トランプ訪中と米中首脳会談の衝撃 - 9年続いた新冷戦戦略が挫折と破綻 世に倦む日日 2026年5月19日 12:21
5/13 から 5/15 までトランプの訪中があり、世界中が見守る中、5/14 に北京で首脳会談が開催された。驚くような結果となり、世界政治の大きな転換点になるのではという見方が支配的になっている。テレビの報道番組に定番出演してギャラ稼ぎを貪っている者たちの、栄耀栄華の立場が危うくなり、イデオロギー的存立基盤が崩壊しようとしていると言っても過言ではない。
5/14 の朝、晴れた初夏の北京人民大会堂前で、首脳会談前の歓迎式典が壮麗に行われた。週末、何度もその映像がテレビで流れたが、非常に印象深い光景だったので、そこから感想を書かないといけない。NHKとテレ朝が生中継していた。トランプは上機嫌だった。儀仗隊を観閲して前へ進み、赤い絨毯を右に折れると、花束を持った子どもたちが飛び跳ねて熱烈歓迎する演出があり、トランプが歩行を止め、喜色満面の様子で子どもたちに拍手を送る場面があった。演出がトランプの心を捉えた。
トランプは首脳会談冒頭の挨拶でこう言っている。「まず第一に、これほどまでに素晴らしい歓迎を受けたことは、これまでほとんどありませんでした。そして、特にあの子どもたちに感銘を受けました。幸せそうでしたし、本当に愛らしかったです」。79歳のトランプは、孫のような年齢の子どもたちが夢中で歓迎する姿に感激していた。その前夜、北京空港に降り立ったとき、似たような少年少女の集団による歓迎演出があり、滑走路に止めた専用車ビーストの中からもしばし眺め、心を奪われていた。
この景観こそトランプの理想なのだ。このように大国のトップが歓待され、接遇する政治と外交のプロトコル(北朝鮮型全体主義)こそ、トランプが憧れる理想の境地であり、求めてやまない趣味的世界なのだ。トランプはDCで軍事パレードを実施したいと発念し、中途半端な形式だったが軍隊の行進を催した。本心は、中国や北朝鮮のように本格的に武器を並べて誇示したかったのだろう。
人にはそれぞれ価値観と世界観があり、あるべき政治像がある。それを理想とか理念の語で呼ぶのが正しいかどうか迷うが、トランプにとっての理想の指導者と国家の姿は、独裁者の習近平と「権威主義国家」の中国が最も地上で近く、トランプにとって尊敬するべき政治的対象なのだ。だからこそ、今回の北京で、習近平を前に、何度も何度も「偉大だ」とか「素晴らしい」の絶賛の言葉が飛び出すのである。
簡単に言えば、トランプはアメリカを中国と同じモデルの国にしたいのだ。今回の首脳会談の結果が、世界にとって前向きな方向に展開した意味や背景を考えるに当たっては、トランプの独特の個性と嗜好(全体主義への憧憬)の所在を見逃せない。これは政権の中で本人だけの特別な資質で、他の閣僚にはない。政権メンバーは全員が猛毒の反共右翼であり、MAGAであれネオコンであれ凶暴な反社会主義である属性は同じだが、なぜかトランプは北朝鮮型の独裁制が好みなのであり、その統治様式に惹かれているのだ。
生中継された首脳会談冒頭での二人のスピーチは対照的だった。何度もテレビで紹介され解説されたが、習近平の挨拶は、現在の国際政治と緊張する米中関係を踏まえた上での、入念に練られた中国側のメッセージの発信であり、中国が考える対米外交のコンセプトとドクトリンが簡潔に提示されたものだ。国内向けだけでなく、アメリカ国民と世界の市民に向けて発された演説であり、聞き応え十分の価値ある内容だった。
注目されたのは「トゥキディデスの罠」の概念を持ち出して説得した点で、この言説は、従来、アメリカ側が中国と対決する新冷戦戦略を定義するに当たって仕掛けてきた理論に他ならない。提唱したのはG.アリソンで、ベストセラーとなった著書『米中戦争前夜』に書かれている。古代ギリシャの歴史をアナロジーにして、いかにアメリカが覇権国家の地位を守り抜き、中国による覇権交代を阻止すべきかの戦略論が講釈されている。2017年に日本でも出版され、大いに話題になり、マスコミでも議論されて一般に熟知されたセオリーだ。
