【20】からのつづき
ホテルの大浴場で手足を伸ばして、ゆっくり体を温めてからフロントに立ち寄り、うまい肴で一杯やれそうな店を尋ねる。
聞けば近くに網元直営の居酒屋があるとのことで、これは期待できる。
急いで上着を羽織り、ロクに髪も乾かさずに教えてもらった店に足早に向かう。
店の前で足を止め、息を整えてから戸をひくと、すでに店内は賑わっており、空いている席にも鍋の用意などがされていて、これは無理そう。
板場に立つ女将さんらしき方と目が合ったので、人差し指を立てて一人である旨を伝えると、手を合わせ頭を下げて断られる。
さて、どうしたものか。午後6時半を過ぎ、寒風の吹き始めた佐渡・両津の繁華街で、思案しながらあてもなく通りを進む。
湯上がりなので、とりあえず渇いた喉と体を癒したい。
しばらく進むとブロックの角に「ハズレ」の雰囲気が店外からでも判る居酒屋があり、一瞬躊躇したものの、喉と体を潤すだけが目的なので、作戦を立て直しがてら1,2杯飲んだら出ればいいと考えながら中に入ると、予想通りのアレな感じで、余計なことを考えないようにと自分に言い聞かせて、お通しの煮物でレモンサワーを一気に流す。
次の一杯を済ませたら店を出たいので早く頼みたいが、他に客が4人しかいないにもかかわらず、「注文は少し待ってて」、と告げられ暫く放置されていたので、無礼かなぁと思いながらも「私も同じで」と、他の客の注文に相乗りする形で、熱燗とツブ貝をお願いする。
熱燗は、表の看板の店名に添えられていた天領杯らしく普通にうまい。ツブ貝は、大振りなものが丼に10粒も盛られており豪快。
お会計を済ませ、先ほど来た道を戻りながら、さて本番はどこの店でやろうかなぁ、と思いながらガイドブックにも載っていた寿司屋の店外に掲げられたメニューを眺める。
うまそうで豊富なメニューが並び値段もお手頃、表にも人が待っていて、はやっていることがおのずとわかる。
と、メニューをじっくり読んでいた私に、夫婦らしき2人連れが「おいしくて、とてもいい店ですよ」と話しかけてくださる。
「大人気みたいですから、今から予約なしでは難しいですかね」と言う私に、お2人は「今、われわれが出て席が空いたから大丈夫じゃないかなぁ」とおっしゃる。
入店待ちだと思っていた2人は、会計をしている連れを待っていた食後の客で、ありがたく助言に従って店内に入ると、カウンター席に案内される。
先ほどの店で大量のツブ貝を肝まで食べて口の中が磯の香りまみれになったので、一旦爽やかな飲み物でリセットしようと、翠ジンソーダを頼んで、突き出しの揚げ出し豆腐と刺身盛り合わせで、今夜の独り宴会リスタート。