こんにちは!

 前回は写真たっぷりめに、化け具合Before Afterをお届けいたしましたが、いかがだったでしょうか?

 引き続き、「イギリス車両に見せるためのエッセンス」を、このモデルを例に、製作風景も交えながら解説していきます。そして後半は、久しぶりに参考図書の紹介です。

では、さっそく!

 

【Yellow Warning Panels 黄色い顔】

 まずはこれは外せません。電車・ディーゼルカー、内燃機関車、電気機関車の前面の一部もしくは全体に入れられる警戒色で、1962年に試用されたのが始まりです。理由は、何と言っても接近する列車を遠方から発見しやすくする「視認性」に優れることで、線路保守等に携わる地上作業員にとても重要です。正確にはBS381C-356とコードされる「Golden Yellow」で、純粋な黄色よりはくすんでいます。

 近年「黄色い顔」でないイギリス車も登場してきましたが、これはヨーロッパ式ヘッドライト(後述)の普及に伴うもので、イギリスのRSSB(Rail Safety and Standards Board)が黄色顔を不要とする新基準を2016年に発行したことによります。しかし従来基準で登場する新型も依然として多く、安全に対する伝統の一つにもなっています。

Mark-4 DVT(右)はイギリスMetro-Cammell製。日立オリジンのClass800(左)は2019年登場ながら、「黄色い顔」を継承しています。

 

【青い車体とDouble Arrowマーク】

 これは1970年代から、イギリス国鉄が民営化となる前まで、電気機関車とディーゼル機関車の多くに採用されていた姿で、国鉄時代をイメージさせる代表的な塗装です。コードBS381C-114「Rail Blue」一色と矢印を図案化したマークとの組み合わせは、民営化による百華繚乱かつ前衛的なカラーである現在からは信じられないほどシンプルです。色褪せしにくい色味は合理化の産物とも言えますが、あえて現在もこの塗装を纏う車両もあるほど、一時代を象徴する姿としてファンの人気があります。

 モデルもこの姿を目指したのですが、国内製品の中に近似色のアクリル系スプレーが見つからず、異なること承知でタミヤカラーのTS-93「ピュアブルー」で塗装しました。前面のイエローも指定色より明るめで代用しています。

 

【Cant Rail】

 聞きなれない単語ですが、屋根との境界付近に配したオレンジの帯のことです。これは架線設備のある線路を走行する車両(当該区間を走るディーゼル車などにも適用。蒸気機関車と貨車を除くすべて)に義務付けられた、「頭上高圧電線注意」を示す作業者向けの注意喚起で、幅20~30mmの帯をホーム面から高さ約2.4mに配するよう規定されています。

 またCant Rail近傍には、OHLE(Overhead Line Equipment)の注意ステッカーが貼られます。

 Class800のCant Rail

現行OHLEステッカー(Class333) 

 

 モデルでは、屋根の前後の淵と運転室側面の上縁に1mm帯を巻き、OHLEは1998年まで使用された後期タイプのイナズママーク付きとしました。

 

 なお、窓上に配されるFirst classを示す黄色帯、食堂車を示す赤帯も「Cant Rail Banding」と称しますが、こちらは欧州のUICが1922年に規定した旅客向けの案内で、性格の異なるものです。イギリスでは、1920年にGreat Eastern railwayが、混雑の激しいリバプールエリアで、旅客誘導のため独自の形で採用していました。国有化後では、1959年のSouthernエリア向けに製造された電車から黄色帯を採用し、1963年までに一部車種を除きイギリス全土に展開されました。(筆者注:この識別帯による案内は、大陸内ではすでに定着していたため、渡航客が多い南部から開始したと推測)

 

【Wasp stripes(Chevron)】

 おなじみ、黄/黒の縞模様です。これを日本では「トラ」になぞらえますが、イギリスでは「スズメバチ」縞です。

 これは基本的に入換作業に従事する低速機関車の前面に施されます。一方、本線での高速車両は前述の黄色警戒色が施されます。速度の違いがその理由で、地上の作業者から見て、Wasp stripesは周囲の風景に溶け込みにくく、低速でも移動体として認識できること。その逆に黄色一色での警戒色は、高速での接近時に早期から(遠方でも)発見しやすいことにあります。

 なお両者をミックスしたケースも散見され、機関車ではClass03Class08Class14、電車ではClass502などに見られます。モデルでは「本線の使用がメインながら研磨作業時は低速」と想定し、ミックスとしました。

望遠レンズで見るとこんな具合になります。少し極端な比較ですが、壁紙の色が濃ければ、左の機関車は背景に沈んでしまうでしょう。

 

 ところで、シマシマの向きは車両の中心に対して「山」形?それとも「谷」形でしょうか?

