フライトジャケット夜話 第十話「飛行服の謎を探る ①A-3以降の夏季用ジャケット」 | 飛行服千夜一夜物語

飛行服千夜一夜物語

どんなフライトジャケットにも、袖を通した者と歩んだドラマがあるもの。
飛ばなくなったフライトジャケット達との思い出話と、そこに秘められたヒストリーを紹介します。

こんばんは。

近年、フライトジャケットの研究が進み、かなりの謎が解明されるようになりました。

しかしながら、その知識体系は遥かに広く、まだまだわからないことばかりであります。

私の知識、財力、行動力でそれらを解明することは土台無理な話ですが、想像力を働かせることは誰にでも可能です。

未開の暗黒大陸を、粗末な地図を片手に、ちょっとだけ覗いて見ようと思います。



みなさん、「A」から始まるフライトジャケットってありますよね。

A-1やA-2といった、夏季用のフライトジャケットです。

A-1やA-2も謎だらけなんですが、今回のテーマは「A-3以降のフライトジャケット」です。

歴史から完全に忘れ去られた存在であり、記録もほとんど無く、現物も確認されていないので、結論から言うとよくわからないのですが、憶測と妄想を交えて考察したいと思います。


フライトジャケット業界の世界的権威であるスウィーティング氏の名著「COMBAT FLYING CLOTHING」の付録F『Type Designation Sheet』を参考にします。


なお、太字は「COMBAT FLYING CLOTHING」からの抜粋です。


「A-3」

・ Spec./Draw. No. :Norske

・民生品を活用した、ウールファブリックライニングのウィップコード生地のフライトジャケット。

・飛行士用の夏季用フライトジャケットとして指定された。

・サービステスト:1940年5月1日

・限定標準:1940年8月20日


「Norske」って何? ノルウェー風? 

「Norwegian jacket」で検索するとこんなのが出てきました。↓

ノルウェー空軍の1940年代のジャケットとの記載がありました。

なんか、イギリス軍のバトルドレスっぽい雰囲気ですね。

生地はウールです。


ちなみにウィップコードとは強めの綾織の生地のことです。


↓は1940年台のウィップコードワークジャケット。

どのメーカーが作っても、大体同じデザインです。

おそらく、こういったジャケットにウールのライニングを貼ったものがA-3ジャケットなんじゃないだろうか?

さすがに階級章を着ける肩章くらいはあったものと推測します。


A-2フライトジャケットの発注数が増加するのは1940年11月以降であり、それまでのアメリカ軍は結構、呑気なものでした。

その呑気な時期にテストを開始し、わずか3ヶ月後には限定標準になっていますが、たった3ヶ月でテストって終わるものなんですかね?

【データ取り→報告書作成→関係各所に説明と報告→意思決定】までやろうとすると、最低半年は要すると思うんですが…。

テストと言っても「試しに使ってもいい」程度のものであって、試験評価的なことはしてなかったんじゃないかと思います。

「限定標準(Limited Standard)」というのは「支給はしないが、使い続けてもいい」という意味だと思います。



「A-4」

・Spec./Draw. No. :Norske ,Style 1000M

・ライニングがないことを除き、A-3ジャケットと同じもの。

・サービステスト:1940年5月1日

・限定標準:1940年8月20日

・1942年12月2日に在庫がなくなる。


先述のA-3ジャケットからウールのライニングを取り除いただけのものです。

テスト開始から限定標準までの期間もA-3ジャケットと全く同じです。

ライニングを取ったらただのワークウェアですね。

飛行服がこんなんでいいのかという気もしますが、1930年代以前のアメリカ軍の軍服は、こういったワーク系やスポーツ系の衣料品がベースになっているものが多く、とても牧歌的な印象を受けます。

A-1やA-2も飛行服としての必要性からデザインされたものではなく、当時流行りのスポーツジャケットのデザインをそのまま流用したものです。

まあ、A-2は階級章を着けるための肩章が付いているので、かろうじて軍服に見えるといった程度です。

そういった軍服らしくないところが、アメリカのミリタリーウェアの良いところなんですけどね。



「A-5」

・Spec./Draw. No. : General Athletic Co.  Type31

・アウターシェルに「タックルツイル」を使用した民生の軽量布製ジャケット。

・少しA-2ジャケットに似ている。

・取り外し式のナップド・ウール裏地のツイルライニングが付いている。

・サービステスト:1941年5月19日

・廃止:1943年7月1日(ストックを使い果たす)


ジェネラル・アスレチック・カンパニーは1960年代にかけてスポーツウェアを作っていたメーカーです。

↓こんな逆三角形のマークです。


タイプ31が何なのかはわかりません。


タックルツイルというのは、表地にレーヨン、裏地にコットンを使った生地です。

↓は1940年代のODカラーのタックルツイルです。

海軍のデッキジャケットに使われたりしたこともあります。


一般的には、スポーツ選手が着るユニフォームに貼ってあるアレと言ったほうがわかりやすいかと思います。現在はポリエステルなんかを使ってます。↓


ナップド・ウールとは、ウールの起毛生地です。

↓例です。やわらかそう。


A-2ジャケットに似てるとありますが、当時のスポーツジャケットは、みんなA-2っぽいデザインなので、なんとも言えません。


サービステストは、ちょうどA-2ジャケットの大増産が始まった時期に始まっています。

レーヨンのシェルなので、当時としてはかなり未来的に見えたんじゃないでしょうか。

一度見てみたいです。

製造数は少なかったと思いますが、ストックがなくなるまで使用したところから見て、A-2の代役はしっかり果たせたんだと思います。



「A-6」

・アウターシェルに「ラステックス・ウィップコード」を使用した民生の軽量布製ジャケット。

・少しA-2ジャケットに似ている。

・サービステスト:1941年8月13日

・廃止:1943年7月1日


ラステックスというのは、1930年代にUS Rubber Coat Co.傘下のThe Adamson Brothersというメーカーが開発した弾性糸で、当時は水着や運動服、下着等に使われていました。↓

このラステックスを綾織にした、伸び縮みする生地で作ったA-2っぽいジャケットみたいですね。

どんな感じなんだろ?



「A-7」

Spec./Draw. No. :US Rubber Co. style SA-2

・ウールで裏打ちしたツイル地の民生の軽量布製ジャケット。

・ライニングはカフスやウエストバンドのようなラステックス製

・サービステスト:1941年7月28日

・廃止:1943年7月1日


SA-2というのが何かはわかりません。

ライニングがラステックスを使用したニット地だったんでしょうか?

こちらはツイル地のA-2といったところでしょう。


A-5〜A-7はA-2ジャケット増産時にそれを補完するため、すぐに手に入る有り合わせの素材で急遽作られ、部隊へ送られたジャケットだったと思います。

廃止はいずれも1943年7月1日で、全ての飛行服を革製からコットン製に切り替えた時期です。

革製のA-2は、既に1943年4月27日に限定標準になっているので、その代用で作られ、在庫のなくなったたA-5〜A-7も、少し遅れてその役目を終えました。

本来、A-2ジャケットの後継となるはずだった「AN-J-3」は量産が確認されていないので、夏季用フライトジャケットの系譜は断絶してしまいました。



今回はこれで終わりです。

少しは楽しんでいただけましたでしょうか?

A-3からA-7のフライトジャケット、一度でいいから見てみたいですね。

ラベルが付いてなかったら一般の古着と見分けがつかなさそうです。

もしかしたらその辺の古着屋に置いてあったりするかもしれませんね。


ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。

それでは、次回もお楽しみに!