こんにちは!

 

 久しぶりに渡英のチャンスに恵まれ、いくつもの保存鉄道を訪ねてきました。今後つまみながら記事にしてまいりますので、お付き合いいただけますと嬉しいです。

 

 さて、以前のブログ記事↑↑↑で、Peckett機関車を紹介いたしました。この機関車は産業用のレディーメイドとして生産され、カスタム機がイギリス中に拡散しました。そして各地にスクラップを免れた仲間が多数保存されています。このマルーン塗装とイエローのラインを纏った姿の個体があるのを知ったのは、先のブログ記事を書いているときでした。その姿は私の模型とそっくり。ぜひ会いたい(見に!ではなく会いに)!と思ってはいましたが、遠い地の事、さらにはCovid-19の蔓延によって「おあずけ」を余儀なくされていました。そのチャンスが巡ってきたのです。

 動態で保存されているのは、イングランド南西部Somersetにある鉄道博物館の一つ「Yeovil Railway Centre」です。Yeovil Junction駅の構内南側にある屋外施設で、蒸気機関車の動態運転を行っています。

 

【いざYeovilへ!】

 早い列車ならばロンドンWaterlooから2時間半足らず、乗り換えなしで行くことができます。旅程の都合で到着が午後になり、すでに運転は始まっていました。会場は線路の反対側。はやる気持ちを抑えながら向かいます。線路沿いの坂を下って古そうなレンガ隧道をくぐり、S字の急坂を上がると入口です。

Waterloo発Axminster行き、South Western Railwayのディーゼル列車

時々、車窓に一面の菜の花 

 入口の目印     

もう始まってますね 

 訪ねた当日は3/31(サマータイムの初日)。折しもイースターのイベントでファミリー客がいっぱい。プラットホームでバニーがお出迎えです。

 お目当ての機関車は、20~30分おきに1両の客車を従えて構内を往復していました。光沢マルーンのボディに黄色い細帯を巻いた美しい姿。色合いは実物の方がやや深い紅色で、タンク横に「PECTIN」のプレート。やっと会えました。さっそく計画を実行。持参した模型のPeckett機関車バッグから取り出し、実物を前に撮影開始です。ついにホンモノと模型の対面が実現しました。

 扉が多い客車

ついにご対面! 

 そっくりですよぉ!

石炭大きいですね 

 

 夢中になっている私の姿が気になったのか、スタッフの方から声を掛けられました。そこからは模型のPeckettがきっかけで話に花が咲きました。名前(実物はPECTIN、模型はWENMAN)は異なるものの、その姿はそっくりですから。しかも、はるばる日本から来たこと伝えると大喜び。大人が一途に真剣に趣味を楽しむのは彼の地も同じ精神です。話している間に、聞きつけた他のスタッフに次々囲まれ、模型のPeckettはあっという間に人気者になりました。

 構内の運転で機関車に同乗させていただき、小さいながらも力強く走る姿は現役時代を彷彿させるものでした。元々広くない運転室。私が乗車したのでますます狭いです。もちろんイスはありません。現在の列車と異なり右側が運転士、左側が助士です。機関士は安全を確認しながら機関車を制御し、機関助士はそれに先回りした働きで機関車をベストな状態に導きます。

 石炭について現在の英国内ではほぼ採炭がありません。経済的理由もありポーランド産を使用しているとのこと。良質な自国炭を使えない「嘆き」も聞かれました。

 丸窓からの眺め

 かつての短絡線へ走る

 レギュレーターはアクセルに相当

 ブレーキハンドル

 投炭!