 元のモデルは「谷」でしたが、イギリス型はほぼ例外なく「山」のシェブロンです。当然ここもリペイントです。しかし立体的な部品に直接マスキングを施すのは大変なので、ここはアイデアで勝負しました。方眼紙上なら簡単かつ正確にマスキングの位置出しができます。

 採寸して型紙作り

 プラ薄板にトレースして切り出し

 黄色に塗装

 方眼紙に貼り付けてマスク塗装

 これを貼り付けます

 

【車体表記】

 車両番号表記は事業用車両に倣ったものとし、Windhoff MPVの1998年に初導入されたDR98901の一つ前を充てました。番号を表記することはモデルに命を吹き込むようで嬉しくなります。文字のフォントも同車を見本にしています。

 MPVはMultiple-purpose Vehicleの頭文字です。このモデルにも、Rail Head Polishing Vehicle(RHPV)の呼称を車体横にレタリングしました。

 

 次の写真は、MPVの4mmスケール(縮尺約1/76)のモデルです。直線で構成された、いかにもドイツ生まれの顔立ちです。レール表面の落ち葉清掃に活躍する姿は走る高圧洗浄機さながら。なかなかかっこいいですよ。ぜひリンクの動画もご覧になってください。

 

【環境配慮車】

 燃料タンクに「Kraftstoff 360l(燃料360リットル)」とドイツ語で書かれていたので英語表記に直しました。イギリスの機関車にはない表記なのでこれは架空です。架空ついでに、燃料は食用廃油のリサイクル品であると加えました。今こそSDG’sとして当然の取り組みですが、このモデルの設定時期である1998年以前ではまだ検証段階でしょう。排気ガスから、あの「揚げ物」の香りがしたらご愛敬です。

 なお、表記類はすべてラベルプリンター「テプラPro」で作りました。テプラはラベル作成に特化した事務用品で、パソコンで編集することでかなり自由なデザインで作成できます。透明なラベルを使うことで車体色を活かしたレタリングができますし、耐水性があるので屋外にも適しています。

 細かさの再現性について、LGBの縮尺(大抵は1/22.5)であれば、解像度が180dpiの通常機種でほぼ作成が可能です。しかしOHLEのみは、より細かい360dpiの機種が必要でした。

 余白をカットし、車の窓フィルムと同じ要領で、あらかじめ石鹸水を塗布して貼り付けます。爪楊枝をヘラ状に削ったバニッシャーを用意しておき、これで中心から外に向けて丁寧に慎重に擦って、少しずつ中の気泡と水分を追い出していきます。なお、地色の表面が光沢の方がきれいに密着できます。

 

【ホーン】

 イギリスでの汽笛は高低2種の音色で、長短のホーンが並んで設置されます。もちろん短い方が高音です。この音をむりやり文字に起こすと、

↑ペッ(高音)

↓プー(低音)

といった具合です。

 ところで、Class90やClass91機関車は長さの異なる3本のホーンが並んでおり、すべて個別ではなく高音側の2本は和音として吹鳴するようです。詳しい方いらっしゃいましたら、ぜひご助言いただけますと嬉しいです。

 

 モデルの屋根には、シングルのラッパ型ホーンが付いていたはずですが、無くなっていましたのでダブルタイプを新調。今回唯一の自作部品です。

 さて作るには面倒な形です。でもゴルフのティーのピンでは大きすぎ。適した代用素材が見つからず、結局タミヤのプラパイプ(外径8mm内径5mm)から作ることにしました。ロウソクで局所的に炙り、柔らかくなったところで引き伸ばします。そして冷えれば固まります。漏斗状になった部分を切り出すと、なんとかラッパの形になりました。広がった部分(ベルというそうです)について、断面の内側をドリル等で削り込んで縁を薄く見せると実感的。それっぽい台座を拵えると、なんとか恰好が付きました。

 炙り伸ばしの刑

 成功の陰には死屍累々

 らしくなってきました

 これならいいでしょう!