2018年のペンス演説を画期として始まる米中新冷戦の時代は、このアリソンの所論をベースにアメリカが新しい国家安保戦略を打ち出し、中国に対して封じ込め攻勢をかけ続けた期間であり、”デカップリング”とか”台湾有事”とか、米中新冷戦を象徴する問題系は、すべてアリソンの命題と指南から始まる。アリソンが概念を開発し、ナイが戦略を考案し、CIA軍産複合体が政策方針を具体化してここまで推進した。いわば新冷戦のイデオロギーの根幹教理であり、アメリカの新冷戦戦略を合理化し、さらに外交上のソフトパワー兵器として駆使された教化言説である。
今回、中国側はそれを逆手に取り、「トゥキディデスの罠」論で導出されたところの、米中二国間の対立闘争関係の必然性を否定し、その認識を首脳会談で止揚する外交反撃に出た。そしてそのリターンを成功させ、アメリカの新冷戦戦略を挫折の淵に追い込んだと言える。日本のテレビのレギュラーであるCIA工作員もどき(日米安保で飯を食う専門家)たちのコメントがその真実を証明していた。
習近平の演説は、周到に練られた有意味な外交の一手だった。それに対してトランプの言葉は、まるで気品と風格がなく、知性も教養も感じさせない低俗なトークで、ただひたすら習近平を持ち上げておべんちゃらを熱弁し、気分よくさせて、皇帝様から朝貢貿易の返礼品を下賜してもらおうという卑屈な態度に終始していた。トランプの挨拶は、国家の指導者の言葉ではなく、営業マンのセールストークに過ぎず、プロポーズを試みる習近平だけが眼中にあり、世界からの視線は関心の外だった。習近平の歓心を買うことだけに必死の様子だった。
同時通訳の中継を見ていて、率直に両者の格の違いを感じさせられた。あれほど露骨にアメリカ大統領から阿諛を言われ、媚びへつらいを重ねられたら、皇帝の習近平もさぞかしこそばゆい思いだっただろう。人民大会堂での中国とアメリカの関係は、中国が上でアメリカが下という立場と位置が明瞭だった。そこには理由があり、アメリカの方に中国に下手に出る必要があり、中国に対して(嘗てのブリンケンのように)高圧的に出られない事情があった。
アメリカと中国の二国間の最新の現状を整理すると、対立闘争関係に入った場合、悉くアメリカ側に不利な状況と構図になっている。通商の面では、トランプが発動した制裁関税はアメリカの最高裁で却下の判決が出る経緯となっており、中国を脅迫したり強制服従させる道具として使えない。無力化されている。逆に、レアアースとレアメタルの供給でアメリカは中国に急所を握られた境遇にあり、輸出禁止を受けるとミサイルなど最先端の武器製造が困難に陥ってしまう。
また、エヌビディアのAI半導体についても、以前は中国はAI開発のためにその入手を渇望していて、中国を揺さぶる通商カードとして機能していたところが、今は中国は自力内製に自信をつける段階に至り、エヌビディアの製品を必要としなくなった。今年1月、当局はアリババやバイトダンスなどの国内主要テック企業に対し、エヌビディア製半導体の発注を取り消し、ファーウェイ等国産半導体への転換を推奨する通達を出している。最早、通商関係で、アメリカは中国をコントロールし屈服させる材料や要件を持たない。
安保外交の面においても、無謀に始めたイラン戦争が泥沼化してアメリカは苦境に陥っており、中国に対して優勢に押せる立場にない。トランプは、膠着したイラン戦争を打開する窮余の策として、中国がアメリカの意向を汲んでイランを説得し、イランがアメリカとの和平合意(ホルムズ海峡を開放して核開発を放棄する)に折れる図を模索したようだ。が、それは誰が考えても甘い見通しで、身勝手なトランプの妄想である。
