飛行服夜話 第十三夜 「最後のコットンジャケット B-15A」 | 飛行服千夜一夜物語

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どんなフライトジャケットにも、袖を通した者と歩んだドラマがあるもの。
飛ばなくなったフライトジャケット達との思い出話と、そこに秘められたヒストリーを紹介します。

 こんばんは。

 今回から、副題を「飛行服夜話」に改めます。

 テーマにしているフライトジャケットの名称が一番最後にあって見ずらかったので、短くしました。

 

 さて、今回のテーマは、前回紹介したB-15ジャケットの後継である「B-15A」です。

 今回も大盛りの内容で、その実情に迫りたいと思います。


 B-15Aは、B-15をマイナーチェンジしたもので、大まかに言うと、三角系の酸素マスクホースを固定する革タブと、通信ケーブルをまとめておくためのスナップボタン付のタブを追加したものです。

 A-11Aトラウザーズと組み合わせることで、インターメディエイトゾーンに対応します。

 1944年11月3日付で、B-15の仕様書「3220」がB-15Aの仕様書「3220A」に修正されました。

 


 それでは、私のコレクションを参考に、B-15からの変更点を見ていきましょう!


B-15A HUDSON GARMENT 8964


 B-15Aの目立つ特徴と言えば、やはりここ


*三角形の革製タブを左右の胸に追加
 酸素マスクホースの先端部は金属製のコネクタになっているので、乗り降り時にブラブラさせて機体にぶつけたりしないよう、ジャケットにクリップで固定させます。
 1950年代になるとヘルメットが大型化し、コクピットに座ってからヘルメットや酸素マスクをつけるようになったこと、また、ライフプリザーバー(救命胴衣)を着用すると隠れてしまうことから、この種のタブは、やがてジャケットから消えていきます。
 左右に付けたのは、左利きにも配慮したのかと思います。

*通信ケーブル固縛用タブを左右の脇下に追加
 これも先端がブラブラして機体が傷つくのを防止するためのものです。

この2種類のタブを使用するとこうなります。↓

 しかし実際に当時の写真をみても、これらのタブを使用しているパイロットって、まったく見当たらないですね……。


*ペンシルポケット2列化、差込口バータック処置

 鉛筆が2本入れられるようになって、利便性が向上しました。バータック処置は1945年1月5日の仕様書修正から加わっています。

 ところで、航空自衛隊では、機内へのボールペンの持ち込みは禁止で、鉛筆のみ可なんだそうです。金属の小部品を落としたりすると探すのが大変で、内部機器を傷つける可能性があるからだとか。

 米空軍の古い写真を見てると、ボールペンをみんな普通にフライトジャケットに挿してる姿を見ますが、どうなんでしょうかね……。

 



*表地を袖ぐりの部分でライニングに縫い付け

 これも1945年1月5日の仕様書修正から加わりました。脱ぐ時にライニングが表地から離れないようにすりための処置です。

 上の写真は左がB-15A、右がB-15です。ニットの取り付け部分に、B-15Aはミシンを一周させているのがわかると思います。

 B-10やB-15はこのステッチがあったりなかったりしますが、後のB-15B/C/Dでもメーカーによってまちまちです。割といい加減ですね。


 それと、表生地がB-15のコットン・レーヨン混紡ツイルから、ただのコットンツイルになったようで、何となく摩擦に弱くなった印象を受けます。上の写真でもB-15Aは生地にツヤがないですね。

 


 製造期間は、1944年の12月から翌年4月前後までの5ヶ月間程度しかありません。

 1945年5月には、後継となるB-15Bの仕様書(3220B)が出されます。

 契約本数はB-15Aジャケットだけで17、トラウザーズを総合すると29に及び、総製造数は40万着程度と推定します。


 「FULLGEAR」を参考に、どんなメーカーが受注したのか見ていきましょう。

以下に29のメーカー(略称)を列挙します。

 なお、青字はB-15Aジャケットのみ茶字はA-11Aトラウザーズのみ、黒字は両方製造したことを意味します。

 最初の4桁の数字は契約番号の末尾、次がジャケット/トラウザーズの納入数、メーカー名の次の( )の中には、以前にそのメーカーが契約したことのあるフライトジャケットを記入しました。


・5099/5000/10000 BOBRICH MANUFACTURING(B15)

・5100/5000 N. SCORDO

・5101 SOVEREIGN MFG.(B3、B11)

・5102/20000 L.S.L GARMENT(B10、B15)

・5103/10000/10000 ARNOFF MFG.(B3、B6、ANJ4、B15)

・5104/15000 STAGG GARMENT(B10)

・5105/18205 BEN GREENHOLTZ & CO. (B9、B10、B11)

・5106/7000/7000 ROUGHWEAR CLOTHING (A2、B3、D1、B10、B15)

・5107 REED PRODUCTS(B9、B10)

・5108/23544 METRO SPORTSWEAR (B10、B11、B15)

・5109 EXCELL GARMENT (B10、B15)

・5110/15000 AERO LEATHER CLOTHING(A2、B3、B6、ANJ4、D1、D2、B7、B15)

