(【3】からのつづき)
乗り込んだ8111編成の8211号車は1963年製造のモーター付き車両で、車端部に座って乗り心地とサウンドを満喫。
客室ドアの内側は、かつてのボディーカラーに似たベージュに塗られ、一部のドア上には非開扉知らせ灯と案内表示が残る。


3年前に高架化され、この3月に駅舎・ホームの全面供用が開始される野田市駅の配線などを眺めるべく編成最後尾に向かうと、昔ながらの運転台越しに真新しい路盤が後ろに流れていくのが見える。

高架からキッコーマンの工場を眺めながら野田市の街をあとに、単線区間を快走して柏から約45分で春日部に到着。
本来ならここで乗り換えるところだが、せっかく8111編成に乗ることができたので、このまま大宮まで乗り通すことにした。
春日部~大宮間は複線区間なので行き違い待ちもなく、製造から60年を経てなお健脚ぶりを感じさせるベテラン車両の走りを味っていると、床下から「パシャーー」と非常ブレーキが扱われた音がして急停車。
停止までの間に通過した踏切で、遮断棹の向こう側に出て行く男性の姿が見えたので、恐らく踏切遮断後の残留に伴う障害物検知装置動作による非常停止だろうと思っていると、「踏切内に自転車がいたため、安全確認を行います」との車内放送が流れ、現場で6分ほど停車したのち運転再開。
再開後は、心なしか遅れを取り戻すかのように先ほどに増して元気な走りになり、駅に着くたびに床下から上がってくる制輪子(ブレーキパッド)の熱を帯びた匂いも強く感じられる。
東武鉄道8000系は、同時期以降に製造された車両には通常装着されている発電制動(電制=クルマのエンジンブレーキのようなもの)が付いておらず、樹脂製の制輪子が車輪を押さえつける力だけで減速する。
その際に発せられる独特の匂いが、駅でドアが開くたびに車内に漂ってきて、8000系に乗ってるとの実感が高まる。
その匂いを適切な言葉に置き換える自信はないが、高校時代に親友が「にがい」と表現した時は膝を打った。
途中、踏切での緊急停車があったため所要時間が5分ほど延び、柏から1時間15分で大宮到着。

遅れて到着した8111編成は、前後の乗務員さんが入れ替わると、すぐに春日部行きとして発車していった。
(つづく)