 模型も乗車

 

【Yeovilに歴史あり】

 Yeovil Railway Centreの開設は、蒸気機関車を愛する人たちの熱意により実現しました。Yeovil Junction駅構内には、1947年製造のターンテーブルがあります。直径が70ft(約21m)あり、諸事情により蒸気機関車が引退した1968年以降も残存していました。1980年代の蒸気機関車のイベント運転に幾度も使用されたことで、その存在が注目されていましたが、イギリス国鉄が撤去の意思を示したことで、将来「イングランド西部地域から蒸気機関車の運転がなくなってしまうのでは」という懸念を抱いた有志が、これの保存に向けた団体を結成しました。そして当時高まっていた保存鉄道の人気にも押され、1993年のYeovil Railway Centreの開設につながるのです。

 Yeovil Junction駅は、今でこそ2路線の分岐(合流)点でしかありませんが、「Junction」の名前通り、かつては複雑な列車網を捌く結節点でした。London and South Western Railway(LSWR)、Great Western Railway(GWR)が1856~1860年に建設した各路線が絡む要衝で、どの方面にも走行できる短絡線が立体的に敷設されていました。当時は両社で線路幅が異なっていたことから、Yeovil Pen Mill/Yeovil Town~Yeovil Junctionについて単線並列のような不思議な線形が出来上がります。車両が直通できないゆえ貨物は積み替え(その建物施設はYeovil Railway Centreで再利用されています)を余儀なくされ不便でしたが、1874年、GWRが広軌から標準軌へ改修したことで解消します。そして建設から100余年、モータリゼーションの変化に伴う英国鉄道の再構築「Beeching cut」により不採算路線は大きく整理されましたが、この線形は今日まで残ることになったのです。

(Wikipedia, By Geof Sheppard - Own work, CC BY-SA 4.0より)

 市民生活の中心地はYeovil Junctionからやや北西側です。しかし最寄り駅であるYeovil Town駅は旅客扱いを1966年に、貨物扱いも翌1967年に廃止し、路線と共に街から鉄道が消滅しました。この近辺の変貌は激しく、かつての構内はボウリング場やアミューズメント施設となり面影は殆どありません。

 一方Yeovil Pen Mill駅と共に残ったYeovil Junction駅周辺は開発の波から外れ、のんびりしたローカル駅として残っていますが、短絡線は全て撤去されました。

空撮映像では、Yeovil Junction駅の駅東側に張り巡らされた短絡線の跡をハッキリ確認でき、大ジャンクションだった頃の役割を忍ぶことができます。

 

 この通り、鉄道の役割から殆ど切り離されたYeovilですが、航空宇宙産業、特に軍事航空分野でのトップクラス企業であるレオナルドS.p.A.のヘリコプター工場がおかれており、産業としては潤った都市になっています。工場の歴史は1915年設置のWestland Aircraftの工場を前身とし、現在は3,300人以上の雇用を生む主要企業です。かつてのHendford Halt駅は工場のごく近傍に存在し、工場沿いの道路が線路跡とみられます。

 Yeovil Pen Mill駅にて

Weymouth方面の列車と腕木式信号機 

 Castle Cary側の信号所

 

GWRの広軌時代のレールを再利用。厚いペンキの下に刻印が残る

 

 宿泊したTerrace Lodge Hotelは、鉄道の廃止がなければYeovil Town駅正面の好立地。飾ってあった写真にもホテルが写っています。

 

【機関車は宝物】

 最後になりましたが、実物機関車のPECTINについて紹介します。

Bristolの機関車メーカーであるPeckett & Sonsで1921年に製造されました。製造番号は1579。メーカーによるタイプはM5で、British Aluminium Company at Burntisland, FifeのNo.2として新車納入されました。プレートには「B A Co Ltd No.2」を掲げ、先輩PeckettのNo.1(1915年製造の製造番号1376、Caledonian Railway, Brechinで保存)と共に、ボーキサイト還元工場で使用されました。1971年、No.2は1971年12月、6000 Locomotive Associationへ£225(当時のレートを£1=810円として、182,250円相当)で売却され、翌年3月にはHerefordのBulmersに移されPECTINの名が与えられました。

 名前の由来は、Bulmersで生産されるリンゴを原料とするサイダーとって重要な成分であるペクチンにちなんでいます。ペクチンはリンゴの他、柑橘類、バナナに多く含まれる食物繊維の一種で、植物細胞同士をつなぎ合わせる働きがある天然の多糖類です。

 現役~売却当時の現役~売却当時の写真を見る限り状態は大変良好で、大切に扱われてきた様子が窺えます。そして、約£15,000の費用をかけたボイラーのオーバーホールを終え、Yeovil Railway Centreにやってきたのは1995年のことです。直近では、2014年から開始したオーバーホールのため運転を休止し、2022年3月から再就役、製造から103年の現在に至ります。