・5111/15000 SUPERIOR TOGS (B10、B15)

・5112/6000 WERBER SPORTSWEAR(A2、B2、B3、D1、B11、B15)

・8962 BERK-RAY

・8964 HUDSON GARMENT

・8965 SUPERIOR TOGS(既出)

・8966 ARNOFF MFG. (既出)

・8967 L.S.L GARMENT (既出)

・8968 FITSWELL SPORTSWEAR  (B10、B11、B15)

・8969 WERBER SPORTSWEAR (既出)

・8970 AERO LEATHER CLOTHING (既出)

・8971 NUNZIATO SCORDO (既出)

・8972 GOOD WEAR LEATHER CORT  (B10、B15)

・8973 STAGG GARMENT (既出)

・8974 BEN GREENHOLTZ & CO. (既出)

・10150 ELLIS CORT

・13117 METRO SPORTSWEAR (既出)

・11054 AERO LEATHER CLOTHING (既出)


 こうしてみると、B-10、B-11、B-15のようなコットン製ジャケットを納入したメーカーが多いです。

 アーノフ、ラフウェア、エアロレザー、ウェーバーはレザージャケットもコットンジャケットも両方そつなく作っていますね。

 特にエアロレザーは、やはり強い!

 ちなみにこれらの中で、ナイロンジャケットの製造に移行できたメーカーとなるとかなり絞られます。


 

 B-15Aジャケットの部隊への供給は1945年の5月頃であり、この頃にはドイツも降伏し、気温的にも暖かくなっているので、WW2で実戦使用されたB-15Aはほとんど無いものと思います。

 B-15Aは1950年から始まった朝鮮戦争の前半においてよく見られます。

 B-15AジャケットはB-29の搭乗員がよく着用していますが、前回紹介したため、それ以外の着用例を見てみます。



↑1950年6月、北朝鮮軍の南進直後、アメリカ軍は素質のある韓国人をパイロットに急速育成する「BOUT ONE PROJECT」を開始します。

 一番右はその任務を担った臨時第51飛行隊長のディーン・ヘス少佐。その左のアメリカ人も含めてB-15Aを着用。使用機はF-51D戦闘機です。

 彼は後に占領直前のソウルから、戦争孤児約950人と80人の孤児院スタッフを済州島へ脱出させています(これについては諸説あるようだ)。


「信念の鳥人!」と描かれたF-51D(ヘス搭乗機)


 

 


↑第452爆撃航空群所属のB-26B攻撃機。パイロット2人と上部旋回銃座のガンナー1人の計3人が搭乗する。おそらく右から二人目は整備員。一番左の人物がB-15Aを着用。他にA-2とB-11も見える。

 この機体だけで160回以上の出撃が確認できることから、かなりベテランのクルーである。

 このB-26Bは機首に12.5mm機銃を8本搭載した攻撃機型。WW2からベトナム戦争まで使われた息の長い航空機である。

 この部隊は1950年10月から1952年5月までの間、航空偵察、航空阻止、近接航空支援などに従事し、地上のありとあらゆる目標を攻撃し続けた。

 


 ては最後に、恒例のリプロ品コーナーです。


・バズリクソンズ

↑まずは、バズのB-15A。

 大変素晴らしい出来。実物よりも良い。しかし、30年前は3万円台だったが今は10万円に届きそうな値段。実物を正確に再現しようとすると、どうしても高くなるのだろう。

 しかし、若い人との距離が遠くなっていかないか不安になる。



・トイズマッコイ


↑トイズのB-15A。

 パッチとバックペイントでカスタムしているので高い。細部の作りは完璧である。緑が濃い気がするが、実物の色も各メーカーでバラバラなので、好みで選べば良い。  



・ヒューストン

↑ヒューストン製のB-15A。

 近頃、フライトジャケットリプロ品の価格がどんどん上がっているが、ヒューストンはその中でも安い方。細かいとこはアレだが、全体的な雰囲気は良い。とても頑張っている。

 以前は酷かった左肩のインシグニアのデザインもだいぶ改善されてるが、「ARMY AIR FORCE」ではなく、正しくは「ARMY AIR FORCES」である。

 ジッパーのテープもカーキ色にしてほしい。

 こういう目につくところを改善すると完成度がグッと上がるので、何とかしてほしい。




↑米国企業であるセスラーのB-15A。

 価格は2万円前後。バズの1/5、ヒューストンの半額以下の激安価格。

 ムートンにもう少しボリュームがほしい。それと左肩のインシグニアがテカテカしすぎ。そこ以外は、そんなに悪い出来ではない。ジッパーテープの色もいいし、ポケット中の生地はコーデュロイだ。

 実物をよく知っている人が、コストの制限内で努力していることを感じる。この値段で出せたのは立派。

 


 今回はB-15A特集はいかがだったでしょうか?

 胸に三角タブが付くだけで、オッサンジャンパーっぽさが一気に無くなるのが不思議ですね。

 私は20年前に買ったフェローズのB-15Aを今だに着てますが、とてもカッコいいし、ジーンズにも合うのでオススメです。


 次回もお楽しみに!