャケットも作っている。初のC型だが、サイズは以前のものと有意差は無い。「USAF」の表記はないが、複数のビンテージ品のパッチの跡から、海軍では使用されていない模様。

↓左:メインジッパー、右:シガレットポケットジッパー
 シガレットポケットのジッパーは、タブに「S」の一字が入ったもの。80年代中期から末期に見られる。SCOVILLらしからぬヤッツケデザインだ。


🔵 契約: DLA100-86-C-0336
     仕様書: MIL-J-83382C(USAF)
     メーカー: ALPHA INDUSTRIES, INC.
     アクションプリーツ: なし
   
   1986年製。空軍の契約。先の85年製と同じジッパーのため、ラベルがないと識別困難。

↓左:メインジッパー、右:シガレットポケットジッパー


🔵 契約: DLA100-86-C-0413
     仕様書: MIL-J-83382C(USAF)
     メーカー: ALPHA INDUSTRIES, INC.
     アクションプリーツ: なし
      
 1986年製。空軍の契約。先の86年製と瓜二つで、ジッパーも同じ。ラベルがないと識別できない。


🔵 契約: DLA100-87-C-0396
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: ALPHA INDUSTRIES, INC. 及びSUMMIT APPAREL CORP.(MFG)
     アクションプリーツ: なし
    
   1987年製。このコントラクトから、空軍と海軍の双方で使用したことが確認できる(CWU-36と45はファションでパッチを付ける人が多いので、間違ってたらごめんなさい)。

 VP-16のパッチを付けた87年製のCWU-36/P。この当時の海軍のCWU-36/Pは、結構珍しい。


 この当時、VP-16はバミューダ海軍航空基地にて、P-3Cによるカリブ海方面の哨戒任務に就いていた。なお、VP-16は初めてP-8哨戒機を運用した部隊になった。


 ALPHAとSUMMIT APPARELのダブルネームだが、どういう意味だろうか? 現在でもSUMMIT APPAREL CO.というアウトドア系衣料メーカーがあるが、関連は不明。


↓メインジッパー

 メインジッパーはへら型のSCOVILLだが、右の新しいデザインのものが使われる場合がある。このジッパーの引き手は二文字目以降、小文字になる。80年代的な、なんかダサいデザインだ。


 シガレットポケットジッパー 




🔵 契約: DLA100-88-C-0635
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: ALPHA INDUSTRIES, INC. 及びSUMMIT APPAREL CORP.(MFG)
     アクションプリーツ: なし

   1987年製。ALPHA社としては最後の納入品。こちらもSUMMIT APPARELとのダブルネーム。
 冷戦終結後の90年代から、米軍は中小企業との契約を優先するようになったため、ALPHA社は系列のVALLEY APPAREL社に軍納入品を作らせ、自身は民生品の製造に特化するようになる。

↓左:メインジッパー、右:シガレットポケットジッパー


🔵 契約: DLA100-89-C-0508
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: ISRATEX, INC.
     アクションプリーツ: なし

   1989年製。87年製と使用しているジッパーが同じで識別しにくい。
 ISRATEXは1993年に破産するメーカーで、表舞台からすぐに消えてしまう。イスラエル系のテキスタイルメーカーっぽい名前。


🔵 契約: DLA100-91-C-0308
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: CREATIVE APPAREL ASSOC.
     アクションプリーツ: なし
    
   1991年製。社名の「ASSOC.」は「ASSOCIATES」の略。同社は陸軍のCVCジャケットなども納入していた。現在はTシャツやスエットパーカーなどを作っているようだ。
 このコントラクトにしか見られないジッパーが使用されている。なお、メインジッパーとシガージッパーは同じブランドになる。

↓メインジッパー

   メインジッパーは3種類確認。ALPHA社の民生品でよく用いられるIDEAL社製のジッパーが登場する。へら型のIDEALジッパーは、このコントラクトでしか見られない。

 シガレットポケットジッパー 
   シガレットポケットのジッパーはよく似たデザインのIDEAL社製とSCOVILL社製の2種類を確認しているが、どちらもこのコントラクトでしかみられない。


🔵 契約: DLA100-93-C-0323
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: ISRATEX, INC.
     アクションプリーツ: なし
    
   1993年製。ISRATEX社の破産申請中の時期であり、生産数は多くない。
 このコントラクトからジッパーにYKKが使用される。メインジッパーとシガレットポケットのジッパーで同じものを使用している。
 ジッパーのタブにYKKの文字があるものとないものがある。YKKジッパーのデザインは大変地味だが、スライダーの動きはとても滑らかで、従来の米国製ジッパーとは一線を画す。



↓メイン/シガレットポケットジッパー

 



🔵 契約: DLA100-93-C-0323
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: CARTER INDUSTRIES, INC.
     アクションプリーツ: なし
    
   先の1993年製と同一契約。CARTER社は、破産したISRATEX社の生産設備と契約を引き継いだ企業。よって同じコントラクトナンバーである。当然、作りも全く同じ。こちらも生産数は多くない。


 先のISRATEXと同じ契約番号だが、下半分の注意書きの文字の大きさが、このCARTERの方が若干大きい。



🔵 契約: DLA100-95-C-4015
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: GIBRALTAR PR. INC.
     アクションプリーツ: なし
     
   1995年製。この会社は、80年台から各種トラウザーズを陸軍や海軍に納めてきた。 

↓メインジッパー


↓ シガレットポケットジッパー

 このシガレットポケットジッパーは先端部が細くなっているので、プルタブが付けられず、メインジッパーには使えない。



🔵 契約: DLA100-95-C-5006
     仕様書: MIL-J-83382C
     メーカー: CREATIVE APPAREL ASSOC.
     アクションプリーツ: なし
    
   1995年製。ここまで来るとジッパーもかなり地味になってくる。どちらのジッパーもIDEAL社製で見た目も似ているが、メインジッパーの方がやや大きい引き手が付いている。

↓メインジッパー


↓ シガレットポケットジッパー



 …もう、この辺で勘弁してください。

 CWU-36/Pは、ビンテージマニアからは敬遠されるフライトジャケットかもしれませんが、調べてみるといろんな発見があって面白かったです。
 アクションプリーツのある初期型って、海軍では支給されてないような気がします。
 そうなると、海軍のサマーフライトジャケットって、1962年のMIL-J-7758Bから1987年のCWU-36/P(C型)まで、25年間もの空白期間があるんですが、どうしたんでしょうね。そもそもサマーフライトジャケットって、必要性が薄い気がします。わからないことだらけです。

 今回はこれで終わりです。
 次回もお楽しみに!