 正面の煙室扉に「72C」の小さなプレートが付いています。これはShed plateという所属機関庫を示すプレートです。Yeovil Railway Centreでは、かつてYeovil Town構内にあった機関庫のコードである72Cをオマージュして、保有する各機関車に装着しています。

 

 

 後日、訪問の一コマをYeovil Railway Centreのニュースに掲載していただきました。保存対象は車両に注目が集まりがちですが、その運転全般に必要なインフラを全て含めて脚光を浴びせる、英国の精神への尊敬と、それが可能な環境に羨ましいものを感じた一日でした。快く迎えてくださったYeovil Railway Centreスタッフの皆様、とりわけWorkshop managerのMr. Hibberdへ感謝でいっぱいです。どうもありがとうございました。

 

 ホームにあるショップ

 展示された旧制御盤

 展示品の数々

 英国風景の模型ジオラマ

 

小冊子、ペン、メモパッド、リーフレット、マグカップ、ポスター お土産いっぱい

 

【今回の参考図書】

今回も盛り沢山な紹介です。各図書を駆使し、ネットの力を借りながら深堀り執筆しています。

 

・Peckett & Sons Ltd(Industrial Railway Society刊)→こちらをご覧ください。

・Railways Restored(Ian Allan刊)

1980年より発行されたUKの保存鉄道・博物館施設の機関車を網羅した年鑑書です。各鉄道の概略も記載され、全体像を知るガイド役でしたが、2013年版が最後のようです。B5変判ソフトカバー。

・British Railways Atlas 1947(Ian Allan刊)

4大私鉄が国有化される直前のイギリス鉄道路線図で、初版は1948年まで遡ります。幾度も再版され2011年からハードカバーになりました。B5判。なお2006年以降はRCH Junction図が収録された「British Railways Atlas 1947 and RCH Junction Diagrams」が発行されていますので、深堀り派にはこちらをお勧めします。

・Pre-Grouping Atlas(Ian Allan刊)

雑多に存在した各私鉄が4大私鉄に再編される1923年以前の路線図です。A4判ハードカバー。

 このように路線図は各種が出版されていますが、現行路線のAtlasと紹介した2冊を合わせて探求することで、変遷をより興味深く理解できるものと思います。ただ大変残念なことに、出版元のIan Allan Publishingは2020年に廃業しており、Waterloo駅近くにあった直営ショップも同年の10月末日限りで閉店してしまいました。2015‎年‎6‎月‎26‎日訪問時の写真を掲載します。

 

こんにちは!

 前回は写真たっぷりめに、化け具合Before Afterをお届けいたしましたが、いかがだったでしょうか?

 引き続き、「イギリス車両に見せるためのエッセンス」を、このモデルを例に、製作風景も交えながら解説していきます。そして後半は、久しぶりに参考図書の紹介です。

では、さっそく!

 

【Yellow Warning Panels 黄色い顔】

 まずはこれは外せません。電車・ディーゼルカー、内燃機関車、電気機関車の前面の一部もしくは全体に入れられる警戒色で、1962年に試用されたのが始まりです。理由は、何と言っても接近する列車を遠方から発見しやすくする「視認性」に優れることで、線路保守等に携わる地上作業員にとても重要です。正確にはBS381C-356とコードされる「Golden Yellow」で、純粋な黄色よりはくすんでいます。

 近年「黄色い顔」でないイギリス車も登場してきましたが、これはヨーロッパ式ヘッドライト(後述)の普及に伴うもので、イギリスのRSSB(Rail Safety and Standards Board)が黄色顔を不要とする新基準を2016年に発行したことによります。しかし従来基準で登場する新型も依然として多く、安全に対する伝統の一つにもなっています。

Mark-4 DVT(右)はイギリスMetro-Cammell製。日立オリジンのClass800(左)は2019年登場ながら、「黄色い顔」を継承しています。

 

