飛行服夜話 第十六夜 「CWU-36/P(前編)」 | 飛行服千夜一夜物語

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どんなフライトジャケットにも、袖を通した者と歩んだドラマがあるもの。
飛ばなくなったフライトジャケット達との思い出話と、そこに秘められたヒストリーを紹介します。

 こんばんは。
 皆さん、今更ですが、「トップガン・マーベリック」はご覧になりましたでしょうか?

 今回のテーマは、この映画の影響で人気に火が着いた(と言われる)CWU-36/Pです。 

 公開前からCWU-36/Pを紹介するブログや動画が巷に溢れ出したため、皆さん周知かつ食傷気味の内容かもしれませんが、缶ビールでも片手に、一つお付き合いくださいませ……。


 トムさん、何歳になってもカッコいい! 日本にもこういう俳優が一人くらいはいてほしい。


 CWU-36/Pは、米空軍がL-2Bの後継として開発した夏季用フライトジャケットで、1977年以降、現在でも製造され続けています。

 基本的には海軍が開発したCWU-45/Pのデザインを踏襲しています。

 表生地やニット、ジッパーテープ、糸に至るまで難燃性のアラミド繊維を使用しています。

 表生地について、当初はノーメックスが、2010年からはノボロイドという、ぱっと見コットン生地のようなものが使用されています。

 

 CWU-36/P MIL-J-83382C。93年製。独特のツヤのせいで、写真を撮るのが難しい。


 私のCWU-36/Pは、20年ほど前、私が仕事で出入りしていた空自基地で知り合ったパイロットの方(既に退官されています)に安く譲って頂いたものです。

 その方は防大と幹候校卒業後、Pコースに行き、T-3とT-1を卒業後、通常は浜松のT-4に行くところ、米空軍のT-38のコースに進んだのでした。


 富士重が作ったT-1練習機。豚鼻がチャームポイント。とても高周波のやかましいエンジンの飛行機だった。


 T-38C練習機。とても優雅で美しい。元パイロット曰く「とても操縦しやすく、トラブルの少ない飛行機。T-2より全然いい」。……国産のT-2の方が新しいんですけどね。


 米空軍では、航空ヘルメット、飛行服、耐Gスーツ、ブーツなどの個人装具は「支給」というかたちをとっています。 

 空自は「貸与」なので不要になったら返納しなければならないんですが、米軍はあげちゃうんですね。それがサープラスショップに行くわけです。


 そのパイロットの方から「家にあっても邪魔だからあげるよ」ということで、CWU-36/P、フライトスーツ、HGU-55/Pヘルメット(酸素マスク付)、耐Gスーツの四点を、タダでは悪いので、一万円で譲ってもらったのでした。


 航空ヘルメット HGU-55/P。アジア人の頭の形に全く合わないため、大きめのサイズを選択し、頭頂部に詰め物を入れてフィットさせる必要がある。

 

 耐Gスーツ CSU-13B/P。脇腹から出ているホースを機体側に接続する。


 CWU-36/Pはほとんど着用しなかったそうで、新品状態です。ヌメヌメする湿った質感があります。

 その元パイロットが言うには「冬用と夏用の2種類のフライトジャケットを支給された。夏用のジャケットは全然温かくないし、そもそも暑い夏にジャケットを着る必要性が理解できない。冬用の方は今でもプライベートで着ることがあるのであげられないが、夏用はいらないのであげる」とのことでした。

 「しーだぶるゆー何ちゃら」なんて誰も言わなかったそうです。使用温度域も現代では設定されてないんじゃないかと思います。今の軍用機は空調効いてますし。

 

 ところで、CWU-36/Pとか45/Pって、G-1とかWEPの血を引いているからか、無性にパッチを貼りたくなりますよね。

 パッチでカスタムする際に、どこにどんなパッチを貼って良いのか悩む方もいると思います。

 米空軍と米海軍の服装規則を読んで、そのルールを学んでみましょう。


【米空軍の場合】

DRESS AND PERSONAL APPEARANCE OF DEPARTMENT OF THE AIR FORCE PERSONNEL COMPLIANCE (2024年2月29日)


9.5.1. Flight Jacket (Flyers, Jacket CWU-36/P & CWU-45/P). The green Flight Jacket may be worn with the FDU. The green or desert Flight Jacket may be worn with the DFDU. Flight Jackets are required to be zipped at least halfway. Note: Flight Jackets will not be worn with service uniforms (Class B) or OCPs.


  FDUはグリーン、DFDUはデザートイエローのフライトスーツのことです。

 フライトジャケット(CWU-36/P & CWU-45/P)にもグリーンとデザートイエローの2種類があり、FDUに合わせるジャケットはグリーンを、DFDUはグリーンとデザートのジャケットどちらでも合わせていいみたいです。

 それとジャケットのジッパーは半分以上上げろとか、夏制服とOCP(迷彩服)の上には着るなとか書いてます。


9.5.1.1. Configure Velcro® on the Flight Jacket like the FDU/DFDU.

9.5.1.2. Accoutrements on the Flight Jacket include the nametag, MAJCOM, US flag or emblem, unit patch, and rank (officers) and will follow the same guidance as the FDU/DFDU and be consistent in patch color scheme to the FDU/DFDU.