 

【チャールズ】

 運転室にはフィギュアが乗っています。赤シャツのだいぶチープな装いでしたので、命名に合わせて少し上品に着替えてもらいました。濃紺の帽子とズボンにマホガニー色のシャツ。そして上着のHigh visibility jacketは、British Railwaysのものを参考に、作業員ドレスコードに仕立てました。

 彼のこだわりは、磨き上げた靴と帽子のツバ。ここはメタルブラックを挿しました。乗せたらほとんど見えないですけどね。

Before   After

 

【Union Flag塗装】

 実物の車両には車体に国旗をあしらった例が多数あり、誇らしげにデザインの一部に取り入れる大胆なセンスが羨ましいです。以下にいくつか紹介しますが、著作権の都合からリンクが多くてごめんなさい。

Class47 163164580はシックに、Rail Blueと国旗の組み合わせ

AngliaカラーのClass86 227は小さめに

Class357EMUは窓を跨いで大胆に(PTS74055PTS74056

はためいたデザインのClass66 705

Platinum JubileeピンクのClass66 734

Claytonの入換機関車では、なんと国旗をナナメに切っています

Virgin Trainsは国旗半分を大胆に採り入れました

 

 さて、模型だって負けてはいられません。私なりのアレンジで、先頭のボンネット全体を国旗で包みました。格好良く仕上げるには、なにより塗り分けを乱さないこと。マスキングの「位置決め」のため、まずボンネットの「正確な」展開図をつくり、突起物の位置を記入します。これに塗り分け線をまっすぐ記入しました。

 一本の直線テープでズバッとマスキングしたいところですが、車体は何かとデコボコ。斜め線の塗り分けでは、これを越える度にギザギザになりずれが生じてしまいます。面倒ですが凹凸に合わせて分割してマスキングを行い、そのブロックごとに塗装を行います。結局、斜めの赤線を仕上げるのに7~8分割しました。この時に展開図が大変役立っています。

 細分化して塗装を進めます

 最後に、表記ラベルを含めてボディ全体を光沢クリアで保護しています。通常、鉄道模型では半光沢またはツヤ消しの方が落ち着くのですが、より実物サイズに近い大型模型ということで光沢仕上げとしました。屋外向けの模型ですし、なにより自然光の下でとても見映えがします。

 なお使用した色は、Platinum Jubilee Vanお砂糖入れと同じです。白部分はMr.カラーの品番1(原色白)をスプレー、赤部分はMr.カラーの品番3(原色赤)を3回、青部分はMr.カラーの品番328(ブルーFS15050)を2回刷毛塗りしています。

 

【ヨーロッパ式ヘッドライト】

 これは、モデルでは耐久性の理由から「できなかったこと」です。

イギリスでは蒸気機関車の時代が長かったためか、地下鉄ではない地上鉄道において前方を照らす「ヘッドライト」という考えは低く、車両の前面に掲げる灯火(または円盤などのマーク)類は、その取り付け位置により列車の種類を駅員などに知らせる「ヘッドコード」の役割がその元祖でした。

 現在では、高照度のライト類が装備され、「警戒色」と共に視認性に寄与する役割も担っています。これはヘッド、テール、マーカー合わせて7灯もしくは5灯(ヘッド・テールが切り替え式の場合)を装備しています。Class378などのOverground車両では、さらにトンネルライトがあります。

   Class333の例

Class378の例   

 現在の列車の灯火類について、Class333を例にしますと次の通りに点灯します。まず列車の前頭になる場合です。ヘッドライトのうち左右は昼夜で使い分け、進行方向右側の1灯を昼間用、進行方向左側1灯を夜間用として点灯します。イギリスは左側通行ですので、昼間用ヘッドライトは複線時における線路敷きの中心に近く、カーブなどでも地上作業員に早期に列車の接近を認知してもらえます。一方夜間用は線路施設(主に進行左側に設置されている)について運転士が認識しやすくするメリットに基づいています。左右のマーカーライトはヘッドライトと反対側を点灯させます。ハイレベルマーカーライトは、本線走行中は基本的に点灯です。

 整理しますと、昼間走行時は写真のa、c、eを。夜間走行時はa、b、fを点灯します。

 また側線などに停止中は、両側のマーカーライト(bとe)のみを点灯させておきます。列車の最後尾になる場合は両側テールライト赤色2灯(dとg)のみを点灯します。

 

【軸受けのペイント】

 このモデルには該当しない特徴ですが、かつてのイギリス車両に関するトリビアとして採り上げます。

 保存鉄道において、車軸受けのフタに、黄色または黄色に横赤線のペイントが施された車両を目にします。目立つこれは装飾ではなく、整備において使用する潤滑油脂を識別するマーキングです。黄色はローラーベアリングを装備した軸受けを表します。これに赤線が入ったものは、さらにリチウムグリスの使用が指定されているものです。やがてリチウムグリスが標準化されるとともに、これらの識別ペイントは不要となりました。

