【158】からのつづき
長瀞蔵を出て、駐車場の向かいにあるこちらに立ち寄ってみる。
今から280年ほど前に建てられたとされる国の重要文化財「旧新井家住宅」。
長瀞を何度も訪れたことがあるにもかかわらず、存在すら知らなかった重要文化財に立ち寄ることができたのは、藤﨑摠兵衛商店さんを訪問したおかげ。
かつて秩父地方で多く見られた養蚕農家の姿をよく表しているという建物は、重ねた薄い栗板の上に石を載せて押さえる板葺き屋根が特徴で、屋根裏の母屋竹をアケビのツルで結んでいる。

1階部分は「へや」(寝室)、「でえ」「おくのでえ」(応接間)、「ざしき」(生活スペース)、「でえどこ」(台所)、「じがらば」(米や麦を臼でつく場所)で構成されており、内部に入ることもできる。

私の他に見学者はなく、庭のベンチに腰掛けて建物を眺めていると、いつまでも佇んでいたいような、ゆったりした心持ちになってくる。
不思議なことに、電車を降りてから間断なく吹いていた強風がこの場所だけ止んでおり、フリースの上に着ていたダウンのジャンパーを脱いでちょうどいい。
裏手に回ってみると、住宅を囲むように植えられた竹がしなりながら強風を上空にいなしており、だから穏やかな空間が保たれているのだと知る。

いつまでものんびりしていたいが、そろそろ腹が減ってきた。
いい時間を過ごすことができたことに感謝しながら、寒風吹きすさぶ駅への坂道を下った。
(つづく)