 フライトジャケットのベルクロは、FDUやDFDUと同じように付けなければなりません。

 フライトジャケットに付けるパッチもFDUやDFDU同様、左胸のネームタグ、右胸のメジャーコマンドのパッチ、左肩に星条旗、右肩に部隊パッチだけです。

 パッチの色合いは、FDUとDFDUに合わせなきゃならないそうです。

 ……以上。簡潔かつ厳密!

 パッチくらい好きに貼らせてくれればいいのに。

 でも、左肩のパッチは割と自由っぽい気がします。

 

  FDUを着用したF-22のパイロット


 DFDUを着用したKC-135のパイロット。パッチとネームタグの色調に注目。


【米海軍の場合】

United States Navy Uniform Regulations Chapter6


 b.  Flight Jackets

(1) CWU-45/P Winter Flyers Jacket, CWU-36/P Summer Flyers Jacket, Multi-Climate Fleece Jacket, Climate Fleece Vest, Multi-Climate Shell Jacket.  May be worn with flight suits, but are not authorized for wear off base.


 おなじみCWU-45/PとCWU-36/Pの他、マルチクライメイト何ちゃらが出てきました。これらはフライトスーツと組み合わせるのはいいですが、基地外での着用はできないそうです。

     
 Multi-Climate Fleece Jacket……えっ、これ、フライトジャケットなの? ただのフリースですよね。

Sage green or tan jackets may be worn with green or tan flight suits. The vest may only be worn with either the green or tan flight suit.  


 空軍はグリーンとデザートでしたが海軍ではセージグリーンとタンなんですね。

 ジャケットとスーツの色の組み合わせは自由です。

 ベストはスーツの上に着てください。


 Climate Fleece Vest……フリースジャケットの袖が無くなっただけです。


Sage green jackets may also be worn with Working Khaki, Utilities, and other working uniforms in the immediate area of requirement if issued by the command.  Sage green jackets are not authorized with any service uniform (with ribbons).  The jacket will be worn with the zipper zipped at least 3/4 of the way.

Jacket shall be maintained in a clean and serviceable condition.  If torn, stained, or frayed beyond reasonable repair, it should be exchanged for a new jacket.


 セージグリーンのジャケットは許可された場所の近くだったら作業服の上に着てもOK。ただし制服の上にはダメ。

 ジッパーは3/4以上は閉めること。

 ジャケットは清潔で使える状態に保ち、どうしようもない場合は交換すること……当然ですね。


  (a) Insignia/Patches.  Rank shall be indicated on the nametag.  Required nametags shall be centered on the left breast above the slash pocket and below the shoulder seam.  


 ここからはジャケットに貼り付けるものの話です。

 ネームタグには階級も入れること。

 ネームタグは左胸に付けること。

 そういえば、昔から海軍のフライトジャケットに階級章って付いてませんね。

 

Nametags for sage green jackets or vest will be black or brown leather or cloth embroidered in squadron colors, and 2 inches by 4 inches in size.  


 セージグリーンのジャケットとベストに付けるネームタグは、2×4インチの大きさの黒または茶色の革、又はスコードロンカラーズが刺繍された布地もの。

 ここで言うスコードロンカラーズとは、飛行隊ごとの特徴のようなものかと思います。

 下はネームタグの一例ですが、布地のネームタグには飛行隊を示す派手な刺繍があります。

 階級の無いものも結構ありますね。レギュレーション違反ですが、あまり気にしてないのかもしれません。



Nametags for tan jackets shall be brown leather or matching tan cloth embroidered in squadron colors and 2 inches by 4 inches in size.  


 タンのジャケットのネームタグは、茶色の革かタン色の布地です。


Centered in the top field will be the aircrew designation insignia (i.e., pilot, NFO, aircrew, EAWS, etc.).  The name in block letter will occupy the lower field and will include a minimum first name or initial and last name.  Where appropriate, billet title (i.e., CO, XO, CAG, etc.) is optional. 


 ネームタグの上部中央には職種毎のウイングマーク、下側には名前を付けます。必要に応じて役職名を付けます。

 海軍の役職や職種は略語で表現されることが多く、しかもかなり多岐に渡るので、大変わかりにくいです。


 Patches may be affixed to the CWU-36/P Summer weight jacket either by hook and pile (velcro) or directly to the jacket at the discretion of the individual, subject to commanding officer guidance.  

Patches shall not be affixed to the Multi-Climate Shell jacket. 


 CWU-36/Pのパッチは、上官の指示の範囲で、個人の裁量に従い、ベルクロを使うか直接貼り付けます。 上官から怒られない限り、割と自由に貼って良さそうです。

 Multi-Climate Shell jacketにはパッチを貼ってはいけません。

 ……CWU-45/Pの記載がないがどうするんだろう?


 In all cases, patches shall be in good taste and will be reflective of Naval aviation professionalism.

 

 いずれの場合も、パッチはセンス良く、海軍航空部隊のプロフェショナリズムを反映したものでなければなりません。

 パッチは海軍の文化ですね。決まったものを決まった場所にしか貼ってはならない空軍とは、スタンスが大きく異なります。

 ネームタグのルールさえ守れば、パッチは好きに貼って良さそうですね!

 


 一回で終わると思っていたCWU-36/P特集ですが、意外と話が長くなりそうなので、今回はここまでとします。

 肝心のCWU-36/Pの話をあまりしてないですね…。


続きをお楽しみに!