V8で伊香保1本 | 酔いどれパパのブログ

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「お風呂」と「酒」と「路線バス」に関する駄文を書き連ねております。

(前ページからのつづき)

伊香保温泉から下りてきたV8キュービックが、このまま乗り場に移動すれば予想通り1往復楽しめるが、「回送」の表示に変わって営業所に向かってしまえばジ・エンド。


幸い、「伊香保温泉」に行き先表示が切り替わり、渋川駅前に野太いアイドル音を振りまきながら最終便の客を待つ体制に入ってくれた。

欣喜雀躍してM君と乗り込み、エンジン音と振動を楽しむべく最後部に陣取る。

もしかしたらわれわれの貸切かもなぁと思っていると、どこから現れたのか、発車時刻直前に若者11人組が乗り込んできて車内中ほどに座る。

折り戸タイプの後ろドアが閉まって、渋川駅前の交差点を右折、地酒屋ぽんさんの前を通り伊香保温泉を目指す。

キュービックに積まれた8PE1エンジンのサウンドは個体差が大きく、比較的大人しいものもあるが、乗り込んだクルマは1600回転ぐらいからダイナミックな重低音を響かせ、われわれを喜ばせる。

「このエンジンは当たりだぜぇ」。「紅の豚」に出てくるピッコロ爺さんの台詞を思い出しながら、最後になるかも知れない関越交通V8キュービックでの登攀サウンドに酔いしれる。

若者11人組は、女子7人が思いのままに座って会話を楽しむ一方、男子4人は2列にまとまって行儀よく座り押し黙っている。

学生サークルか会社の研修グループか知らないが、男女の活発度合の違いは人数の差だけが理由ではないように思えてくる。

もっとも、「男女の」という捉え方自体が、無駄に元気な若者だった昭和おじさんの時代外れな物の見方ということになるのだろう。

ひたすら続く上り坂を8PE1エンジンのトルクの太さを感じさせる安定走行で登り切り、渋川駅から約20分で伊香保温泉バスターミナル到着。

ここで下車し、榛名の山あいにV8サウンドを轟かせながら、ひとつ先の伊香保温泉終点に向けて登っていくキュービックの姿を地上から眺める。

バスの去ったターミナルで余韻に浸っていると、ほどなくキュービックが戻ってきて渋川駅行きとして乗り場に入る。

終点ひとつ手前の停留所が復路の始発地になる運用は珍しいが、これは昼間に運行されている伊香保温泉エリアを巡るバスとの接続を考慮したものかと思われる。

すぐに発車なので急いで乗り込み、先ほどとは違う席に座って今度は下りの乗り心地を楽しむ。

伊香保温泉バス停からホテル木暮の脇の急勾配をよく利く排気ブレーキで運動エネルギーを押しとどめながら、時速20キロぐらいで慎重に降りてゆく。

帰りはわれわれの他に客はなく、車内の雰囲気をしっかり目と胸に焼き付ける。
渋川駅が近づき、地酒屋ぽんさんの方に目をやると、ご主人が手を振ってくれている。

駅前に到着しドアが開いて、最終バスでの伊香保温泉着発の旅が終了。

趣味のことで仕事中の人にモノを尋ねるのは気がひけるが、このタイプのバス(キュービック)が何台残っているかをドライバーさんにうかがうと、「渋川には2台」とのこと。

風前の灯だと感じてはいたが、もう2台まで減ったのかと思うと、V8天国だった2年前までの渋川の風景が遠い昔のように思われてくる。

それだけに、今回乗ることができた幸運には感謝したい。そんな気持ちを携えて、M君とともに地酒屋ぽんに引き返し祝杯をあげた。
(つづく)