フライトジャケットとの出会い③ ー大山鳴動編ー | 飛行服千夜一夜物語

飛行服千夜一夜物語

どんなフライトジャケットにも、袖を通した者と歩んだドラマがあるもの。
飛ばなくなったフライトジャケット達との思い出話と、そこに秘められたヒストリーを紹介します。

(「再会編」からの続き)
 

さて、なんのフライトジャケットを買おうか・・・

一番欲しかったのはフェローズのB-15Dだった。限定800着か・・・。

もっとも、35,800円(税別)という価格は、あまりにも高く、買えるような予算状況ではなかったが、とりあえず現物がどんなものか見てみたくなった。

広告によると、仙台には取扱店が二店舗あるようだ。

住所を調べ、そのうちの一つ(GOLDEN TIJUANAという店だったと思う)に行ってみた。

 

手書きの地図を頼りに自転車をこいで約1時間、ようやく目的地に到着した。

・・・こじんまりとした、アメカジの店である。

勇気を出して入ってみると、あった! B-15Dだ。B-15D(MOD)もある!

広告の写真通りの素晴らしいフライトジャケットであった。

昔買ったアルファのMA-1が子供服のように思える。

欲しい。・・・しかし、予算がない。

今回は見に来ただけだ。

店内を物色すると、おしゃれな同級生が着ているようなブランド服がいろいろと置いてある。

ペンキに牛のパッチのエビスジーンズやハリウッド・ランチ・マーケット(略してハリラン)のジーンズもあった。

このペンキのジーンズには度肝を抜かれた。お金持ちのチャラい奴らが着用していた。

 

ハリランはチャラくない連中がよく着用していた。エビスほどではないが高額なジーンズであった。

 

ここは、天国か・・・。

 

・・・いや、すべてのものが高すぎる。

はまったら地獄に変わりそうだ。

冷静さを取り戻し、店を出た。

込み上げる熱い思いを胸に、帰路についた。

 

実はもう一つ狙っていたアイテムがあった。

先出のモノマガジンには、ABCマートとかいう聞いたことのないショップのカタログが同梱されており、そこには、モデルがカッコよく着こなす、ネイビーブルーのコートがでかでかと掲載されていた。

そのコートの名は「M-65」という。

先出のモノマガジンにも紹介されている米国コリンス社製の「実物」であり、なんでも、米陸軍のものは緑色だが、米海兵隊ではこのネイビーのM-65が採用されていると書かれていた。

確か、2万円くらいだったように記憶している。

こいつを着こなせるのはかなりの上級者だろう。

 

昨年MA-1を買った店に行ったら、すぐにこの「コリンス社製M-65(ネイビー)」を見つけることができた。

タグを見てサイズ「ミディアム」であることを確認し、購入した。

町行く人が着るようなファッション目的の服ではなく、「本物の服」を着用できることが、とても嬉しく、誇らしかった。

 

帰宅後、母親にドヤ顔でM-65(ネイビー)を見せたところ、「工事現場の人が着るようなコート・・・」と言ってきた。

「これは米海兵隊が着ている本物のコートだ!」と説明したところ、面倒だと思ったのか、それで会話は終了した。

 

よし、明日、学校に着ていくぞ!

もう、昨日までのダサ坊ではない。

「本物」を身に着ければ、こんな自分でも生まれ変われるんだ!

「ギャハハ! なにその服! 現場のバイトでもしてんの?」

私はこいつを友人だと思ったことはなかったが、いつもちょっかいを出しては、私の着る服をバカにしてきた。

スネ夫のような性格である。

「これは、海兵隊実物で・・・」

「え? 海援隊? 金八っつん? ギャハハ! そういえばビートたけしも着てるよね。 「冗談じゃないよ」やって。 ギャハハ!」

こういう目の前のものしか楽しめない人間に対し、興味のない蘊蓄なんてものは、なんの役にも立たないのであった。

 

学校の帰り道、道路工事をしている横を通りかかった。

作業員たちはネイビーのM-65の襟にボアをつけたようなコートを着ていた。

とても悲しい気持ちになった。

なんとなく、母が言いたかったことがわかるような気がした。

鬼瓦権造の着るドカジャンは、悔しいが、確かにM-65(ネイビー)に似ていた。

 

 

M-65(ネービー)は、そんな一件があっても他に着るものがなかったため、しばらくは着ていた。

しかしインナーがなかったため、とても仙台の冬に耐えられるものではなかった。

また、フードを襟から出そうとしたところ、付け根が破れてしまった。

他にも縫い付けが甘い箇所がいくつかあって、さすがの私でも「これ、本当に米軍実物なのだろうか?」と疑問を抱いてしまった。

 

・・・こんなものに浮気したりせず、フライトジャケットを買えばよかったのだ。

しかしフェローズのようなちゃんとしたものは高くて手が出ない。

安っぽい(それでも一万五千円くらいはする)アルファ社製なら、次の給料日に買えそうだが・・・。

色々思案した結果、アルファのフライトジャケットを買うことにした。

高価なフライトジャケットは、それなりに収入を得られるようになってから買えばよい。

安かろうが何だろうが、自分の身の丈に合ったフライトジャケットを着ることが最優先だったのである。

私は、新たに購入すべきフライトジャケットの検討を開始したのであった・・・。

 

(つづく)