【青い車体とDouble Arrowマーク】

 これは1970年代から、イギリス国鉄が民営化となる前まで、電気機関車とディーゼル機関車の多くに採用されていた姿で、国鉄時代をイメージさせる代表的な塗装です。コードBS381C-114「Rail Blue」一色と矢印を図案化したマークとの組み合わせは、民営化による百華繚乱かつ前衛的なカラーである現在からは信じられないほどシンプルです。色褪せしにくい色味は合理化の産物とも言えますが、あえて現在もこの塗装を纏う車両もあるほど、一時代を象徴する姿としてファンの人気があります。

 モデルもこの姿を目指したのですが、国内製品の中に近似色のアクリル系スプレーが見つからず、異なること承知でタミヤカラーのTS-93「ピュアブルー」で塗装しました。前面のイエローも指定色より明るめで代用しています。

 

【Cant Rail】

 聞きなれない単語ですが、屋根との境界付近に配したオレンジの帯のことです。これは架線設備のある線路を走行する車両(当該区間を走るディーゼル車などにも適用。蒸気機関車と貨車を除くすべて)に義務付けられた、「頭上高圧電線注意」を示す作業者向けの注意喚起で、幅20~30mmの帯をホーム面から高さ約2.4mに配するよう規定されています。

 またCant Rail近傍には、OHLE(Overhead Line Equipment)の注意ステッカーが貼られます。

 Class800のCant Rail

現行OHLEステッカー(Class333) 

 

 モデルでは、屋根の前後の淵と運転室側面の上縁に1mm帯を巻き、OHLEは1998年まで使用された後期タイプのイナズママーク付きとしました。

 

 なお、窓上に配されるFirst classを示す黄色帯、食堂車を示す赤帯も「Cant Rail Banding」と称しますが、こちらは欧州のUICが1922年に規定した旅客向けの案内で、性格の異なるものです。イギリスでは、1920年にGreat Eastern railwayが、混雑の激しいリバプールエリアで、旅客誘導のため独自の形で採用していました。国有化後では、1959年のSouthernエリア向けに製造された電車から黄色帯を採用し、1963年までに一部車種を除きイギリス全土に展開されました。(筆者注:この識別帯による案内は、大陸内ではすでに定着していたため、渡航客が多い南部から開始したと推測)

 

【Wasp stripes(Chevron)】

 おなじみ、黄/黒の縞模様です。これを日本では「トラ」になぞらえますが、イギリスでは「スズメバチ」縞です。

 これは基本的に入換作業に従事する低速機関車の前面に施されます。一方、本線での高速車両は前述の黄色警戒色が施されます。速度の違いがその理由で、地上の作業者から見て、Wasp stripesは周囲の風景に溶け込みにくく、低速でも移動体として認識できること。その逆に黄色一色での警戒色は、高速での接近時に早期から(遠方でも)発見しやすいことにあります。

 なお両者をミックスしたケースも散見され、機関車ではClass03Class08Class14、電車ではClass502などに見られます。モデルでは「本線の使用がメインながら研磨作業時は低速」と想定し、ミックスとしました。

望遠レンズで見るとこんな具合になります。少し極端な比較ですが、壁紙の色が濃ければ、左の機関車は背景に沈んでしまうでしょう。

 

 ところで、シマシマの向きは車両の中心に対して「山」形?それとも「谷」形でしょうか?

 元のモデルは「谷」でしたが、イギリス型はほぼ例外なく「山」のシェブロンです。当然ここもリペイントです。しかし立体的な部品に直接マスキングを施すのは大変なので、ここはアイデアで勝負しました。方眼紙上なら簡単かつ正確にマスキングの位置出しができます。

 採寸して型紙作り

 プラ薄板にトレースして切り出し

 黄色に塗装

 方眼紙に貼り付けてマスク塗装

 これを貼り付けます

 

【車体表記】

 車両番号表記は事業用車両に倣ったものとし、Windhoff MPVの1998年に初導入されたDR98901の一つ前を充てました。番号を表記することはモデルに命を吹き込むようで嬉しくなります。文字のフォントも同車を見本にしています。

 MPVはMultiple-purpose Vehicleの頭文字です。このモデルにも、Rail Head Polishing Vehicle(RHPV)の呼称を車体横にレタリングしました。

