フライトジャケットとの出会い⑤ ー覚醒編ー | 飛行服千夜一夜物語

飛行服千夜一夜物語

どんなフライトジャケットにも、袖を通した者と歩んだドラマがあるもの。
飛ばなくなったフライトジャケット達との思い出話と、そこに秘められたヒストリーを紹介します。

(「風雲編」からの続き)

 

以下赤字は「B-3」序文より抜粋。是非一読願いたい。

 

フライトジャケット・ブームに火がついて久しい。が、流行の名のもとに表層のカッコよさばかりが喧伝され、不毛のホンモノ論争が白熱する昨今、果たして飛行服の本当の輝き、凄み、匂い、スピリッツ・・・・・・

20世紀の夢と冒険心と叡智の結実ともいうべき特別な衣服(ガーメント)の〈リアリズム〉を知るものがどれほど存在するのか、はなはだ疑問である。

そんな時代の渦中に放たれたる本誌の〈存在証明〉は、読者それぞれの胸のうちで熟成してゆけばそれでいい。

ただ・・・ひとつのすぐれた道具と、それを長年愛用し自らの軌跡を刻み込んだ主人の、この上なく幸福な物語の再生(ルネッサンス)を切に願いつつ、この一篇に取り組んできたことだけは巻頭に記しておかなければならない。

『B-3』は、永遠の伴侶と呼ぶべき〈ホンモノの道具〉に捧ぐ賛辞(トリビュート)である。

その深慮なる魔性に取り憑かれし者どもが、ひたすら愛すべき飛行服の隠された真実を伝えるべく密かに画策した地獄巡りの公式案内書(オフィシャルガイドブック)である。

 

・・・特別な衣服のリアリズムを知らず、不毛なホンモノ論争をし、表層のカッコよさを追い求めて、長年愛用することをせず、自らの軌跡を刻み込むことをしない・・・全部、俺のことじゃないか!

 

ああ、情けない。こんなにもフライトジャケットのことが好きで、必死にもがいてきたのに、その実、フライトジャケットを理解しようとする努力をしてこなかった自分を恥じた。

 

本誌について感じたこと、言いたいことは山ほどあるが、この場で書ききることは不可能であるため、それは別の機会に譲りたい。

そして本誌を擦り切れるほど熟読した私の出した結論は、「リアルマッコイズのフライトジャケット手に入れることで、この苦しくも楽しかった探求の旅の、一つの区切りとしたい」ということであった。

桜井徹氏や菊月俊之氏、三島瑞穂氏らが記す、誇り高く情熱的な「叙事詩」に触れてしまった者にとって、その「魂」が封じ込められた「リアルマッコイズ製フライトジャケット」を手に入れ、人生の伴侶とすることは、決して避けられぬ人生のマイルストーンのように思われたからだ。

 

ちなみに、「B-3」と同時期に出版された「飛行服総目録」を簡単に紹介したい。

エアフォースマークがついてるとどうしても買ってしまう。

 

本誌は実物ではなく、当時販売されていたレプリカ品(善いものから悪いものまで)がくまなく掲載されている。

ざっとメーカーを挙げると、アルファ、アヴィレックス、ホープ、ゴールデンフリース、コリンス、パトリオット、オーチャード、イーストマン、エアロレザー、ウィルス&ガイガー、インシグニアレザー、エビス、マッシュ、CAB、中田商店、ヒューストン、東京ファントム、リアルマッコイズ、バズリクソンズ、フェローズ等々、まさに百花繚乱の戦国時代であり、いかにフライトジャケットがブームだったのかを伺い知ることができるだろう。

その中でも、リアルマッコイズは白眉の存在であった。価格は他を圧倒するが、買っても絶対に後悔しない確信があった。

 

特に私が気になったのは、A-2(ROUGH WEAR CLOTHING CO.)と、B-15D(MIL-J-6251A AVIATORS CLOTHING CO.,INC)、そしてMA-1(MIL-J-8279A ROLEN SPORTSWEAR CO.)の三つである。

 

右下がラフA-2。当時、実名復刻ラベルはリアルマッコイズしかなかった。

 

ナイロンジャケットも質感の高さが紙面からも十分伝わってくる。

 

なぜラフのA-2が気になったかというと、櫻井氏による「ラフのA-2はオリジナルの着づらさを、兵士がカバーしていく過程についた癖皺が絶妙なのだ。またタイトなボディや細めなアーム、男性的なラインを誇るポケットフラップなど、ラフならではの見せ所にも事欠かない。」の一文により、どうしてもこの面倒そうなA-2を着こなして、自分だけのものにしたいと思ったからである。

だが、問題は価格であった。いくら後悔しない自信があるとはいえ、17歳の若造に15万円はあまりにも高すぎた(ローンの審査も通らないだろう)。

ナイロンジャケットであれば、貯金をスッカラカンにすれば、何んとか買えそうだった。

 

なお、高いといっても、当時の実物ビンテージはもっと高価だった。仙台市内のとある古着屋に入ったら、コットン性のN-3Bが9万円近くで売られていて驚いた記憶がある。

実名復刻のマッコイのジャケットがビンテージに紛れたら大変なことになるんじゃないかと、当時はいらぬ心配をしたものだった。

 

リアルマッコイズの取扱店リストを見ると、「仙台市:RETREAT」と書いてあった。

6万円を財布に入れ、期待を胸に、自転車を漕ぎだしたのであった。

 

(つづく)