アメリカの中にいて、アメリカの報道と世論の環境に毎日埋まっていると、大統領でもそんな妄想がリアルに思えて来るのだろうか。ニューヨークタイムズやWSJの記事を見ると分かるが、恐ろしいほどの偏向と歪曲に溢れていて、戦局を客観視できてない。3月末の予定だった首脳会談を5月に延期したとき、トランプの頭の中では4月中に戦争を決着させて始末をつける目算だったはずだし、それが十分可能と判断し、イラン戦争に勝利した凱歌を北京で上げて力を誇示する思惑だったに違いない。だが、事態は逆に進み、西側同盟国もイラン戦争ではアメリカに同調せず反目が露わとなり、グローバルサウス諸国のアメリカ離れに拍車がかかる潮流が固まっている。
米中首脳会談はアメリカの大きな敗北だったと総括する声が多い。そのような勝ち負けの判定論に意味はないが、中間選挙を控えたトランプの抱えるハンディ(不利な前提条件)があまりに重いため、習近平と互角あるいは優位に対論を組む関係を作れず、結果的に台湾問題で一方的に押し込まれる進行にならざるを得なかったと、そう分析できるだろう。トランプは、北京に飛ぶ前に、習近平は台湾への武器売却について議論する構えであり、こちらも議論に応じると発信していた。
日本のCIA工作員たちが目を剥き血相を変えるところの、神聖な「6つの保証」の違約であり台湾への背信だが、その立場(の変更)を堂々とマスコミの前で表明した。中国側との事前調整で、首脳会談での当該問題の議題設定を合意したからだろう。会談後のFOXとのインタビューでは、アメリカが軍事介入するには台湾は遠すぎると言い、台湾有事への不関与の持論をあらためて揚言し、自分と習近平が指導者でいる間は台湾有事は起きないとコミットしている。この態度表明が、中国側の言葉では「建設的戦略安定関係」である。新しい関係が定立された。
アメリカ側の公式発表には「建設的戦略安定関係」の文言はない。が、5/15 の中南海でのお茶会の席で、習近平自身がマスコミの質問に答え、「建設的戦略安定関係で合意した」と明言する場面が映った。トランプも同席の場で習近平の口から直接出ているから、この事実は重い。否定できない。9/24 の習近平訪米の席では共同発表で確定されるだろう。この結果を受けて、日本のマスコミ論壇はショックで大騒ぎとなり、顔面蒼白となって深刻なコメントを吐いている。
本当に、どれもこれも、どいつもこいつも、親米盲従・対中戦争推進派の醜悪なプロパガンダ屋ばかり。日米同盟体制とはこれだという顔ばかりが並び、滅茶苦茶な中国ヘイトを喚き散らしている。誰を取り上げてどう批判すればよいかも分からない。今、アメリカの中も混乱しているだろう。中林美恵子は 5/17 の日曜討論で、「アメリカはオバマ時代のエンゲージメント戦略に戻るだろう」と予測を述べていた。新冷戦戦略は中止になるという見立てだ。9年続けた新冷戦戦略は終焉を迎えるかもしれない。
私はその予想にまだ懐疑的で、トランプ政権の中でも、DCの中でも、巻き返しとバックラッシュは大いにあると観測する。そもそも「関与とヘッジ」のエンゲージメント戦略が奏功しなかったから、ヨリ過激で攻撃的な新冷戦戦略で封じ込めを狙ったのだった。つまり、エンゲージメント戦略で中国を共産党体制から自由民主体制に移行・脱皮させるつもりが、全くそうならず、取らぬ狸の皮算用となり、共産党体制のままで中国が発展と強大化を続けたため、アリソン&ナイの新冷戦戦略にモデルチェンジしたのだった。
中国は20年前の中国ではない。国力のレベルとスケールが違う。もし新冷戦戦略が破綻したのだと正直に認めるのなら、共産中国の存在を正しく認めた上で米中の平和共存のあり方を追求し、新しい関係を定義するべきだろう。反共イデオロギーを止揚した世界観を定置する必要があるだろう。最後に、今回の米中首脳会談は、新冷戦が崩壊する福音をわれわれに伝え、明るい希望を持たせてくれたが、その原動力となり土台となったのはイランである。
イランがアメリカの侵略戦争に屈服しなかったから、よく耐えて反撃し膠着状態に持ち込んだから、トランプの立場を追い詰め、米中首脳会談で譲歩せざるを得ない地平に立たせた。イランの抵抗を称えたい。
関連記事
米国はロシア、イラン、そして中国に敗北したことを認められない人びと(櫻井ジャーナル)
本日のワーカーズブログ
