 

 次の写真は、MPVの4mmスケール(縮尺約1/76)のモデルです。直線で構成された、いかにもドイツ生まれの顔立ちです。レール表面の落ち葉清掃に活躍する姿は走る高圧洗浄機さながら。なかなかかっこいいですよ。ぜひリンクの動画もご覧になってください。

 

【環境配慮車】

 燃料タンクに「Kraftstoff 360l(燃料360リットル)」とドイツ語で書かれていたので英語表記に直しました。イギリスの機関車にはない表記なのでこれは架空です。架空ついでに、燃料は食用廃油のリサイクル品であると加えました。今こそSDG’sとして当然の取り組みですが、このモデルの設定時期である1998年以前ではまだ検証段階でしょう。排気ガスから、あの「揚げ物」の香りがしたらご愛敬です。

 なお、表記類はすべてラベルプリンター「テプラPro」で作りました。テプラはラベル作成に特化した事務用品で、パソコンで編集することでかなり自由なデザインで作成できます。透明なラベルを使うことで車体色を活かしたレタリングができますし、耐水性があるので屋外にも適しています。

 細かさの再現性について、LGBの縮尺(大抵は1/22.5)であれば、解像度が180dpiの通常機種でほぼ作成が可能です。しかしOHLEのみは、より細かい360dpiの機種が必要でした。

 余白をカットし、車の窓フィルムと同じ要領で、あらかじめ石鹸水を塗布して貼り付けます。爪楊枝をヘラ状に削ったバニッシャーを用意しておき、これで中心から外に向けて丁寧に慎重に擦って、少しずつ中の気泡と水分を追い出していきます。なお、地色の表面が光沢の方がきれいに密着できます。

 

【ホーン】

 イギリスでの汽笛は高低2種の音色で、長短のホーンが並んで設置されます。もちろん短い方が高音です。この音をむりやり文字に起こすと、

↑ペッ(高音)

↓プー(低音)

といった具合です。

 ところで、Class90やClass91機関車は長さの異なる3本のホーンが並んでおり、すべて個別ではなく高音側の2本は和音として吹鳴するようです。詳しい方いらっしゃいましたら、ぜひご助言いただけますと嬉しいです。

 

 モデルの屋根には、シングルのラッパ型ホーンが付いていたはずですが、無くなっていましたのでダブルタイプを新調。今回唯一の自作部品です。

 さて作るには面倒な形です。でもゴルフのティーのピンでは大きすぎ。適した代用素材が見つからず、結局タミヤのプラパイプ(外径8mm内径5mm)から作ることにしました。ロウソクで局所的に炙り、柔らかくなったところで引き伸ばします。そして冷えれば固まります。漏斗状になった部分を切り出すと、なんとかラッパの形になりました。広がった部分(ベルというそうです)について、断面の内側をドリル等で削り込んで縁を薄く見せると実感的。それっぽい台座を拵えると、なんとか恰好が付きました。

 炙り伸ばしの刑

 成功の陰には死屍累々

 らしくなってきました

 これならいいでしょう!

 

【チャールズ】

 運転室にはフィギュアが乗っています。赤シャツのだいぶチープな装いでしたので、命名に合わせて少し上品に着替えてもらいました。濃紺の帽子とズボンにマホガニー色のシャツ。そして上着のHigh visibility jacketは、British Railwaysのものを参考に、作業員ドレスコードに仕立てました。

 彼のこだわりは、磨き上げた靴と帽子のツバ。ここはメタルブラックを挿しました。乗せたらほとんど見えないですけどね。

Before   After

 

【Union Flag塗装】

 実物の車両には車体に国旗をあしらった例が多数あり、誇らしげにデザインの一部に取り入れる大胆なセンスが羨ましいです。以下にいくつか紹介しますが、著作権の都合からリンクが多くてごめんなさい。

Class47 163164580はシックに、Rail Blueと国旗の組み合わせ

AngliaカラーのClass86 227は小さめに

Class357EMUは窓を跨いで大胆に(PTS74055PTS74056

はためいたデザインのClass66 705

Platinum JubileeピンクのClass66 734

Claytonの入換機関車では、なんと国旗をナナメに切っています

Virgin Trainsは国旗半分を大胆に採り入れました

 