 

 さて、いかがだったでしょうか。

「イギリスらしい特徴は何?」と考証しますと、1台の車両を塗るだけでも色々な雑学にヒットします。これはフリーランスを仕立てる時に限らず、普通にキット作る時、完成品(Ready to Run)製品をカスタムする時など何にでも役立ちます。枝葉を広げると、お国柄、考え方、メカの仕組み、はたまたお金事情まで、興味深い回答に出会えます。

 

 

 最後に、久しぶりの参考図書の紹介です。イギリスの近代車両を読み解くのに必携となる本を、盛り沢山で紹介します。

 

【BRITISH RAILWAYS LOCOMOTIVES & COACHING STOCK】Platform 5発行

写っている手はご容赦を 

 イギリス国鉄(民営化以降はNational Rail)を走る機関車、電車、気動車、客車について、現有車両全ての基本性能、編成、車両番号、配置、カラーリングなどを極めて体系的にまとめた年鑑本です。代表車種のカラー写真も掲載されています。B6判ハードカバーの小型本ながら、初めて手にした方はその読み方で消化不良に陥るほど特濃な情報量です。

 刊行年により掲載車種に若干の差があり、今回の参考にした2021版にはレール上で作業するために付番された作業車「On-track Machines」がエキストラ収録されています。

 機関車のみ、電車のみ、といった分冊版が先行して発行されますが、やっぱり総合版の発行を待つのがベストでしょう。年々徐々に値上がりしてきて、ここ2~3年は爆発的に上昇。2023版では£32.97で、30年弱でなんと4倍!になってしまいました。

 

【TRACTION RECOGNITION Third Edition】Colin J. Marsden著 Ian Allan発行

 National Railを走行する機関車・電車・気動車・客車について、豊富なカラー写真により、車両概要の解説、詳細な性能諸元、運転台や外観・機器類のほか、省略されがちな中間車両もしっかり掲載しています。

 2007年に初版が発行されて以来、改訂版が2009年に、2011年にはSecond Editionが。しかし2014年のThird Editionが現時点での最新であり、最近の著しい世代交代を補完するのに「LOCOMOTIVES & COACHING STOCK」が必須となっています。

 

【Britain's Railway The Only Transport for the Future】

Colin Garratt著 Sunburst Books発行

 1993年に発行された、民営化が決定される直前の姿を大きな写真と共に紹介した一冊です。サービス内容を各セクションに分けて紹介しており、British Railの概要を一般向けの会社案内的にまとめた雰囲気ではありますが、Inter City、Network Southeast、Railfreight Distribution、European Passenger Service…どの車両もイギリスらしさを色濃く纏っていた当時を、これを眺めるたび思い出します。

 RRPが£4.99ですが、バーゲンで買っていますね。

 

【英国鉄道図鑑】各刊 英国鉄道研究会Double Arrow発行

・Vol.1 フラッグシップ列車編

・Vol.2 ロンドン地下鉄編

・Vol.3 直流電車編

・Vol.4 電気式気動車・バイモード車両編

・Vol.5A 交流・交直電車編:民営化後車両

・Vol.5B 交流・交直電車編:国鉄型車両

・Class66編

  これらは日本語で読める貴重な資料です。各クラスを網羅し、それぞれの歴史、諸元性能、外装の変遷、内装写真、編成イラスト、運行エリアなどを、豊富な写真と共に体系立てて徹底解説しています。車両解説以外にも、鉄道の歴史背景や動向、用語の解説も充実。特に、民営化後の複雑な経営形態を紐解くガイド役でもあります。読む・眺める両面から、現代のイギリスの鉄道を深堀りできる必携の各冊です。Vol.5Bから一部をご紹介します。

 Class332

     Class390

Class387 

 

 

 安物買いには福来たる。たかが塗り替えですが、2か月以上たっぷり楽しませてもらったモデルになりました。この「化けっぷり」に浸っていた時、同様にアメリカの「Union Pacific」風に変身させた作品をネットで見つけました。まずはリンクの動画をどうぞ!

 これが秀逸!見事なアメリカナイズです。UPという選択がベストですし、塗装だけでなく、迫力的な5連ホーン、交互に輝くディッチライト、そしてサウンドの演出まで徹底的に。世界は広いっす。それではまた!