 さて、模型だって負けてはいられません。私なりのアレンジで、先頭のボンネット全体を国旗で包みました。格好良く仕上げるには、なにより塗り分けを乱さないこと。マスキングの「位置決め」のため、まずボンネットの「正確な」展開図をつくり、突起物の位置を記入します。これに塗り分け線をまっすぐ記入しました。

 一本の直線テープでズバッとマスキングしたいところですが、車体は何かとデコボコ。斜め線の塗り分けでは、これを越える度にギザギザになりずれが生じてしまいます。面倒ですが凹凸に合わせて分割してマスキングを行い、そのブロックごとに塗装を行います。結局、斜めの赤線を仕上げるのに7~8分割しました。この時に展開図が大変役立っています。

 細分化して塗装を進めます

 最後に、表記ラベルを含めてボディ全体を光沢クリアで保護しています。通常、鉄道模型では半光沢またはツヤ消しの方が落ち着くのですが、より実物サイズに近い大型模型ということで光沢仕上げとしました。屋外向けの模型ですし、なにより自然光の下でとても見映えがします。

 なお使用した色は、Platinum Jubilee Vanお砂糖入れと同じです。白部分はMr.カラーの品番1(原色白)をスプレー、赤部分はMr.カラーの品番3(原色赤)を3回、青部分はMr.カラーの品番328(ブルーFS15050)を2回刷毛塗りしています。

 

【ヨーロッパ式ヘッドライト】

 これは、モデルでは耐久性の理由から「できなかったこと」です。

イギリスでは蒸気機関車の時代が長かったためか、地下鉄ではない地上鉄道において前方を照らす「ヘッドライト」という考えは低く、車両の前面に掲げる灯火(または円盤などのマーク)類は、その取り付け位置により列車の種類を駅員などに知らせる「ヘッドコード」の役割がその元祖でした。

 現在では、高照度のライト類が装備され、「警戒色」と共に視認性に寄与する役割も担っています。これはヘッド、テール、マーカー合わせて7灯もしくは5灯(ヘッド・テールが切り替え式の場合)を装備しています。Class378などのOverground車両では、さらにトンネルライトがあります。

   Class333の例

Class378の例   

 現在の列車の灯火類について、Class333を例にしますと次の通りに点灯します。まず列車の前頭になる場合です。ヘッドライトのうち左右は昼夜で使い分け、進行方向右側の1灯を昼間用、進行方向左側1灯を夜間用として点灯します。イギリスは左側通行ですので、昼間用ヘッドライトは複線時における線路敷きの中心に近く、カーブなどでも地上作業員に早期に列車の接近を認知してもらえます。一方夜間用は線路施設(主に進行左側に設置されている)について運転士が認識しやすくするメリットに基づいています。左右のマーカーライトはヘッドライトと反対側を点灯させます。ハイレベルマーカーライトは、本線走行中は基本的に点灯です。

 整理しますと、昼間走行時は写真のa、c、eを。夜間走行時はa、b、fを点灯します。

 また側線などに停止中は、両側のマーカーライト(bとe)のみを点灯させておきます。列車の最後尾になる場合は両側テールライト赤色2灯(dとg)のみを点灯します。

 

【軸受けのペイント】

 このモデルには該当しない特徴ですが、かつてのイギリス車両に関するトリビアとして採り上げます。

 保存鉄道において、車軸受けのフタに、黄色または黄色に横赤線のペイントが施された車両を目にします。目立つこれは装飾ではなく、整備において使用する潤滑油脂を識別するマーキングです。黄色はローラーベアリングを装備した軸受けを表します。これに赤線が入ったものは、さらにリチウムグリスの使用が指定されているものです。やがてリチウムグリスが標準化されるとともに、これらの識別ペイントは不要となりました。

 

 さて、いかがだったでしょうか。

「イギリスらしい特徴は何?」と考証しますと、1台の車両を塗るだけでも色々な雑学にヒットします。これはフリーランスを仕立てる時に限らず、普通にキット作る時、完成品(Ready to Run)製品をカスタムする時など何にでも役立ちます。枝葉を広げると、お国柄、考え方、メカの仕組み、はたまたお金事情まで、興味深い回答に出会えます。

 

 

 最後に、久しぶりの参考図書の紹介です。イギリスの近代車両を読み解くのに必携となる本を、盛り沢山で紹介します。

 

【BRITISH RAILWAYS LOCOMOTIVES & COACHING STOCK】Platform 5発行

写っている手はご容赦を 

 イギリス国鉄(民営化以降はNational Rail)を走る機関車、電車、気動車、客車について、現有車両全ての基本性能、編成、車両番号、配置、カラーリングなどを極めて体系的にまとめた年鑑本です。代表車種のカラー写真も掲載されています。B6判ハードカバーの小型本ながら、初めて手にした方はその読み方で消化不良に陥るほど特濃な情報量です。

 刊行年により掲載車種に若干の差があり、今回の参考にした2021版にはレール上で作業するために付番された作業車「On-track Machines」がエキストラ収録されています。

 機関車のみ、電車のみ、といった分冊版が先行して発行されますが、やっぱり総合版の発行を待つのがベストでしょう。年々徐々に値上がりしてきて、ここ2~3年は爆発的に上昇。2023版では£32.97で、30年弱でなんと4倍!になってしまいました。

 

【TRACTION RECOGNITION Third Edition】Colin J. Marsden著 Ian Allan発行

 National Railを走行する機関車・電車・気動車・客車について、豊富なカラー写真により、車両概要の解説、詳細な性能諸元、運転台や外観・機器類のほか、省略されがちな中間車両もしっかり掲載しています。

 2007年に初版が発行されて以来、改訂版が2009年に、2011年にはSecond Editionが。しかし2014年のThird Editionが現時点での最新であり、最近の著しい世代交代を補完するのに「LOCOMOTIVES & COACHING STOCK」が必須となっています。

 

【Britain's Railway The Only Transport for the Future】

Colin Garratt著 Sunburst Books発行

 1993年に発行された、民営化が決定される直前の姿を大きな写真と共に紹介した一冊です。サービス内容を各セクションに分けて紹介しており、British Railの概要を一般向けの会社案内的にまとめた雰囲気ではありますが、Inter City、Network Southeast、Railfreight Distribution、European Passenger Service…どの車両もイギリスらしさを色濃く纏っていた当時を、これを眺めるたび思い出します。

 RRPが£4.99ですが、バーゲンで買っていますね。

 

【英国鉄道図鑑】各刊 英国鉄道研究会Double Arrow発行

・Vol.1 フラッグシップ列車編

・Vol.2 ロンドン地下鉄編

・Vol.3 直流電車編

・Vol.4 電気式気動車・バイモード車両編

・Vol.5A 交流・交直電車編:民営化後車両

・Vol.5B 交流・交直電車編:国鉄型車両

・Class66編

  これらは日本語で読める貴重な資料です。各クラスを網羅し、それぞれの歴史、諸元性能、外装の変遷、内装写真、編成イラスト、運行エリアなどを、豊富な写真と共に体系立てて徹底解説しています。車両解説以外にも、鉄道の歴史背景や動向、用語の解説も充実。特に、民営化後の複雑な経営形態を紐解くガイド役でもあります。読む・眺める両面から、現代のイギリスの鉄道を深堀りできる必携の各冊です。Vol.5Bから一部をご紹介します。

 Class332

     Class390

Class387 

 

 

 安物買いには福来たる。たかが塗り替えですが、2か月以上たっぷり楽しませてもらったモデルになりました。この「化けっぷり」に浸っていた時、同様にアメリカの「Union Pacific」風に変身させた作品をネットで見つけました。まずはリンクの動画をどうぞ!

 これが秀逸!見事なアメリカナイズです。UPという選択がベストですし、塗装だけでなく、迫力的な5連ホーン、交互に輝くディッチライト、そしてサウンドの演出まで徹底的に。世界は広いっす。それではまた!

こんにちは!

 今回、ひょんなこと(=衝動買い)から、LGBのレールクリーニングカーを入手しましたので、今回はそのお話です。食ネタご期待の方、すみません!

 

 鉄道模型の世界では、快適に運転を楽しむためにレール磨きは必須です。実物の鉄道では、車両が走るとレールの頭はピカピカになるのですが、模型ではその逆にどんどん汚れます。レールに電気を流すタイプであればこれは致命的。最悪、通電不良で途中で立ち往生です。

 盆栽ガーデン?  

 LGB(Lehmann Gross Bahn)は庭園鉄道の量販模型として世界に知られています。レールは堅牢で質実剛健。しかし屋外で走らせるぶん、室内よりレールの汚れは頑固で、地面に膝をついて磨くのは大変です。そこでレール表面をスポンジ砥石で磨くクリーニングカーが重宝するのです。

 LGB Catalogueより

↓活躍ぶりは動画でどうぞ↓

 

 事の始まりは、相場よりだいぶ安い中古品をネットで見つけたことです。写真・文章で見る限りは悪くなさそうだったので、ポチリ、後先考えず :D

 届いた商品を手に取って初めて理由がわかりました。なんとも油ギッシュ、もとい、オイルまみれ。横向きに長期間保管されていたのでしょう。過剰な注油はロクなことになりません。垂れたオイルが染みて車体片面の塗膜表面を侵していたのです。出品時に一応拭かれており、ネット画像では分からず。まったく世話の焼ける訳アリ品でした。

 

 届いたブツはペッタペタ…

 さて、この程度でめげていられません。

さすがドイツの老舗LGB、販売店や趣味団体のサイトには取説がアップされており、動画もいっぱいあります。どんな故障にも応えられるほど整備のヒントには困りません。早速、オーバーホール&洗浄に取り掛かりました。

 玉切れしていた電球はLEDに置き換えて、折れていた手すりを修理。ロストしているホーンの復元は後回しして全パーツを洗浄し組み立てると…おおっ、まるで新車のように生まれ変わりました。とりあえず片面だけね。;(

 自作のLEDユニット。長手が1cm強

下回りもピカピカに 

 

 このモデルは実物がないオリジナルタイプですが、ドイツ型製品の部品を流用して作られたゲルマンモデルです。

 残る片面のリカバリを思案中、やっぱり悪い虫が出てくるものです。イギリス型メインで行きたい私としては、これはイギリス型だよ!と言っても恥ずかしくないよう変身させたい!欲望に駆られました。新品なら躊躇しますが、ジャンクをいじるのに遠慮はいりません。大胆にオールペンを決行しました。

 なおレールクリーニングカーはかなりの振動を伴いますので、信頼性を考慮し基本的に塗り替えのみ。連結器なども既存製品のままとします。

 

流用元であるSchöma disellokと、その実物(LGB 1981 catalogueより)

 

 さて、面倒な製作記はヌキ!変身の様子をご覧ください!

 

 散らかし放題!

 大物部品たち

なくしたら大変だ 

  まず下地塗装

 メインはブルーとイエロー  展開図が肝です!

Masking is matter! 

うれしくなりますね 

手すりはイエローに 

 ラベルを付けて…

ストライプが完成 

ホーンも準備OK 

 いよいよアッセンブル

あと一息!

 

Rail Head Polishing Vehicle完成です!

  

   

はい、もう一度。元はこれです↑

 「塗り」だけでこれだけ変身しました!

 国鉄時代のイギリスの鉄道車両は、おおよそ自国内での製造で、形状・色合い共にヨーロッパ大陸型とは異なる独特のものを持っていました。しかし近年の車両は多くは輸入であり、各国メーカーの車両がそれぞれの特徴のまま、イギリス法規に準じたアレンジをなされて走っています。このモデルにも共通するところがあり、作成時にこれを感じながらアイデアを練っていました。

 イギリス車両の「あるある」を数々盛り付けることで、「いかにも」「それっぽく」見えます。しかしあれもこれも詰め込むのではなく、リアルさを持たせるためには根拠とその整合性が必要です。次回は、このモデルを「イギリス車両に見せるために加えたエッセンス」について書いていきます。ちょっとだけトリビアにお付き合いくださいませ。

それではまた!